SUMAU'S SCENE
17世紀・英国ルネサンス様式の洋館
旧岩崎邸庭園を訪ねる
上野・不忍池界隈にある旧岩崎邸園。三菱創設者・岩崎家の本邸として建てられ、庭園内には、明治29年に建てられた洋館、撞球室(ビリヤード場)、和館の3つの建物が現存しています。なかでもゲストハウスとして使用された洋館は、ジョサイア・コンドルの設計で、17世紀の英国・ルネサンス様式の西洋木造建築として有名。洋館の手前には広い芝庭があり、随所に財閥岩崎家の華やかな暮らしを感じることができました。
ジョサイア・コンドルが残した
本格的な西洋木造邸宅
洋館は、三菱を創設した岩崎家の第三代当主・久彌の本邸として明治29年(1896)に竣工されました。
設計を手がけたのは、鹿鳴館やニコライ堂などの代表作がある英国人のジョサイア・コンドル氏。
17世紀初頭の英国のジャコビアン様式の装飾が随所に見られ、英国ルネサンス様式やイスラム風のモチーフなどを採り入れたデザインとなっています。
外観は白く重厚感があり、華麗な装飾が施されています。下見板張りのペンキ塗り仕上げだそうです。
窓のガラスや玄関のステンドグラスは、可愛らしい幾何学模様のデザインです。
列柱が特徴的なベランダは、東南アジアのコロニアル様式を踏襲。
1階の列柱はトスカナ式で、床は多色象嵌のビクトリアンタイルが一面に敷き詰められています。2階はイオニア式列柱で床は木板です。
目の前には広大な庭の芝生が広がっています。かつては東に房総の山々、西に富士山を一望できたそうです。
英国ジャコビアン様式の装飾が施された
美しい空間に目を奪われる
1階の玄関から続くホールと階段は、赤い絨毯と茶色の柱と天井で重厚感のある雰囲気。
英国ジャコビアン様式の「ジャコビアン」は、英国ジェームズ1世のラテン名「Jacobus」が由来で、直線的で重厚感があり、ツルを巻くような装飾が特徴で、階段の彫り装飾がその象徴です。
各々の部屋は、壁紙や装飾が異なり、それぞれ違った印象です。
1階婦人客室の天井は、シルクの繊細なデザインの刺繍が美しい。
2階客室の壁紙は、金唐革紙。17世紀西洋から輸入された金唐革を和紙で模造加工した擬革紙の一種で、金と青磁色のエキゾチックな色彩です。
2階婦人客室は、女性の部屋らしくピンク色で花柄です。
和館は、日常生活の場として使用されていました。
往時は14部屋ありましたが、現存するのは3部屋。書院作りを基調としており、明治時代を代表する日本画家・橋本雅邦と伝わる障壁画が残っています。
英国ルネサンス様式を基調にした洋館は、同時期に建てられた西洋建築よりも、繊細なデザインになっているのが特徴です。
併設の和館との巧みなバランスは、世界の住宅史でも珍しい建築とされています。
梅雨時のお出かけに、建築探訪。今の時期は紫陽花も咲いているのでオススメです。
(写真・文/川野結李歌)
Profile:川野結李歌
横浜生まれ。大学卒業後(美術史専攻)、2013年よりフリーランスのカメラマンとして活動中。雑誌を中心に、ポートレート、映画、アート、建築など幅広く撮影。趣味は海外旅行、スケッチ、愛犬との昼寝。
旧岩崎邸庭園
旧岩崎邸庭園は、明治29年(1896)に岩崎彌太郎の長男で三菱第三代社長の久彌の本邸として完成。ジョサイア・コンドルの設計による洋館は、17世紀の英国ジャコビアン様式の見事な装飾が随所に見られるのが特徴。当時は、年1回程度の岩崎家の集まりや外国人、賓客を招いてのパーティなど、プライベートな迎賓館として使用された。完成当初は1万5000坪の敷地に20棟以上の建物があったが、現在は3分の1の敷地になり、洋館、撞球室(ビリヤード場)、和館の3棟のみが残る。敷地全体が国の重要文化財に指定されている。
住所:東京都台東区池之端1-3-45
電話:03-3823-8340(旧岩崎邸庭園サービスセンター)
開館時間:9:00~17:00(入園は16:30まで)
休園日:年末年始(12月29日~1月1日)
無料公開日:みどりの日(5月4日)、都民の日(10月1日)
入園料:一般400円、65歳以上200円、小学生以下、都内在住・在学生の中学生は無料