SUMAU'S SCENE
茨城県北芸術祭「海か、山か、芸術か?」
袋田の滝と五浦海岸にアートを探す
今秋、初めて開催されているKENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭。日本3名瀑の袋田の滝や、かつて岡倉天心らが創作拠点とした五浦海岸など、景勝地を多く有する茨城県の景観を生かした芸術祭として、誕生しました。自然の中で共鳴するアートを探して、茨城さんぽ。
茨城県北エリアがアートに染まる
虹色に彩られた日立駅舎から出発
今回の芸術祭のテーマは「海か、山か、芸術か?」。おすすめルートは山と海に分けて示されていますが、行きたいところがたくさん。どっちも選べない筆者は、どっちも回る”いいとこどり”プランを計画しました。
日立駅へ降り立つと、眩しくて目がくらむほど、海が光り、四角いガラス越しに水槽を覗いているような、自分が宙に浮いているような不思議な感覚になります。建築家・妹島和世氏がデザイン監修し、グッドデザイン賞も受賞した駅舎はSF映画の未来の中のような空間です。
駅舎にも県北アートが展示されています。「風景幻灯機」(村上史明氏)は、海を覗く望遠鏡に映像を投影しています。タイムトンネルのような虹色の空間は、フランスのアーティスト、ダニエル・ビュレン氏による「回廊の中で:この場所のための4つの虹-KENPOKU ART 2016のために (C) DB-ADAGP Paris」。
車で袋田の滝を目指すこと、1時間。途中、太古より信仰されてきた御岩神社を参拝。
高くそびえ立つ杉の木々に、神聖な生き物の巣が浮いて見えるような作品は森山茜氏の「杜の蜃気楼」。境内にある斎神社の天井画、「御岩山雲龍図」(岡村美紀氏)も必見です。
日本3名瀑・袋田の滝へつづくトンネルには光のインスタレーション(「連鎖的可能性-袋田の滝」ジョン・へリョン)。マグマのように赤くうねりながら、人々を滝へと誘います。
展望台から見る、高さ120m・幅73mの大岩壁を4段にわたって落ちていく様は、圧巻。撮影日はまだでしたが、ちょうど今ごろは紅葉シーズン真っ盛り。
最先端のデジタルアートや
自然と共鳴する作品を満喫
山を鑑賞した後は、海を目指します。
明治の思想家で東京藝術大学の前身となった東京美術学校の設立に尽力した岡倉天心が「東洋のバルビゾン」と称し、愛した五浦海岸。邸宅と六角堂を造り、創作拠点としました。
六角堂の中には、須田悦弘氏による精巧な植物の彫刻「雑草」が、板の間から生えています。庭には、中国現代美術家ジャン・ワン氏による「Artificial Rock No.109」。海岸の絶壁と呼応しています。邸宅内には映像作品「浮かぶ」(片口直樹×横田将士)が上映されています。
茨城県天心記念五浦美術館には、ウルトラテクノロジスト集団チームラボの作品群と、インドのアーティスト、ミトゥ・セン氏の作品が展示されています。
チームラボの「世界はこんなにもやさしく、うつくしい」は、観賞者の影が文字に触れると、その漢字が絵になって展開していきます。
ミトゥ・セン氏の「ケノプシア(人のいない空間)」は、インドの人口過密と茨城の過疎化をテーマに、
ミトゥ・センと子どもたちが描いた絵が並んでいます。
締めくくりに夕暮れの高戸海岸を散策。日本渚百選にも選ばれた美しい浜辺にも、アートが展開されています。
ゲームの世界が3次元に現れたような錯覚になる「テトラパッド」(ニティパク・サムセン)と、砂浜に埋まった青空が、ダリの絵の中のような「落ちてきた空」(イリヤ&エミリア・カバコフ)を観て茨城をあとにしました。
紅葉狩りに、茨城の名勝とアートさんぽ。贅沢プランです。
(写真・文/川野結李歌)
Profile:川野結李歌
横浜生まれ。大学卒業後(美術史専攻)、2013年よりフリーランスのカメラマンとして活動中。雑誌を中心に、ポートレート、映画、アート、建築など幅広く撮影。趣味は海外旅行、スケッチ、愛犬との昼寝。
KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭
茨城県北地域の6市町の海と山を舞台に、今年初開催となる現代アートの祭典。国内で開催される芸術祭としては最大級となる広大なエリアは、海側(五浦高萩海浜エリア・日立駅周辺エリア)と、山側(奥久慈清流エリア・常陸太田鯨ヶ丘エリア)に大きく分けられている。
展示される作品数は約100。総参加アーティストは85組で、国内はもちろん海外からの参加者も多い。最先端のデジタルアートや、自然と対話するような作品など、茨城県北エリアがアートに染まる芸術祭となっている。
開催地:日立市、高萩市、北茨城市、常陸太田市、常陸大宮市、大子町
期間:2016年9月17日(土)~11月20日(日)
問い合わせ先:茨城県北芸術祭実行委員会 現地事務所 電話/0294-72-1121
茨城県北芸術祭実行委員会 事務局 電話/029-301-2727