SUMAU'S SCENE
モダニズム建築の原美術館で
現代アートを観賞する
現代美術専門館の草分け的存在として1979年に開館した原美術館。元々は私邸であったため、光をふんだんに取り入れる造りになっています。1938年に建造された特徴的な形をした建物は、今なお斬新さを感じさせるモダニズム建築。閑静な広い庭で現代アートを鑑賞しながらお茶をいただくのがピッタリの季節です。
ヨーロッパ建築様式を取り入れた
洗練されたデザインの建物
東京・品川の御殿山に建つ原美術館は、実業家・原邦造氏の私邸であった建物を美術館に再生した、現代美術専門の美術館です。
外から見えぬよう張り巡らされた土塀と立派な鉄製門、門から玄関までの閑静な空間が元邸宅であったことをうかがわせます。
門の中に一歩足を踏み入れると、広い芝生と生い茂る木々の奥に、真っ白で平面的な建物が建っています。
建物は東京国立博物館本館、銀座の和光ビルなどを設計した渡辺仁氏によるデザインで、1938年に竣工されました。モダニズムとアール・デコが融合されたような、20世紀初頭のヨーロッパ建築様式を取り入れた洗練されたデザインです。
モダニズム建築の特徴(白く平面的な壁、ガラス窓と鉄格子)と、アール・デコの特徴(直線と円弧)が共存、凝縮されています。
内観はシンプルな白壁に、手すりや格子の黒がアクセント。
全面が白く、外光が差し込む明るい館内は清い気持ちになります。
3階へ続く階段には小さな四角い窓がかわいらしく並んでいます。
1階の白くて細く、カーブしていて先が見えない吸い込まれそうな廊下を抜けると庭に出ました。
緑の芝生の上にアート作品が点在しています。
エントランス側からは、建物がまったく見えなかったのですが、庭に出てようやく建物の全体像がつかめました。
「レ」の字型の特徴的な形をしています。直線と平面と弧が、研ぎ澄まされた造形をつくり出しています。
個性的な洋館にちりばめられた
世界各国の多岐に渡る現代アート
展示室を観ていきましょう。
現在開催中の企画展は、佐藤雅晴氏の『東京尾行』。東京の日常の風景を切り取ってアニメーションにしています。
1階のサンルームには今回の展示に合わせてピアノが置かれ、自動演奏されています。
ガラス窓から陽の光が降り注ぎ、やさしい旋律と作品が、どこか懐かしい時代、どこの家庭にもあった縁側を思い出させます。
原美術館は現代美術の草分け的存在として1979年に開館しました。
小さな館内に1950年代以降の多岐に渡るコレクションがちりばめられています。どの作品も、展示場所の特徴を活かしたものとなっています。
階段下のデッドスペースを活かした元トイレであった場所には、森村泰昌氏の『輪舞』があり、便器とペーパーロール、狭い空間を活かした全面ガラス張りの世界は、ミラーハウスのようです。
2階の元トイレには宮島達男氏の『時の連鎖』。細いカーブのユニークな空間を活かして、暗闇に光るデジタルカウンターは、まるでタイムトンネルのよう。
暗室だった狭い部屋には、須田悦弘氏『此レハ飲水ニ非ズ』。狭さと配管を活かした作品です。
3階奥の部屋は、奈良美智氏の『My Drawing Room』。かわいらしい愉快なアトリエになっています。
品川駅近くという都会の中心でありながら、丘の上の閑静な住宅地の中に佇む、元邸宅の建築を活かした原美術館。
現代アートを鑑賞した後、新緑と広い空の下、ゆっくりとティータイム。
贅沢なひとときです。
(写真・文/川野結李歌)
Profile:川野結李歌
横浜生まれ。大学卒業後(美術史専攻)、2013年よりフリーランスのカメラマンとして活動中。雑誌を中心に、ポートレート、映画、アート、建築など幅広く撮影。趣味は海外旅行、スケッチ、愛犬との昼寝。
原美術館
1979年に東京・品川に開館した現代美術専門館。1938年に建造された個性的な洋館は、20世紀初頭のヨーロッパの建築様式を取り入れ、昭和初期の建築史を探る上で貴重な存在。旧日劇や東京国立博物館本館などを設計した渡辺仁の代表的な作品のひとつでもある。展覧会に加え、講演会、パフォーマンスなどを通して国内外の現代美術を紹介。コレクションは、1950年代以降の世界各国の現代美術作品1000余点で、絵画、彫刻、写真、ビデオ、インスタレーションなど多岐に渡っている。
住所:東京都品川区北品川4-7-25
電話:03-3445-0651
開館時間:11:00~17:00(祝日を除く水曜日は20:00。入館は閉館時間の30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)、展示替え期間、年末年始
入館料:一般1100円、大高生700円、小中生500円
ハラドキュメンツ10「佐藤雅晴-東京尾行」が開催中
(併催「原美術館コレクション展:トレース」)[1月23日(土)~5月8日(日)]