SUMAUレストランクルーズ
広大な中国をかけ巡る
スパイシーな冒険が始まる
名店からの実力派料理人の独立はどんなときでも話題です。こちらもそんな期待の新店のひとつ。中国郷土料理を自在に操るここはスパイス使いが秀逸で、真夏にぴったりのスパイシー中華。ビールではなく、紹興酒やワインで美味しい料理を味わってみて下さい。
Vol.52 Matsushima@代々木上原
中国地方料理のエッセンスを
自由な発想で今のTOKYOにお披露目
遠い昔、北京の小さな店で食べた料理は自分の中の中華料理の“殻”をパチンとはじき飛ばしました。
上海でも西安でも夢中になってその街の味を知りたいと思っていました。
以来、中華の幅の広さと奥行きの広さにノックアウトされっぱなしです。
そんなわけで、2016年3月にオープンした「Matsushima」は待ってました! なのです。
中国の広大な国土には砂漠から海まで多様な風土が広がっています。北から南まで気候が大きく変動するので食材も実に幅広く、料理はその土地の風土に合ったものが発達しています。
つまり一口に中華料理といっても、とらえどころがないくらいに雑多で
かつマニアックに分岐しています。
そんな中国の食文化に魅せられて、松島由隆さんは何度も中国に通って食べ歩いたといいます。
ある時は北京から北へ、西へ、またあるときは南の少数民族のエリアへと地域は特定せず、
好奇心に駆られてかの地を巡る冒険をしてきました。
そのきっかけとなったのが、東京で中国郷土料理を先駆けて紹介してきた「黒猫夜」。
松島さんはこちらで9年間に渡ってお店を支え、六本木店の料理長を経て独立しました。
「黒猫夜に入ったばかりの頃、一人で中国に行ってこいと言われたんです」と松島さん。
オーナーからの至上命令に従って日本を発ったとか。
でも、その時から度胸がついたそうで、以来、一人でどこまでも行けるようになったとか。
現地ではまず食べて、気になった料理はお店で詳しく聞き込みをして材料を市場へ買いだしに行く。
東京に戻ったら作ってみるということを繰り返してきました。
これだけの経験の蓄積を持つ松島さんは、感性でそのエッセンスを融合し、新たな自分だけのレシピを創り出しています。
「山羊スペアリブ湖南省風生青唐辛子のソース」は南の湖南省では魚を合わせるソース。
そこにあえて山羊肉をマッチングさせています。
弾力がある山羊肉とピリリと辛くて唐辛子の旨みが効いているソースは違和感なく溶け合って、
まるで昔からある料理のように思えるのです。
他にも、「鶏もも肉炭火焼き 広西チワン族仕立て」や「新疆ウイグル自治区の羊ごはん」など、
メニューに並ぶ料理名はまさに旅する中華。眺めるだけで心が躍ります。
大阪「福臨門」出身とあって、ベースの技術力が高いのも松島さんの強み。
これからもそのセンスの良さで、自分らしい料理を手掛けていきたいと言います。
ドリンクは紹興酒とワインがメイン。産地や特徴を分かりやすく説明した紹興酒のリストは飲んでみたくなるものばかり。イタリアン出身というマダムが選んだワインも料理とうまく調和しています。
アンティーク風なシャンデリアや置物に独特の世界観があり、シンプルだけど温もりを感じさせる西洋風のインテリアは居心地のよさ満点。
郷土色の強い料理と内装のギャップがあるのも密かな魅力のひとつです。
今年、初めての夏を迎えたばかりの「Matushima」がどう成長していくのか。
それはこれからのお楽しみ。
ひとつの地方や伝統的なレシピばかりにこだわらず、メニューは季節や手に入る材料によってもがらりと変わっていく予定とか。新しいメニューに出会いに行くのが待ち遠しい新店です。
Matsushima マツシマ
住所: 東京都渋谷区上原1-35-6第16菊地ビル B1F
電話:03-6416-8059
営業時間: 18:00~24:00(LO23:00) 日曜・祝日17:00~23:00(LO22:00)
定休日:水曜・不定休あり
席数:11席
メニュー:今月のオススメ1,200円~、よだれ牛2,200円、西安風羊のすいとん1,500円、紹興酒グラス800円~、ボトル3,200円~、生ビール700円、グラスワイン800円~
※予約の電話はできるだけ営業時間外に
(取材&文・岡本ジュン 写真・加藤タケ美)
PROFILE 岡本ジュン
“おいしい料理とお酒には逆らわない”がモットーの食いしん坊ライター&編集者。出版社勤務を経てフリーに。「食べること」をテーマに、レストラン、レシピ、旅行などのジャンルで15年以上に渡って執筆。長年の修業(?)が役に立ち、胃袋と肝臓には自信あり。http://www.7q7.jp/
※掲載価格は税別価格です(2016年7月現在)