SUMAUレストランクルーズ
話題の街に隠れていた
人気イタリアンを発見
【清澄白河】
昨今、都内の中でも注目のエリアとして急上昇している清澄白河。モノ作りの街であり、歴史もあって、庭園も美術館もある。そんなこの街には、新しいコーヒー店だけじゃなく、まだまだいいものがたくさん。秋の初めのお散歩に出かけたら、地元で人気のレストランにも立ち寄ってみませんか?
どこまでも軽やかに、繊細に
心安らぐイタリアン
VOL.41 il tram@清澄白河
アーチ形の窓、華奢なテラステーブル、ドアにはカフェカーテン。
中に入ると、パリの小さなレストランを思わせるキュートな趣。壁に掛けられたモダンな絵も
アクセントになっています。なんていい雰囲気。
しかし、ちょっと待って。ここイタリアンですよね?
思わず心の中で叫んでしまいました。
イタリアンとしてはちょっと違和感のあるインテリアと同様、シェフの川邊 亮祐さんが手がける料理もまた、いい意味でイタリアンというイメージからは少し離れています。
その謎は、料理に対する考え方や川邊さんの人となりを知るうちにだんだんと溶けてきました。
川邊さんの料理の基本に流れているのは、コースで食べても食後に胃が重たくならないこと。
例えばそれはスープに表れています。
イタリアンではスープに肉や魚介のブロード(出汁)を使いますが、
川邊さんは「水と塩と素材のみ」ときっぱり。
野菜と動物性のものを合わせないというのが、彼の考える自分の料理です。
出汁を使わない分は、野菜の甘みやコク、酸味など、隠し味に使う食材も含めて、幾重にも味を重ねているので、ものたりないという味にはなりません。
他のメニューでも、油や塩は控えめ、生クリームも使わないという徹底ぶりで、
笑ってしまったのは、「先日、今年初めてにんにくを使いました」という発言。
にんにくもほとんど使わないなんて、イタリアンとは思えません(笑)。
実は和食好きで、食べ歩きを欠かさないという川邊さん。
和食からインスピレーションを得たり、和の食材を上手に使う名手でもあります。
すだちやかぼすなどの柑橘系は言うに及ばず、先日はぎんなんのスープを手がけたというから、
それは見てみたかった。
しかし、調理の手法はまぎれもなくイタリアン。そこから自由に自分の料理を作り上げてい
るのです。
例えば、「カツオの冷製 カリフラワーとラディッシュ」は、牛乳で3秒湯がいたカリフラワー
とたっぷりのラディッシュ、カリフラワーのピュレ、そこに少量のボッタルガ(地中海のから
すみ)を添えてうま味と塩味を補います。
カツオ独特の香りや酸味に、これらの食材が加わり、味わいは重なり合って調和します。
時代の流れとともに、フレンチやイタリアンも軽く、軽く、
より素材に寄り添ってという流れはありますが、川邊さんのアプローチはまた独特。
秋の始まりは静かな下町にポツンと灯る小さなレストランで、夏に疲れた胃に優しい
イタリアンはいかがですか?
il tram
イル トラム
住所: 東京都江東区三好4-9-5 1F
電話:03-5621-8383
営業時間:18:00~23:00 (LO 22:00)
土曜・日曜12:00~14:30 (LO14:00) 18:00~23:00 (LO 22:00)
定休日:月曜(祝日の場合は翌火曜休)
席数:10席
メニュー:ランチ(土曜・日曜のみ):1,800円、2,500円、おまかせコース4,200円
ディナー:コース4,200円
(取材&文・岡本ジュン 写真・片山久子)
PROFILE 岡本ジュン
“おいしい料理とお酒には逆らわない”がモットーの食いしん坊ライター&編集者。出版社勤務を経てフリーに。「食べること」をテーマに、レストラン、レシピ、旅行などのジャンルで15年以上に渡って執筆。長年の修業(?)が役に立ち、胃袋と肝臓には自信あり。http://www.7q7.jp/
※掲載価格は税込価格です(2015年8月現在)