SUMAUレストランクルーズ
それは日常のちょっと先
心に染み入る日本酒と肴
【学芸大学】
春の宵、どこか懐かしくも温かい雰囲気に満ちた女性料理人のお店で一杯いかがでしょう。
毎日少しずつ替わる季節の料理が、選りすぐりの日本酒とともに楽しめます。
たおやかな女性料理人が手がける
小さくて心地よい晩酌の場
Vol.36 あめつち@学芸大学
コトコトコト。トントントン。
美味しいご飯を作る幸せな音が響いてくる台所。
カウンターから見た風景は、まるで町家にいるようで、ふと懐かしい気持ちにとらわれます。
年季の入った鍋や道具が、整然と並んだ潔い厨房に立つのは店主の土井美穂さん。
柔らかな物腰ながら、どこか凛とした気配をまとっている料理人です。
「日常のごはんが好きなんです」という土井さんは、いくつかの飲食店を経て、
旬の野菜や豆、乾物などを使った日常使いの和食と純米酒の店を開きました。
毎日少しずつ入れ替わるというお品書きは今、春の到来を感じさせる料理が並びます。
春野菜のお浸しは、噛みしめると、ふきからキュッと春の香りが立ち昇りました。
お出汁と春野菜の持つ清らかな苦みがほろりと広がって、
ここでお酒とクイと含めば、もうたまらなくシアワセな瞬間がやってきます。
関西出身の両親を持つという土井さんの料理のベースは関西風の薄味。
淡い味の和食が、より野菜の香りや食感を鮮やかに感じさせてくれます。
オープン当初はいくらか気負いもあったといいますが、
店をやるうちに、だんだんと肩の力がいい具合に抜けてきたそう。
最近では、お母さんから受け継いだ懐かしい味を取り入れることも増えてきたとか。
例えば、土井さんのお母さんが子供の頃におやつとして食べた「酒粕の炙り」であったり、
「味醂粕」であったり。いずれも関西圏では日常に食べられているもので、
どちらも季節を感じさせます。
夏には、おばあちゃんの故郷の郷土料理だという「七色のお和え」も登場予定とか。
聞いてみると、畑の恵みをまるごといただくような素敵なメニューでしたが、
さてどんな料理かは、お店で味わうまでのお楽しみとしましょうか。
古民家の建具を要所に配した店の設えや、骨董と作家ものが混ざった食器たちが集まった
あめつち。きちんとしているけれど、けして堅苦しくなく、すんなりとすべてが
馴染んでいい空気感を醸しだしています。
どこの駅からも遠いけれど、ご近所さんだけでなく、遠くから足を運ぶ人も少なくないそう。
春の宵のぬるい空気に誘われて、
散歩がてらてくてくと、晩酌に出かけるのもなんだか楽しそうです。
ただし小さなお店なので、向かう前には席の確認を。
あめつち
住所: 東京都目黒区中町1-35-7
電話:03-3712-1806
営業時間:18:00-23:30(LO22:30)、日18:00-22:30(LO21:30)
定休日: 月曜、第2・第4火曜、祝日は不定休
席数:7席
メニュー: 日本酒は一合800円、グラス700円。小鉢で提供する肴は350円〜。揚げ物や煮物、〆の焼きおむすびなどを用意している。前日までの要予約でコースあり。小さな肴、炙り物、揚物、煮物がついて一人3,500円。
HP : www.ame-tsuchi.com
(取材&文・岡本ジュン 写真・加藤タケ美)
PROFILE 岡本ジュン
“おいしい料理とお酒には逆らわない”がモットーの食いしん坊ライター&編集者。出版社勤務を経てフリーに。「食べること」をテーマに、レストラン、レシピ、旅行などのジャンルで15年以上に渡って執筆。長年の修業(?)が役に立ち、胃袋と肝臓には自信あり。
※掲載価格は税別価格です(2015年3月現在)