SUMAUレストランクルーズ
知的好奇心をくすぐる
ディナーで会話が弾む
【下北沢】
ワクワクしたり、おお!っとなったり、サプライズを含んだ料理を出すレストランが東京にも増えてきました。若きシェフと友人のソムリエがてがけるサーモンアンドトラウトは、気軽な価格で、遊び心のある料理と自由なドリンクのペアリングが楽しめます。
ガストロノミックな料理を
気軽に味わう若きシェフのレストラン
vol.46 salmon & trout@下北沢
「ホンビノスとキクイモのグラタン、これに鹿肉のベーコンをのせることもあるんですが、
増えて困っているものシリーズというか…」(笑)。
このセリフ、シーフードの前菜の説明を交わした時のシェフ森枝幹さんの言葉です。
ホンビノスもキクイモも、どちらも日本の在来種ではなく外国から入ってきたもの。
ホンビノスは日本でたくましく繁殖している貝で、キクイモは在来種を脅かすとして要注意外来生物に指定されています。これに駆除の対象になっている鹿を加えて、美味しく食べてあげようというストーリーになるという説明です。
調理法や味付けの話も興味深いけれど、こういうストーリーを聞くと、
また違ったサプライズ感を味わえます。
知的好奇心をくすぐる(あるいは冒険心をかきたてる)料理は、食べていてとても楽しいもの。
でも、美味しいと知的好奇心との兼ね合はなかなか難しくもあります。
サーモンアンドトラウトは、このふたつが絶妙にバランスをとっています。
料理はおまかせコースのみ。テイスティングコース5,000円~と、
ガストロノミックなテイストを取り入れているレストランとしてはとても気軽な価格。
ワインだけでなく、日本酒やスピリッツなどさまざまなお酒が登場する
ドリンクのペアリングコースは、アペリティフからディジェスティフまでついて3,000円。
世界感がぐっと広がるのでおすすめです。
森枝さんの料理人としての経歴は少々ユニーク。
世界のレストラントップ10になったこともある、オ—ストラリアの「TETSUYA’S」で
料理の基礎やその哲学を学び、日本では「湖月」で京料理に触れた後、
マンダリンオリエンタルの「タパスモラキュラーバー」で分子料理にも携わりました。
その幅広い経験を生かして、カテゴリーにこだわらない国境なき料理を展開しています。
店名の「サーモンアンドトラウト」は、イギリスのスラングで「痛風」という意味だそう。
このネーミングには(痛風になるほど)美味しいものを出しますよ、という意気込みと共に、
ちょっとブラックなセンスが感じ取れてなんだかニヤリとさせられます。
店造りも自由な気風が表れています。壁に自転車、作業台のようなドリンクカウンター、
キッチンにはアンプを思わせる食品乾燥機がポンと置かれていたり。
サーモンアンドトラウトの店内は少年の秘密基地のようで、思わずキョロキョロ見回してしまいます。
料理の内容はその都度変わりますが、例えば、アフタヌーンティーのティースタンドのような
ガラスのプレートでサーブされる前菜にワクワクしたかと思えば、
優しい野菜のピュレが組み合わされたプレートでほっこり和ませるなど、
コースのリズムは食べ手を疲れさせずに楽しませる、緩急のある流れになっています。
ここでは、シェフの引き出しの多さと絶妙にゆるいモード、ペアリングしたお酒のクオリティの高さが加わって生まれる独特なグルーブ感に身を任せてしまうのが正解。
下北沢から徒歩約10分。駅からは少し歩くけれど、その往復のアプローチも、到着するまでの期待値を高め、帰りは余韻を味わえるほどよい時間となってくれそうです。
salmon & trout
サーモン アンド トラウト
住所: 東京都世田谷区代沢4-42-7
電話:080-4816-1831
営業時間:18:00~24:00(LO)
定休日:月曜を中心に月6回の不定休
席数:13席
メニュー:コース5,000円、8,000円。
https://yoyaku.toreta.in/salmonandandtrout/
(取材&文・岡本ジュン 写真・島 誠)
PROFILE 岡本ジュン
“おいしい料理とお酒には逆らわない”がモットーの食いしん坊ライター&編集者。出版社勤務を経てフリーに。「食べること」をテーマに、レストラン、レシピ、旅行などのジャンルで15年以上に渡って執筆。長年の修業(?)が役に立ち、胃袋と肝臓には自信あり。http://www.7q7.jp/
※掲載価格は税別価格です(2016年1月現在)