アーバンインフォメーション

2019.03.25

新しい感性が創りだす景色。
中目黒、代官山で話題のスポットを訪ねる。

©Anne-Sophie Guillet / Poetic Scape

 

代官山から中目黒にかけては、静かな住宅街と商業エリアがほどよく混じり合い、隣り合う渋谷、恵比寿とは違ったどこかゆったりしたリズムが漂う街。つねにそこは、感度の高い人々がその時代ごとの新しいスタイルや流行を生みだしながら、ほかのどこにもない文化を作りだしてきた。

 

そんな街のDNAは、今もなお健在だ。相次ぐ再開発でめまぐるしく変わる都心の景色とは一線を画しつつ、また旧来の価値観に留まるのでもなく、静かに、独自の感性で時代に問いかける。特にアートやデザインの分野で、新しい潮流を感じさせるスポットは多い。

 

 

中目黒の「Poetic Scape ポエティック・スケープ」は、2011年にオープンした写真専門のギャラリーだ。ディレクターの柿島貴志さんは、ロンドンのアートスクールに学んだあと、写真を中心にアート、デザインなどの分野でオーガナイザーや店舗運営、作家開拓などの幅広い経験と知識を活かし、2007年に独立してポエティック・スケープを設立。そののち、ここ中目黒にギャラリーを構えた。

 

 

©Poetic Scape

 

 

「写真のメッカといえば新宿・四ッ谷界隈ですが、そこは写真家自身が自らを磨くところ、というイメージもあります。そこに自分が乗り込むよりも、写真を観る人の裾野を広げるという意味で別の街を探していたんです。ここは東京都写真美術館にも15分で歩ける距離。かつ駅から少し離れているので、写真とゆっくり向きあい、気に入ったものを購入していくのに、ちょうどいいポジションなんです。」(ディレクター 柿島氏)

 

 

年6本ほどの展覧会は、森山大道など巨匠の写真家から、若手の有望な作家、外国作家まで幅広い。時代や世界のアートシーンの流れも見すえ、時には販売を意識せず「今やるべき」展示も企画。その選択眼と、額装も自身で手がける展示の美しさには定評があり、ギャラリー以外でのさまざまな活動も含め、その名の通り写真界に新しい「スケープ=景色」を生みだしている。

 

 

先日始まった展覧会にはベルギー在住のフランス人写真家 Anne-Sophie Guillet アンソフィ・ギュエを迎えた。

 

 

アンソフィ・ギュエのポートレートシリーズ「Inner Self」から ©Anne-Sophie Guillet

 

 

展示されたポートレート作品を見つめていると、不思議な感覚にとらわれる。そこには特に説明もなく、被写体の名前や性別も記されていない。「彼/彼女は誰?」「何を思っているのだろう?」やがて私たちはその被写体自身が醸し出す何かにふれることになる。その人の性別など社会が決めた二分法のカテゴリーとは何の関係もなしに・・・。

 

こうした私たちの反応こそ、作家の求めたものかもしれない。彼女は言う。「人は人と対するとき、自動的に(性別など)ある種のフィルターをかけて相手を見てしまう。でもその見えているものは、写真もふくめ、必ずしもその人の内面を映してはいないと思うんです。だからあえて私は被写体の両性的な面だったり、曖昧さを求めている。撮影には時間をかけ、被写体の居心地が良いように場と光と整え、やがてお互いの信頼が生まれ、緊張がとけ、その人の自然な視線が現れたところでシャッターを切る。この過程を私は大事にしています」

 

等身大に近くプリントされたポートレート。観る私たちは被写体の内面と静かに向き合い、自分の内側とも対話する。シリーズ「Inner Self」は社会的なカテゴリーを離れた「人」とは何かをあらためて問いかけているようだ。

 

 

Poetic Scape ディレクターの柿島貴志さんと写真家のAnne-Sophie Guilletさん

 

 

次に紹介したいのが、代官山にある「LOKO GALLERY ロコ・ギャラリー」だ。2016年7月のオープンから、画家や彫刻家、映像、インスタレーションまで、幅広いジャンルの20代から40代が中心となる国内外の美術家を紹介。ギャラリー主宰者の選択基準はすばり「自分が見たことのないもの」だという。旧来の価値観も、自分の価値観さえも、外側から壊してくれるような力をもった作家そして作品。それが、新しい風を感じられるギャラリーのイメージにつながっているのかもしれない。

 

 

LOKO GALLERY 現在開催中の展覧会 近藤恵介・古川日出男「、譚」展示風景 画家と小説家の2人が時に即興的なセッションを交え、両者の間を紙が往復し作品が生まれてきた。その積み重ねと発展を展示する。

 

 

新しい風といえば、このギャラリーに入るとまず天井の高い立体空間に驚かされる。建築そのものが初めからアートギャラリーを軸にプランされていて、2層吹き抜けの展示空間に加え、3階には滞在制作が可能なアトリエがあり、企画展とレジデンスプログラムを中心に活動が展開されている。

 

 

LOKO GALLERY 青野セクウォイア「Vital Beating」展示風景(2018) 黒大理石を切り出し、彫り、磨きあげた精巧な等身大セルフポートレート像を、完成後に破壊するという行為を加えた作品。

 

 

「入りにくい」「敷居が高い」というギャラリーのイメージを変え、誰でもが気軽に立ち寄れて、かつ質の高い現代アートを楽しめる場所を。という想いを込めた空間は、天窓からの光や、カフェと一体化することで、まさに風通しのいい空間を創りあげている。時にはカフェを使った展示や展覧会のレセプションも開催しているといい、人とアートの距離が近いのも印象的だ。

 

今年秋には、初めてのアートフェア参加となるシドニーコンテンポラリーへの出展が予定されている。新時代を切り拓く「LOKO」(エスペラント語で「場所」)の次なる挑戦が始まる。

 

 

 

最後はまた中目黒へ戻って、こんどは小さなブックストア「dessin デッサン」を訪れよう。カフェやレストラン、数多くのショップが並ぶ商店街の一角だが、一歩店に入ればそこは「本」というさまざまな世界への入口が待っている。

 

 

 

 

バウハウス、タイポグラフィなどをテーマにしたクラシックなデザインブック、ピカソ、ホックニーなどの美術本、画集。さらには大人が見ても楽しい国内外のさまざまな絵本、イラストレーション、音楽、写真集、さらに懐かしいファッション雑誌などまで、ビジュアルメインの中古書を中心に取り扱う。

 

本はすべてオーナーのセンスでセレクトされたもの。子どもがかわいい本をつい手に取ってしまうように、大人も「いいなぁ」と思うもの、読まない時はそこにおいてあるだけでも美しい装丁の本が選ばれているという。

 

 

 

 

確かに「本」は、内容もさることながら、その存在感やデザイン、ビジュアル、あるいはその本が積み重ねてきた時間にインスピレーションを与えられることも多い。

 

「dessin デッサン」という店名も、本を読んだあとにその本を見ながら絵を真似てノートに描いてみるというオーナーの体験から着想を得たという。本に刺激を受けて、絵を描いたり、写真を撮ったり、言葉を生みだしたり・・・そんな想像、あるいは創造する力をくれるブックストアは、ただそこにいるだけでも楽しい。

 

2階にはギャラリースペースもあり、アーティストの展示なども随時開催されている。自分の感性をちょっと高めたいとき、立ち寄りたい場所だ。

 

 

 

目黒川を包みこむ絶景の桜の季節、そして春を迎え、この界隈にもまた爽やかな新しい風がそよぎ始める。静かなアップデートをし続ける街は、これからもずっと新鮮な景色を私たちに見せてくれるはずだ。

 

 

 

 

POETIC SCAPE

東京都目黒区中目黒4-4-10

東急東横線・東京メトロ日比谷線「中目黒」駅から徒歩

http://www.poetic-scape.com

 

<Anne-Sophie Guillet 展覧会「Inner Self」>

2019年3月16日(土)~4月27日(土)

 

 

LOKO GALLERY

東京都渋谷区鶯谷町12-6

東急東横線「代官山」駅または「渋谷」駅から徒歩

火〜土 11:00〜19:00 不定休

http://lokogallery.com

 

<「、譚」 近藤恵介・古川日出男>

2019年3月22日(金)~4月21日(日)

 

 

dessin

東京都目黒区上目黒2-11-1

東急東横線・東京メトロ日比谷線「中目黒」駅から徒歩

営業時間 12:00〜20:00(火曜定休)

https://dessinweb.jp

 

 

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