アーバンインフォメーション

2018.05.07

何者にも屈しない自由への心
『理由なき反抗展』

アンディ・ウォーホル 「理由なき反抗(ジェームズ・ディーン)」 1985年

アートの歴史とは、自由への闘いの歴史である。「理由なき反抗展」は、ワタリウム美術館コレクションを中心にして、15人の作家たちの約100点の現代アートを展示。アーティストたちの生き方、闘い方はそれぞれであるが、共通しているのは何者に屈しない自由への心である。

 

竹川宣彰 「¡No Pasarán!」 2013年(撮影・岡野圭)

 

アートの歴史とは

自由への闘いの歴史

 

現在、ワタリウム美術館で開催されている「理由なき反抗展」は館蔵コレクションを中心とした現代美術の展覧会である。そしてここで言う「現代美術」というのは、誤解を恐れずに言うならばアートのカテゴリーの1つの名称である。

 

ラファエロ前派や印象派などと同様の。つまり、存命中の作家が制作すればそれがすなわち現代美術となるかと言えばもちろんそんなことはなく、現代美術のカテゴリーに属するためには満たすべき確たる基準が存在するということだ。その基準について説明するのは容易ではないのだが、基準の存在を体感できる機会が同展であることは間違いない。

 

キース・ヘリング 「無題」 1983年

 

この「理由なき反抗展」だが、そのテーマ解題に「アートの歴史とは、自由への闘いの歴史である」とある。私たちを取り巻く現在の閉塞した状況を打ち破る手段として「直感、感覚、感性」があるのであり、それらの使い方、つまり「自由への闘い方を私たちに教えてくれる」ものがアートだとする。これは現代美術がなんとなく小難しいものなのではないかと敬遠しているならば、そんなことは決してなく作品自体にももっと本能的に対峙すればいいのだ、と諭してくれているようでもある。

 

展示会場であるキラー通りのランドマーク、ワタリウム美術館は、グレーの濃淡が特徴的な建築家マリオ・ボッタの佳品である。美術館としては決して広いとは言えない敷地に、十分な展示空間を現出せしめた設計の妙はさすがだ。建築そのものも一流の「館蔵」コレクションと言える。同展は3つの章立てで構成されており、4階から順に階を下りつつ観覧するようにレイアウトされているが、各章の展示作品とその展示空間との相関も秀逸だ。

 

展示風景(撮影・今井紀彰)

 

ヨーゼフ・ボイスの貴重なコレクション

『阿呆の箱』の存在感

 

第1章のテーマは「レジスタンス[抵抗]」である。4階に足を踏み入れるや目にするのは、窓越しの光に透かされたジョン・ケージの『マルセルについて何も言いたくない』と、その手前のヨーコ・オノの『Play it by Trust』。さっそく現在美術界の著名作家の作品に出迎えられるが、やはりこの展示室の中心はホワン・ヨンピンの『避難はしご』である。研ぎ出された鋼の中華包丁のその刃が、各きざはしとなった梯子が空間を文字どおり貫いている。

 

斜めに上昇する梯子が立て掛けられているのはまだクレートの木枠に梱包されたままの鋼の梯子だ。この全長49.6メートルの梯子はもともと美術館の建物自体の両端、その避難スペースに、まさに避難梯子として設置されるよう想定されたものだったという。それは法規上の問題で叶わなかったがそれでも梯子のコンセプトは自ずと伝わってくる。触れれば骨まで断ち切られそうな刃のきらめきをかえって間近に感じることができるわけだ。

 

(中央)ホワン・ヨンピン 「避難はしご」 1992年。(その右横)ヨーゼフ・ボイス 「阿呆の箱」 1983年(撮影・今井紀彰)

 

そしてこの章でのもうひとつの白眉はヨーゼフ・ボイスの『阿呆の箱』。作品としてはパフォーマンスやインスタレーションなどを記録としてしか見る機会のなかったボイスの、貴重なコレクション・ピースが展示されているのだ。長辺でも1メートルに満たない箱がヨンピンの梯子の傍らに鎮座しているのだが、その存在感は空間全体を圧するに余りある。

 

ボイスが好んだ素材でもある絶縁体のフェルトが伝導体の銅の板によって四隅で挟まれているというシンプルな構造の「函」は、観る者のいかなる想像も拒むかのような即物的で圧倒的な存在感でただそこにある。この濃密な空隙の作者についてホワン・ヨンピンは「ヨーゼフ・ボイスなども、ダダのアーティストとみなしていた」と語っている。そして彼にとってのダダイズムは「つまり完全に空っぽな意味、だった」と。

 

バックミンスター・フラー ポートフォリオ 「一つを巡る十二の発明」より 1981年

 

展覧会のタイトルにもなった

アンディ・ウォーホルの『理由なき反抗(ジェームス・ディーン)』

 

階をひとつ下りるとそこは第2章の「デザイン革命」。紹介されているのはバックミンスター・フラー、マックス・ビル、そしてアレクサンドル・ロトチェンコである。彼らは「直感、感覚、感性」とは一見、隔たったところにある理論家と見なされてきたように思うのだが、同展の文脈に置かれると、やはり自由への闘士であったことが強く確信される。

 

この3階の壁面は一部がガラスとなっている。そこからこの後に続く第3章の空間を見下ろすことができるのだが、壁面いっぱいに「意味を解体された記号」が踊るBIEN(ビエン)作品については、ガラス越しとはなるがこの階からの「眺め」がお勧めだ。

 

そして2階の第3章で私たちを迎えてくれるのがアンディ・ウォーホルの『理由なき反抗(ジェームス・ディーン)』である。そこに書かれたタイトルの日本語はもちろん同展のタイトル用に「捏造」された訳ではなく、映画の日本語版広告を題材にした正真正銘、ウォーホルのオリジナルである。ワタリウム美術館前館長の和多利志津子がウォーホルに行ったインタビューの音声も併せて公開されているので必聴だ。

 

(中央)ギルバート&ジョージ 「大声」 1982年。(その上の壁面)BIEN 「無題」 2017年(撮影・今井紀彰)

 

第3章「理由なき反抗」では写真表現がキーになっている。ウォーホルはもちろんのこと詩人、アレン・ギンズバーグの一連の写真作品や、何より写真集などでしか見ることができなかった、ロバート・メイプルソープのダークな世界観漂うオリジナルプリントを堂々と堪能することができるのだ。ほかに、ギルバート&ジョージの壁一面を占める3メートル四方の『大声』も出展されており、彼らの大型作品の実物に触れられる貴重なチャンスともなっている。

 

ここに書ききれなかった同展で紹介されている作家は総勢15名(組)。その総作品数は約100点にも上る。ワタリウム美術館のこのコンパクトな空間にこれだけの点数が凝縮されているのだ。現代美術好きにとってはお気に入りの作家、あるいは「エコール」に出会える機会なのは言うまでもないが、現代美術の門外漢にこそぜひ足を運んでもらいたい展覧会である。入門編と言うには失礼なほどの贅沢なラインナップで、何かしら自分に「響く」ものが見つかるはずだ。食わず嫌いだったことが悔やまれるに違いない。

 

(取材・文/入江眞介)

 

理由なき反抗展

会期:2017年4月 7日(土)~ 7月29日(日)

会場:ワタリウム美術館

住所:東京都渋谷区神宮前3-7-6

電話:03-3402-3001

休館日:月曜日(7月16日は開館)

開館時間:11時より19時まで(毎週水曜日は21時まで延長)

入館料:大人1000円、学生(25歳以下)800円、小・中学生500円、70歳以上の方700円。ペア割引/大人2人 1600円、学生2人1200円

http://www.watarium.co.jp

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