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2017.12.11

六本木ヒルズで『ドラえもん展』開催中
アーティストたちが「ドラえもん」を作品に

国民的マンガ「ドラえもん」をテーマにした美術展『THE ドラえもん展 TOKYO 2017』が、東京・六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで開催されている。現代美術作家、写真家、漫画家など気鋭のアーティストたちが表現する「ドラえもん」とは……?

 

 

村上隆 出展作品 「あんなこといいな 出来たらいいな」(部分)
©2017 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. ©Fujiko-Pro

 

 

マンガの、アニメの、映画の「ドラえもん」をもとに

28組のアーティストが表現する“それぞれの「ドラえもん」”

 

世代を越え、日本国内はもとより諸外国でも愛されている「ドラえもん」。クリエイターやアーティストにも少なからぬ影響を与えた作品だ。

 

『THE ドラえもん展 TOKYO 2017』では、「あなたのドラえもんをつくってください」というリクエストに応えて28組30人の作家が制作した作品を展示している。ドラえもん、のび太、ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんという主要登場人物を中心に、のび太のパパやママ、ドラミちゃんなど、おなじみのキャラクターが登場することも……。

 

絵画あり、写真あり、立体あり、映像あり。表現の方法も、マテリアルも、「ドラえもん」に対する想いもさまざまで、“「ドラえもん」の世界はこんなにも広がるものなのか”と驚かされる。

 

町田久美の《星霜》は、ドラえもんを忠実に描いた日本画だ。やや粗い質感の高知の和紙に、胡粉(ごふん)や雲母(きら)、金箔、銀箔、金泥などでドラえもんの横顔をそのものズバリで描ききった。

 

くっきりと太い輪郭は、筆でスッと引いた線ではなく、細かな点と細かな線で塗りつぶした。胡粉のマットな色味や、瞳や口元、ひげを縁どる薄墨のグラデーション、控えめながら存在感のある雲母のきらめきなど、近くに寄って細部までじっくり観察したくなる。

 

 

町田久美 《星霜》 ©Kumi Machida ©Fujiko-Pro

 

 

西尾康之 《OPTICAL APPARITION》 ©2017NISHIO ©Fujiko-Pro

 

 

渡邊希 《タイムドラベル》 ©Nozomi Watanabe ©Fujiko-Pro

 

 

日本の伝統技術を用いた作品としては、渡邊希の《タイムドラベル》も印象的だ。布をふわりと引き上げたような形状のオブジェは、麻布を漆で張り重ねる「乾漆(かんしつ)」の技法で制作。ドレープのような、ゆったりとしたベースのフォルムと吸い込まれるような漆黒が、時空を超えるタイムマシンを彷彿させる。

 

ていねいに磨きあげることで深く艶やかな光沢を放つ漆黒の上に、ベースと同じ光沢感のある黒とマットな黒の2種類の漆で「ドラえもん」のさまざまなシーンを細かく描き込んでいる。黒の上に黒で描かれた絵は遠目にはうっすらとしか見えないが、近づいたり角度を変えたりしながら観ていくうちに、「ドラえもん」を熱心に読んだこども時代の記憶が蘇ってくる。

 

会田誠の《キセイノセイキ~空気~》は、しずかちゃんのシャワーシーンを、しずかちゃんの裸体を描かず肌の上をすべる水とうっすらとした影で表現。人物を透明人間化することでかえっていろいろなものが見えてくる、現代美術らしいコンセプチュアルさが際立つ作品だ。

 

 

山口晃 《ノー・アイテム・デー》 ©YAMAGUCHI Akira ©Fujiko-Pro Courtesy of Mizuma Art Gallery

 

 

篠原愛 《To the Bright ~のび太の魔界大冒険~》 ©Ai Shinohara ©Fujiko-Pro

 

 

奈良美智、蜷川実花らの15年越しの新作「ドラえもん」と

次代を担う若手作家が手がける「映画のドラえもん」

 

「ドラえもん」と「アート」のコラボレーションは今回が初めてではない。本展は、2002年に開催された『THE ドラえもん展』の続編である。

 

奈良美智、蜷川実花、福田美蘭、村上隆、森村泰昌の5名は前回に続く出展。新作と並んで前回の作品も展示されたのだが、作品そのものの持つ芸術性に加えて、15年の歳月を経て変化したところ、変わらないところが見てとれるのもおもしろい。

 

奈良美智は、前回に続きドラミちゃんを主題に作品を制作した。《ジャイアンにリボンをとられたドラミちゃん》(2002)から《依然としてジャイアンにリボンをとられたままのドラミちゃん@真夜中》(2017)へ。ふたつの作品をつなぐ「ドラミちゃんの物語」に思いを馳せる。

 

「ドラえもんこそ理想の男子」という蜷川実花は、ドラえもんとの1日デートの様子をカメラで切り取った。《ドラちゃん1日デートの巻》(2002)も《ドラちゃん1日デートの巻 2017》(2017)もコンセプトは変わらないが、並べて見ると、色味や光の感じがなんとなくノスタルジックな2002年、ちょっとシャープでビビッドな2017年と印象がずいぶんちがう。2002年はコンパクトな三脚とデジカメ、2017年はセルフィーとスマートフォンと、作品に写り込んだ道具の変化もおもしろい。

 

 

(左)蜷川実花 《ドラちゃん1日デートの巻 2017》 ©mika ninagawa ©Fujiko-Pro
(右)森村泰昌+コイケジュンコ 《時(とき)を駈けるドラス》
 ©Ji-Ku-Mo-Ko プロジェクト(森村泰昌+コイケジュンコ) ©Fujiko-Pro

 

 

増田セバスチャン 《さいごのウエポン》 ©Sebastian Masuda/Lovelies Lab. Studio ©Fujiko-Pro

 

 

後半は、これからの日本のアート界を担っていく若手作家の作品が並ぶ。37作ある「ドラえもん映画」から1本を選び、作品を制作した。

 

『のび太の日本誕生』(1989)に登場する架空動物「ペガ」をリアルに彫り上げた中里勇太の木彫作品《選んだゆめときぼう》。ペーパーアーティストの伊藤航と水墨画家の山口英紀が『のび太と雲の王国』(1992)をテーマに、ドラえもんのひみつ道具を立体と水墨画で解説する《ひみつ道具図典》。それぞれにアーティストの魅力が存分に伝わってくる傑作揃いだ。

 

なかでも鮮烈な輝きを放っていたのは、『のび太の宇宙小戦争(リトル・スター・ウォーズ)』(1985)の巨大化したしずかちゃんが登場するシーンをモチーフにした坂本友由の《僕らはいつごろ大人になるんだろう》。

 

成熟したしずかちゃんはびしょ濡れで、スカートの裾を絞ったところに小さな虹がかかっている。足元にはドラえもんの後頭部がチラリ。忠実に再現された原作の衣装、アクリルで精緻に描かれた瑞々しさに、ハッと息を呑み、見入ってしまう。

 

本展は、一部の作品を除いて会場内は撮影自由。来場者それぞれが撮影した「あなたの『ドラえもん展』」をSNSに投稿し、「#ドラえもん展」でつなげていく。そんな楽しみ方ができるのも、「みんなのドラえもん」という感じがしていいなと思う。

 

(取材・文/久保加緒里)

 

 

 

THE ドラえもん展 TOKYO 2017

会期:2017年11月1日(水)~2018年1月8日(月・祝)

会場:六本木ヒルズ 森アーツセンターギャラリー

休館日:会期中無休

時間:10:00~20:00(12月26日のみ17:00まで) ※入場は閉館の30分前まで

料金:一般2880円、中学生・高校生2480円、4歳から小学生1880円(いずれも当日券)

住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階

電話:03-5777-8600 (ハローダイヤル)

http://thedoraemontentokyo2017.jp

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