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かつてのお屋敷街の情景を求めて
坂の街・麻布を歩く
「麻布といえば坂」というくらい、麻布一帯は都内でも坂の多いエリアです。誰もが聞いたことのある有名な坂からひっそりとしながらも情緒あふれる名坂まで、さまざまな坂が麻布界隈の散策に彩りを添えてくれます。歴史にちなんだ坂も多く、かつての情景に思いを馳せながら麻布の坂を歩いてみませんか?
坂の名前を通して
麻布の歴史を感じる
東京は坂の多い地域として知られますが、なかでも坂が多いのが港区の麻布周辺です。麻布は大地と谷の地形であることから必然的に坂の多い街になりました。また、現在の広尾周辺は、江戸時代中期には多くの武家屋敷が集まるエリアでした。坂の名前は歴史にちなんだものが多く、周辺には大名屋敷の名前がついた坂などもあり当時の様子をうかがうことができます。
今回は、そんな麻布の「坂」にスポットを当ててご紹介します。わずか180年ほど前までこの坂を武士や町人たちが上り下りしていたかと思うと、とても興味深いものがありませんか? インターナショナルでハイセンスな街としての麻布も魅力的ですが、江戸の武家屋敷を中心とする歴史の一端が垣間見える一面もまた、麻布の魅力ではないでしょうか。
麻布の坂を代表する
仙台坂
二の橋交差点付近から麻布十番三丁目を通り、仙台坂上交差点に至る坂。交通量が多く、戦後につくられたものを除いては麻布の中でも規模の大きな坂の一つ。坂の名称は、江戸時代にこの坂の南部一帯に松平陸奥守(仙台藩伊達家)の下屋敷があったことにちなんでいます。
下屋敷のあった場所は、坂の途中にある現在の韓国大使館付近。また、ウグイスが有名で、松尾芭蕉がこの地で「うぐいすをたずねてたずねて阿佐布まで」という句を詠んだそうです。
麻布を象徴する美しい坂道
「南部坂」
南麻布四丁目と五丁目の境にある坂で、坂上にはドイツ大使館が、坂下には南部坂教会やスーパーマーケットのナショナル麻布があります。江戸時代、現在の有栖川宮記念公園のあたりに奥州南部藩の屋敷があったことから「南部坂」と名付けられました。ゆったりと続く美しい坂は、麻布らしさを象徴しています。
坂上からの眺望が素晴らしい
「青木坂」
南麻布四丁目にある坂で、フランス大使館から南西方向に下る緑に囲まれた静かな坂道。名前の由来は、坂の北側に摂津麻田藩主青木駿河守の下屋敷があったことから。青木坂は別名「富士見坂」ともいわれ、かつて坂上からの眺望が素晴らしかったことがうかがえます。
江戸時代に鉄砲練習場があった
「鉄砲坂」
有栖川記念公園上の交差点から外苑西通りの日赤医療センター下に抜ける坂道。江戸時代、坂のがけ下に幕府の鉄砲練習場があったことからその名がついたそう。坂上は北条坂につながります。
暗かったことで幽霊伝説も残る
「暗闇坂」
麻布十番商店街から元麻布三丁目方面に延びる急な坂。昔は木々が鬱蒼と茂り、昼間でも暗かったことから「暗闇坂」という名前がつきました。その暗さゆえ幽霊や妖怪の伝説も生み出され、別名「幽霊坂」とも呼ばれたほど。
現在はそうした面影は感じられない整備された坂になっています。坂の途中にはレンガ造りが印象的なオーストリア大使館があり、坂を上りきると一本松坂につながります。
歴史のある一本松が今も残る
「一本松坂」
池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』に収録されている「麻布一本松」という短編で登場する坂。一本松坂の坂下は狸坂、暗闇坂、大黒坂と接しており、珍しい坂ばかりの4叉路を見ることができます。
また、一本松坂は源経基などさまざまな言い伝えの残る坂ですが、古来から植え継がれてきた一本松が坂の南側にあることからこの名がつきました。この一本松は「麻布七不思議」の一つでもあり、甘酒を竹筒に入れてこの松におさめると咳が治るといわれていたそうです。
タヌキが住む大きな穴があった
「狸穴(まみあな)坂」
外苑東通りのロシア大使館の西脇から南に下る坂。「まみ」とはメス狸(タヌキ)やムササビ、アナグマなどのことで、「狸穴(まみあな)坂」という名前は昔この坂下にメス狸が住む大きな穴があったことに由来しています。
またはこの穴は採鉱の穴だったとも伝えられており、金が掘り出されたことから「まぶあな」と呼んだ説もあるのだとか。いずれにせよ穴がいつ頃からあったかは不明で、こちらも「麻布七不思議」の一つとなっています。
ネズミしか通れないほどの細い坂
「鼠坂」
狸穴坂の西を並行して走る坂。今ではその狭さも解消されていますが、かつては鼠しか通れないほどの細い道だったことが名前の由来。江戸では細長く狭い道を「ねずみ坂」と呼ぶ習わしがあったそうです。
また、鼠坂は島崎藤村の短編小説『嵐』の舞台の一つとなっている坂でもあります。藤村は47歳から18年間この鼠坂近く(現在の麻布台)に暮らし、『夜明け前』などを執筆しました。坂上に位置する藤村の旧居跡には、ひっそりと記念碑が佇んでいます。文学の巨匠が住んでいたなんて、興味深いですね。
(取材・文/開 洋美、写真・川野結李歌)
港区公式ホームページ
https://www.city.minato.tokyo.jp/azabuchikusei/sakamei.html