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2018.03.12

「写真都市展 -ウィリアム・クラインと
22世紀を生きる写真家たち-」

ウィリアム・クライン:ロビー展示風景

20世紀を代表する写真家、ウィリアム・クライン。ニューヨーク、東京、パリなど、世界の都市を挑発的に捉えた作品を発表。また、映画からデザイン、ファッションでも、ジャンルを超えた視覚文化で世界的に大きな影響を与えてきた。今回、クラインの都市ヴィジュアルとともに、日本、アジアの写真家たちが、斬新な眼差しで22世紀を見据えた未来の写真都市を描いた写真展が開催された。

 

 

ウィリアム・クライン:「Mickey takes over Times Square (Montage 1998)」

 

 

クライン作品を投影したインスタレーション

「都市と人間」を切り取った感覚に圧倒される

 

開館以来、初の写真展となる「写真都市展 -ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち-」が、現在21_21 DESIGN SIGHTで開催中だ。展覧会ディレクターの写真評論家で美術史家の伊藤俊治が「満を持して」と語る、盛り沢山な内容の展示となっている。

 

タイトルにあるとおり同展の構成は大きく2つに分かれている。ウィリアム・クラインの作品史を駆け抜ける前半と、伊藤が「クラインの写真の記憶と冒険を受け継いでいるように思」うとする、日本とアジアの若いアーティストたちによる後半とである。クライン作品のみで会場を満たすだけでも十分だったはずだが、クラインを受け継ぐ総勢11組もの作家がその後に続いているのだ。

 

どう「受け継いでいる」のか、そこが同展の肝でもある。ウィリアム・クラインは一般には写真家として認識されているだろうが、同時に画家、映画制作者、そしてグラフィックデザイナーでもある。写真家としてだけでも多種多様なジャンルを撮り続けたクラインの、それぞれのスタイルが11組に反映していると言える。そう考えれば一見、脈絡なく続いているように思えるこの前後編の構成に、ある種の道筋を感じられるかもしれない。

 

ウィリアム・クライン:「Atom Bomb Sky, New York 1955」

 

 

マルチ・プロジェクションにより、クラインの作品を投影したインスタレーション。 ウィリアム・クライン+ TAKCOM:「ウィリアム・クライン+ TAKCOM, 2018」

 

 

しかし、まずは順路どおりクラインのパートから見ていこう。ロビーの展示では作品以外に愛用のカメラなども展示されており、熱烈なファンでなくとも興味をそそられるはずだ。続くギャラリー1では映像作家TAKCOMによるスペース全体を使ったマルチ・プロジェクションで、クラインの作品を「浴びる」ように味わえる。

 

約10分のインスタレーションは200点あまりの写真やタイポグラフィ、映画のスティル写真などから構成されており、すべての壁面に映像が投影されている。どのジャンルのクライン作品を知っていたかによらず、改めて全容を知ることになり、その「都市と人間」を切り取る古びない感覚に圧倒されること請け合いだ。TAKCOMのちょっとした仕掛けも気が利いている。時間が許すのならぜひ最初から最後まで味わってほしい。

 

 

多国籍な人間の顔に、作家自身の顔の要素を加えたポートレート作品。須藤絢乃「面影 Autoscopy」

 

 

沈 昭良「STAGE」

 

 

日本とアジアの若手アーティストたちが

22世紀の「写真都市」を刺激的に表現

 

ギャラリー2では続く「若手」8組の作品が展示されている。大型作品のレイアウトに少々違和感を感じるところが無くもないのだが、全体としてはよく練られた空間構成でそれぞれの作家の特徴を把握しやすい展示となっている。

 

クラインの「都市と人間」を受け継ぐ彼らは「都市」により重点が置かれたもの、「人間」に重点が置かれたものとさまざまだが、各々からはもちろんもう一方の側面も浮かび上がってくる。

 

表現方法も写真単体のストレートなスタイルから、写真を文字どおり「素材」として用いた複雑なスタイルまで作品は多様。なかでもインスタレーション形式を取っているものが多い印象を受ける。

 

 

 

(左)安田佐智種:「Aerial #10」。(右) 西野壮平:「Diorama Map “Tokyo 2014”」

 

 

勝又公仁彦:「Panning of Days –Syncretism / Palimpseste–」

 

 

石川直樹:「Illuissat, Greenland / 2007」

 

 

日本美術に古来から特徴的な物語絵や異時同図を援用した、安田佐智種や勝又公仁彦。ジオラマというタイトルどおりに上から作品を覗き込む西野壮平。音源を用いて極地の空間を現出させた石川直樹+森永泰弘などがひしめき合い、ギャラリー2自体がまさに「写真都市」の縮図となっている。

 

「星雲状になった無数の写真の群れがもう一つの惑星のように地球の周りを覆っている」と同展ディレクター、伊藤は言う。俯瞰的な視点を持つ作品が多いのはそういうことなのだろうか。

 

窓の外、眼下に煌く灯りの集まっている場所が都市であることを、私たちは夜間に離着陸する機内から知ることができる。実体験として俯瞰する視点を手に入れた私たちには、写真が地球を取り囲むというこのイメージはある種のリアリティをもって感じられるはずだ。

 

そうなると最後の展示で藤原聡志の作品が屋外の壁面を覆うさまは、その直截的なメタファーにも思われてくる。同展は「ウィリアム・クラインとアジアの若手たち」の写真展ではあるが、それより前に「写真都市」の展覧会ということなのだろう。

 

(取材・文/入江真介、会場写真/吉村昌也)

 

 

藤原聡志:「Scanning #1」

 

 

 

セルフポートレート。ウィリアム・クライン:「Self portrait, Paris 1995( Painted 1995)」

 

ウィリアム・クライン William Klein

1928年、ニューヨーク生まれ。写真家、画家、映画制作者、グラフィックデザイナー。1956年に写真集「ニューヨーク」で衝撃的なデビューを果たし、その後、ローマ、モスクワ、東京、パリなど、挑発的なイメージで作品を発表。20~21世紀の都市ヴィジョンの変貌をダイナミックな写真で提示。また、映画、絵画、デザイン、ファッションといったジャンルを超えて、現代視覚文化において多大なる影響を与えてきた。20世紀を代表する写真家として、今もヨーロッパや世界各地で展覧会が開催されている。

 

 

21_21 DESIGN SIGHT企画展

「写真都市展 -ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち-」

会期:2018年2月23日(金)~2018年6月10日(日)

会場:21_21 DESGIN SIGHT

住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン

開館時間:10:00~19:00(入場は18:30まで)

休館日:火曜日 (5月1日は開館)

入場料:一般1100円/大学生800円/高校生500円/中学生以下無料

*各種割引についてはウェブサイトを参照

電話:03-3475-2121

http://www.2121designsight.jp/

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