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ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展
第15回展で特別表彰された日本館を再現
「建築界のオリンピック」といわれる「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」。2016年に開催された第15回展で日本館は、現在置かれている状況に向き合い、これからの可能性を提示する若手建築家の活動を紹介。特別表彰を受賞した。この展覧会の帰国展「en[縁]:アート・オブ・ネクサス」が、東京・乃木坂のTOTO ギャラリー・間で開催されている。今の、これからの建築の役割を見通すうえで、示唆に富む内容となっている。
「en」に込められた意図と
「縁」を建築で生み出した12組の若手建築家
2年に一度開催され、毎回設定される全体テーマに各国が応答しながら内容を構成していく「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」。最高賞である「金獅子賞」が設定されているため「建築界のオリンピック」とも言われることがあり、国ごとにどのような展示となるのか、毎回注目が集まる展覧会である。
2016年に開催された第15回目のテーマは「REPORTING FROM THE FRONT」。総合ディレクターとされたチリの建築家アレハンドロ・アラヴェナによって設けられたもので、国ごとの社会状況や課題に対し、建築がどのように応えるのか提示が求められたという。
日本は今回、監修者に山名善之氏(東京理科大学理工学部建築学科教授、フランス政府公認建築家DPLG、博士)を迎え、12組の1975年生まれ以降の若手建築家がチームを組んで展示にあたった。
現在、TOTO ギャラリー・間で行われているのは、この展覧会の日本館帰国展。高く評価され特別表彰を受賞した内容とともに、ヴェネチアでの展示がどのように再構成されるのかも、見る側にとっては楽しみの一つとなっている。
3階の第一展示室では最初に、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展のあらましと、第15回目の特徴が簡単に紹介される。全体のテーマ概要に加え、今回「金獅子賞」を受けたスペイン館と、日本と同じく特別表彰を受けたペルー館の概略が解説され、全体と日本館の特徴が示されている。
日本館がテーマに設定したのは「en[縁]:アート・オブ・ネクサス」。「縁」というキーワードをもとに、出展作家12組による建築が「人の縁」「モノの縁」「地域の縁」という3つの分類で紹介されている。
縁という言葉は日本では馴染みがあるが、改めて考えてみるとさまざまなニュアンスがあって興味深い。今回のテーマのもとでは、人・モノ・地域の関係性にある「結びつき」や「つながり」といった意味が引き出され、縁を実現する建築の姿や役割に着目されている。
第一展示室で目を引くのは、大きな建築模型による、成瀬・猪熊建築設計事務所による〈LT 城西〉や、西田司+中川エリカによる〈ヨコハマアパートメント〉。
建築物のディテールだけでなく家具や居住者の持ち物まで再現されていて、見ていると建物の中に入り込んでしまうような錯覚を抱く。そして生活や、この建物で起こる物語まで想像される。これらの作品では、モノやコトをシェアする暮らしと不可分の建築の姿が立ち現れている。
一方で、青木弘司建築設計事務所による〈調布の家〉のように、映像に比重をおいた作品もある。リノベーションされた家の膨大な量のシーンが淡々とつなぎ合わされ、新旧の建物の部分が併存している様子や、時間の積み重さった経過具合が浮かび上がっている。
ビジュアルという点では、増田信吾+大坪克亘の〈躯体の窓〉もインパクトがある。中庭展示スペースの最奥部に展示されているのは、リノベーションされた建物を正面から捉えた写真1枚。
この写真が、大きく引き伸ばされたサイズであるにもかかわらず、細かい解像度を保っている。建物のファサード全面に新たに設置されたガラスによる効果が、1枚の写真で克明に表現されている。
ヴェネチアで高く評価された
しなやかな姿勢から生み出されるたくましい実践例
周辺環境や建築物が置かれている状況を説明するために、模型が効果的に使われている作品もある。miCo.(今村水紀、篠原 勲)による〈駒沢公園の家〉では、木造建築物の骨組が対象住戸だけでなく、周辺一体の建物についても軸組模型で再現され、住宅を分割するようにリノベーションした意図やアプローチの必然性が示されている。
また、建築を体感する仕掛けとして、能作アーキテクツ(能作文徳、能作淳平)の展示付近には縁側のようなスペースが設置されている。ドットアーキテクツ(家成俊勝、赤代武志、土井 亘)の〈馬木キャンプ〉では、ヴェネチアでは、木製のフレームがセルフビルドでつくられたという。
この構築物のなかで、現地の様子を紹介するさまざまな展示物や映像を見ることができる。常山未央(mnm)の〈不動前ハウス〉でも、1/2という大きなスケールで模型を製作。実際に建物の中に入り込む体験ができる。
一見するとバラバラの構成であり、見せ方である。たとえばスペイン館では統一のフォーマットが設定され、それに沿って展示がされている。
しかし日本館では、あえて個々の作品の特徴や建築家の考えがわかりやすくなるよう、会場デザインをしたtecoの金野千恵とアリソン理恵の両氏は各建築家と丁寧に協議し、互いのバランスや連続性を見ながら展示内容や配置を決定していったという。リノベーションのプロジェクトが多いなかで、既存の状況をよりよく身体的に、また直感的に理解してもらうために必要なプロセスであった。
同時にこうした展示は、建築家たちの発想や設計プロセスを紐解くものとなっている。
監修者の山名氏は展覧会に寄せて「それぞれの建築には具体的な対象があり、そこには“人びとの生活の質を改善するための課題”が丁寧に見いだされている。論理的というより、日常的な課題に対して即興的、即物的に応える、「しなやかな」ブリコラージュ的様相を示している」と言及している。
成熟しながらも少子高齢化を伴う人口減少、地方の過疎化に直面する日本社会にあって、現在は建築家という職能自体も変わりつつある。若手建築家たちは個別の案件に正面から向き合い、今回のテーマ「縁」で表されている結びつきやつながりを見いだし、発見を手がかりにして発想を広げている。
そうしたしなやかな姿勢から生まれる建築物は、奇抜ではなくても芯があり、それぞれの土地や地域に根を力強く張っていく。こうしたたくましい実践例の総体が、ヴェネチアでは高く評価された。
4階の第二会場では、それぞれの建築家がヴェネチアでの経験をどう捉えているのか、またそれらの経験を通じて今、何を目指して設計しているのかがインタビュー映像でまとめられている。
何人かの口から出てきたのは、自分たちが考えているテーマや直面している状況は世界各国で同時に起こっていると感じられたということだ。思考を深めたアプローチは、場所を問わず普遍的な価値を持つという確信が見え隠れする。
4階では各建築が現在取り組んでいるプロジェクトの様子も、模型などで示されている。今後それぞれが国内外で活動のフィールドを広げていくときに、どのような展開がされるのかが楽しみになってくる展示会であった。
(取材・文/加藤 純)
ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展とは
ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展は、イタリアのヴェネチアで2年に一度開催され世界中の建築家が参加する建築界のオリンピック。
2016 年に開催された第15 回展は、チリの建築家アレハンドロ・アラヴェナを総合ディレクターに迎え、「REPORTING FROM THE FRONT」というテーマの下、各国ごとの社会状況や課題に対し、建築がどのように応えるのか提示が求められた。
日本館の展示「en[縁]:アート・オブ・ネクサス」は、日本が直面する空き家や高齢化といった課題に対し、今日的な方法で建築による解答を提示したことが評価されて特別表彰を受けた。ペルー館の「Our Amazon Frontline」と同時受賞。最高賞の金獅子賞は、「UNFINISHED」をテーマにしたスペイン館が受賞した。
en[縁]:アート・オブ・ネクサス
――第15 回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館帰国展
会期:2018年1月24日(水)~3月18日(日)
会場:TOTOギャラリー・間
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜日
入場料:無料
住所:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
電話:03-3402-1010(代表)