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2017.10.16

「1冊の本」から豊かな世界が広がる
銀座「森岡書店」が紡ぐ物語

「1冊の本の世界を味わってほしい」をコンセプトにしている「森岡書店」。東京・銀座1丁目の静かな場所にある、世界でいちばん品揃えの少ない本屋である。昭和初期の近代建築の趣のある建物の中のたった5坪の店内に、本から生まれた豊かな世界が広がっていた。

 

 

書店兼ギャラリー「森岡書店」。週替わりで取り扱うのは1種類の本だけ。

 

 

1冊の本を深く味わうことで

つくり手と読み手をダイレクトにつながる

 

2015年5月5日にオープンした森岡書店 銀座店には書棚がない。扱うタイトルは週替わりの1冊のみで、本が所狭しと積み上げられることもない。本屋でありながら、本屋のイメージからは対極のすっきりとした店構えである。

 

「ギャラリー」と言われたほうがしっくりくるような空間だが、あくまでも中心は「本」にある。

 

写真集、絵本、アートの作品集、建築の本、料理のレシピ本、花の本、小説など、森岡書店で扱う本のジャンルはさまざまだ。毎週、1種類の本を取り上げ、「その本の世界」を森岡書店という空間に展開して、展示販売する。

 

たとえば、写真集とオリジナルプリント。絵本と原画。建築の本と模型。小説と、物語から紡がれたアート作品。作家の身の回りのものを展示したこともあった。

 

店主の森岡督行さんは、神田の古書店で働いたのち茅場町に自身の店を出した。「森岡書店 茅場町店」。店名こそ同じだが、現在とはコンセプトも扱う本の数もまったくちがう。茅場町は古書店兼ギャラリーで、100冊ほどを並べていたという。

 

 

本からイメージしたアーティストの作品を展示したり、作家のトークイベントやサイン会なども開催。

 

 

取材時、写真家、須田誠さんの写真集『GIFT from Cuba』を展示。出版記念の写真展と異なるのは、本に力点があること。壁面にはオリジナル作品も飾られているが、あくまで本が主役となっている。

 

 

それがなぜ、「1冊の本」だけにスポットを当てるような店となったのか。

 

「茅場町のときにも、本を中心とした企画展は開催していました。著者やデザイナー、編集者など本づくりに携わった人のトークイベントやサイン会には、たくさんのお客さんが足を運んでくれる。そこに集う誰もが幸せそうだったので、もしかしたら扱う本が1冊だけでも書店として成立するのではないか、と考えたんです」(森岡さん)

 

森岡さんは、銀座に店を移転し、新たなコンセプトで「森岡書店 銀座店」をスタートさせた。「新刊書店の特設本コーナーが独立している、というイメージが近いかもしれません」と言われると、なるほど納得。

 

つくり手が本にかけた熱量や想いを読み手に伝える。その空間と時間=「場」を提供するのが、森岡書店なのだ。

 

 

(左)白塗りの壁とアンティークのカウンターが店の雰囲気を高めている。(右)「エネルギーの詰まった本を紹介することで、日本の豊かな出版文化を知ってほしい」と森岡さん。

 

 

森岡書店で出会った本から

想い出の1冊が生まれる

 

森岡書店は佇まいがいい。昭和4年に建てられた、築88年の古いビルの1階。昭和初期の近代建築として、東京都の歴史的建造物に指定された趣のある建物だ。

 

内装はいたって簡素。床はタイルをはがしたままだし、壁は白く塗っただけ。奥の床がウッドになっているのも「わざわざ選んだ」のではなく、昔、石炭を入れていた場所が窪んでいるため、大家さんが板を張ってくれたのだという。

 

だが、森岡さんらしいこだわりもある。展示スペースは黄金比とし、全面ガラス張りに。アンティークのカウンターには、低めに下げたペンダントライトと黒電話を合わせた。

 

「銀座に移転を決めた理由のひとつは建物だった」と森岡さん。鈴木ビルには、かつて写真家の名取洋之助、土門拳、藤本四八、グラフィックデザイナーの山名文夫、信田富夫、亀倉雄策らが参画した制作集団「日本工房」が事務所を構えていた。日本の出版界を牽引した第一線のクリエイターと深い縁のある鈴木ビルで、本屋を営むことは、森岡さんにとって大きな意味があった。

 

「残念ながら出版不況とも言われていますが、日本は印刷の技術も長けているし、凝ったつくりの本もたくさんある。エネルギーの詰まった本を紹介することで、日本の豊かな出版文化を知ってほしいんです」(森岡さん)

 

 

昭和4年に建てられた築88年の鈴木ビル。昭和初期の近代建築として、東京都の歴史的建造物にも指定。「銀座に移転を決めた理由のひとつはこの建物でした」(森岡さん)。

 

 

かつて鈴木ビルは、写真家の土門拳やグラフィックデザイナーの亀倉雄策らが参画した制作集団「日本工房」が事務所を構えていた。日本の出版界を牽引したクリエイターと深い縁のある鈴木ビルで本屋を営むことは、森岡さんにとって大きな意味があった。

 

 

森岡書店では、6日間の会期中、1冊の本についてのトークイベントや朗読会などを開催している。本のつくり手と読み手の間にコミュニケーションが生まれることで、つくり手と、本と、読み手の関係性は、より密なものになる。

 

たいていのものがインターネット通販で買える時代。本も例外ではない。「本はインターネットで買う」という人が増えるに従って、街の本屋はどんどん減っている。

 

だからこそ「“本を買う”という行為そのものを楽しんでもらいたい」と森岡さんは言う。本の内容を、どのように展開し、展示するのか。著者や編集者と話をしながら決めていく。

 

オープン当初は、森岡さんが企画し、本のつくり手に打診することが多かったが、徐々に「本を出すので扱ってほしい」と声をかけられることが増えた。最近では、本の企画がスタートするときに展示の話がくることもあるという。

 

森岡さんが、つくり手と読み手をていねいにつなぐことで、ただの書籍ではなく想い出の1冊になる。森岡書店で出会う本には、買ったときの記憶も含めて所有する楽しみが生まれる。

 

そんな特別な1冊に、出合いに行ってみてほしい。

 

(取材・文/久保加緒里、写真・坂本堅輔)

 

 

10月17日からは絵本作家、田島征三さんの絵本と原画の展示、10月24日からはスポークン ワーズ プロジェクトのデザイナー、飛田正浩さんのコンセプトブックを中心とした展示を行う予定。

 

 

森岡書店

住所:東京都中央区銀座1-28-15 鈴木ビル1F

電話:03-3535-5020

営業時間:13:00〜20:00

定休日: 月曜日

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