アーバンインフォメーション
入りたくなる。ずっといたくなる。
公共施設の名作、武蔵野プレイスの空間力。
JR中央線の街、武蔵境。吉祥寺や三鷹からすぐ近くなのに、駅前には大きな木々に囲まれた公園があり、北側のアーケードでは両側からあふれるような蔦の葉が潤い、どこかゆったりしたリズムが身体を包んでくれる。
その駅前の公園に溶け込むように建つ、今まで見たことのないような白い建物が「武蔵野プレイス」だ。図書館を中心にした複合機能をもたせた公共施設。丸みをおびた4つの角、壁には楕円のような丸い窓。近未来的だけれどもエキセントリックなのではなく、やさしい温もりさえ感じる、まるで美術館のようなデザインは、かなり特徴的だ。
もしかすると、外観とその空気感だけで「入りたい」と思わせる公共施設は、ここが初めてかもしれない・・・。そう感じるほどに、デザインには人を惹きつけるチカラがある。2011年のオープンから約7年、街にすっかり溶け込んだ「武蔵野プレイス」には、日々多くの人々が訪れ、それぞれが思い思いに時間を過ごしている。「武蔵野プレイスがあるから、この街に引っ越してきた」という人がいるというのもうなずける。
駅に近い1階のエントランスを入って、正面に開放的なカフェレストラン、というところから斬新だ。そのまわりに総合受付、最新版の雑誌や新聞が見られる閲覧室やギャラリーがあって、さらに各フロアへとつながっていくのだが、内部にも曲線がふんだんに使われたそれらの空間は、中にいると不思議なほどに居心地がいい。
それは、内部空間のデザイン手法に心地よさの鍵があるらしい。ここ「武蔵野プレイス」は図書館、生涯学習支援、市民活動支援、青少年活動支援の4つの機能からなるが、それらを分離して配置するのでなく、むしろその垣根をなくし、世代を越えて市民同士が気軽に交流して、さまざまな人たちにとっての居場所になるような「知的交流拠点」を作ろうという発想から空間設計が始まったのだという。
そのために採用したのが「ルーム」と呼ばれる数十個のユニットを全層にわたってつなげ、その集合体で施設を構成するという考え方だ。
ひとつ一つのユニットは、人が感じる居心地の良さで大きさや形が決まっていて、その「ルーム」は柔らかなアーチ状の開口でとなりあうルームとつながり、吹抜によって上下の階とつながっていく。壁に隔たれた廊下もない。本を探していたり、なんとなくフロアをまたいで歩いていると、いつの間にか市民活動の集まりが行われているコーナーを通りがかり、「楽しそう」「面白そう」と思ってつい参加してしまったり、情報をもらっている自分に気づく。
アートや音楽、映画、近隣の大学との連携による多彩な講座など、大人向けにも子供向けにもほんとうにたくさんのプログラムがひらかれている。活動内容のラインナップはほかの街でもさほど変わりないのかもしれない。しかし、それをやってみたくなったり、自分でも企画してみたくなったりと、創造性が触発される感覚をおぼえるのは、まさに「ルーム」と「ルーム」が共鳴し合う独自の空間構造をもたせたこの場のチカラのように思える。
もちろん、読書をする人や、勉強をしようという人々にも、この空間はやさしい。書棚は天井に届かない高さで、開放的かつ見通しがいいからどことなく安心。静かなワーキングデスクは有料の個人席で各席で電源を使用でき、ふた付きの容器ならコーヒーなども持ち込める。室内の家具も照明もすべてトータルでデザインされているので、どこまでも居心地がいい。
この街に暮らすことにワクワクするような価値を与えてくれる「武蔵野プレイス」の「場」づくりは、官民を越えて注目を集めている。家と職場のあいだにある心地よい「サードプレイス」の発想や、本やアート、人のつながりを生みだすカフェなど、今までにないさまざまな空間の形が模索されているいま。新しい公共施設のあり方の、これからの社会を変えていく力に期待したい。
ひと・まち・情報 創造館 武蔵野プレイス
所在地:武蔵野市境南町2-3-18(JR中央線・西武多摩川線「武蔵境」駅南口徒歩1分)
開館時間:9:30〜22:00(毎週水曜、図書特別整理日、年末年始は休館)
ウェブサイト:http://www.musashino.or.jp/place.html
写真提供・協力:ひと・まち・情報 創造館 武蔵野プレイス
(文・杉浦岳史)