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2018.02.09

文化財「百段階段」で春の和の文化に浸る
百段雛まつり 近江・美濃・飛騨ひな紀行

東京・目黒にあるホテル雅叙園東京で、毎春恒例の『百段雛まつり』が開催されている。9回目となる今回は、近江・美濃・飛騨地域の人形約500体を館内の東京都指定有形文化財「百段階段」に展示。商家に伝わる「御殿飾り」や、井伊家ゆかりの「古今雛(こきんびな)」、現代の雛匠・東之湖(とうこ)作の「清湖雛(せいこびな)」など多彩な雛人形、雛飾りを楽しめる。過去8年間で47万人を集客したという人気の企画展だ。

 

 

「井戸家の御殿飾り」(岐阜・個人コレクション)/草丘(そうきゅう)の間

 

 

西で発展した雛文化「御殿飾り」を8点展示

井伊家・砂千代姫の「古今雛」も関東初公開

 

雛飾りというと、5段または7段の台に鮮やかな緋毛氈を敷いた「段飾り」が広く知られているが、江戸時代から大正時代にかけて西の文化圏では「御殿飾り」が趨勢だった時代がある。

 

御殿飾りとは、京の御所を模した御殿のなかに内裏雛を飾り、側仕えの官女、掃除や煮炊きなどを担う三人仕丁(じちょう)、護衛の武官である随身(ずいじん)などを配置する様式だ。

 

今回の展示には8点の御殿飾りが出展されているが、御殿も人形も雛道具もそれぞれに個性がある。いずれも飽くことなく隅々まで観賞したくなる名品揃いだ。

 

 

「日野、正野家の御殿飾り」(滋賀・東近江市、近江八幡市、日野町)/十畝(じっぽ)の間

 

 

「近江八幡、古今雛」(滋賀・東近江市、近江八幡市、日野町)/十畝の間

 

 

蒲生氏郷の居城でもあった日野城の城下町(現在の滋賀県蒲生郡日野町)で近江日野商人として栄えた正野家の御殿飾りは、御殿に屋根がなく上から内部が見える源氏物語絵巻の建物のような「源氏枠御殿」。

 

高さ2mという、今回の展示品のなかでもっとも大きなサイズで迫力がある一方、饗宴ですっかりごきげんになった仕丁などユーモラスでおおらかな印象も感じられる。

 

雛祭りの時期には100体以上の雛人形を飾る「雛の宿」としても有名な岐阜県高山市の「本陣平野屋 花兆庵」のコレクションの御殿飾りも源氏枠御殿の様式。

 

飛騨高山には「人間が寝静まったあと、お雛様がお食事をなさるのにお箸として使う」といういわれがあることから、根つきのあさつきも飾られている。地方色が色濃く見えるのも、雛飾りのおもしろいところだろう。

 

 

「白木道具」(岐阜・個人コレクション)/草丘の間

 

 

「井伊直弼七女、砂千代姫の雛」(滋賀・長浜城歴史博物館、大通寺)/静水(せいすい)の間

 

 

めったに見ることができない個人蔵の雛飾りも見どころのひとつ。岐阜県在住のコレクター・井戸氏の所蔵品は、茅葺御殿飾りや静岡の東照宮をモチーフに鯱(しゃちほこ)をはじめとする金の細工、朱塗りで豪奢に飾った御殿飾りのほか、白木のお道具がずらり。ひとつひとつ精巧につくり込まれていて、ミニチュアファンならずとも感嘆の声をあげてしまう。

 

人形そのものが大きな存在感を放っている雛飾りもある。近江彦根藩の第15代藩主・井伊直弼の七女で、「長浜御坊(ながはまごぼう)」の名で親しまれている「大通寺」の養女となったのち住職の厳澄(ごんちょう)の内室となった砂千代(さちよ)姫の古今雛。しっかりとつくりこまれたかなり大ぶりな雛人形で、威風堂々と言っても過言ではないような風格が漂っている。

 

黒漆に牡丹唐草文があしらわれた雛道具も見事だ。2体の舞人形を含め、大名家の調度品に相応しい品々は、まさに眼福である。

 

 

「土野家のお雛さま」(岐阜・飛騨高山)/漁樵(ぎょしょう)の間

 

 

「土野家の女雛」(岐阜・飛騨高山)/漁樵の間

 

 

「飛騨高山のお雛さま」(岐阜・飛騨高山)/漁樵の間

 

 

「平野屋のお雛さま」(岐阜・飛騨高山)/漁樵の間

 

 

一刀彫や陶磁器、郷土玩具にみる

雛人形と伝統工芸の美

 

『百段雛まつり』に飾られているのは、大名家や旧家に伝わる豪華な雛飾りばかりではない。伝統工芸の美を現代につなぐ一作として特別展示されたのは、雛人形作家・東之湖の「清湖雛」。頭部が小さく顔のつくりも現代的だが、近江の特産である麻布「近江上布(おうみじょうふ)」を、琵琶湖をイメージしたブルーに染め上げて衣裳としている。

 

飛騨高山の一刀彫の雛、美濃和紙の灯りとともに飾られた美濃の雛、各地の素朴な土雛(つちびな)や土鈴、郷土玩具も展示されている。岐阜県郡上市にある「日本土鈴館」のコレクションから厳選した人形や玩具は、カラフルで、素朴で、かわいらしく、庶民に愛されてきたことがわかる。

 

 

「日下部家の雛」(岐阜・飛騨高山)/清方(きょかた)の間

 

 

「郷土玩具と土雛の世界」(日本土鈴館)/星光(せいこう)の間

 

 

「郷土玩具と土雛の世界」(日本土鈴館)/星光の間

 

 

郷土玩具人気雑貨店「中川政七商店」とのコラボレーションの部屋も設けられていて、郷土玩具をモチーフにしたフィギュアのガチャガチャ「日本全国まめ郷土玩具蒐集」シリーズ全作を間近で見られるほか、ミュージアムショップではカプセルトイのカプセルも販売している。

 

なお、人形の乾燥を防ぐため展示空間には暖房が控えられている。百段階段はかなり冷える日もあるので、ぜひとも暖かい格好で訪れ、「昭和の竜宮城」と呼ばれた百段階段の絢爛豪華な建築意匠と、近江・美濃・飛騨という西国と東国の文化をつないだ交易都市ならではの多様な様式の雛飾りを、じっくりと楽しんでほしい。

(取材・文/久保加緒里)

 

 

特別コラボレーション/「中川政七商店の郷土玩具ルーム」

 

 

百段雛まつり 近江・美濃・飛騨ひな紀行

開催期間:2018年1月19日(金)〜3月11日(日) 会期中無休

会場:ホテル雅叙園東京内 東京都指定有形文化財「百段階段」

開館時間:10:00-17:00(最終入館16:30)

観覧料:一般1500円/学生800円(要学生証呈示)/小学生以下無料

住所:東京都目黒区下目黒1−8−1

問い合わせ:03-3491-4111

http://www.hotelgajoen-tokyo.com/hinamatsuri/

 

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