デザインインフォメーション
単純な写真の原理から生み出された
心をつかむ99の風景
「写真は、ライティングで決まる」。そんなことばを聞いたことがある。
佐藤の作品は、ストロボをセッティングしたいわゆる「ライティング」の技術は使われていない。しかし、光そのものにこれほど寄り添い、際立たせた作品は稀有であるように思う。
佐藤の作品のなかの光は、まるで生き物のようだ。作品から、笑い声やささやきが聴こえてきそうな気がしてくる。
とくに印象的だったのは、「Trees」というシリーズだ。ブナの幹の周りにいくつもの円い光が点在している。ひんやりとした空気。澄んだ空気のにおい。風に揺れる木々の音。遠くで啼く鳥の声。神秘。畏怖。写真を見ているだけなのに、五感で森が感じられる。
長時間露光で撮影した作品のほかにも、ピンホール・カメラやカメラ・オブスクラなど原始的な構造のカメラで撮影された作品群も多数展示されていた。佐藤の制作の根底には、「なぜ写るんだろう?」、「おもしろい!」という写真に対する素朴な疑問や好奇心があるような気がする。
展示されているのは、佐藤が各地で拾い集めた光のかけら、99点。単純な原理が生み出す強烈なインパクトと光の気配を、多くの方に間近で見ていただきたいと思う。
(文・久保加緒里)
佐藤時啓(さとうときひろ)
1957年、山形県酒田市生まれ。1984年、東京藝術大学美術研究科彫刻専攻修了。1990年、第6回東川賞新人作家賞、第18回日本国際美術展で、美術文化振興協会賞・いわき市立美術館賞・埼玉県立近代美術館賞の3賞を受賞。海外での評価も高く、1993年の第1回アジア太平洋現代美術トリエンナーレなどに招待される。1995年の「空間・時間・記憶」、2003年の「日本写真史展」などの国際巡回展や、2005年のシカゴ美術館での個展など、多数の展覧会に参加し出品している。
佐藤時啓 光―呼吸
そこにいる、そこにいない
会期:2014年5月13日(火)~ 2014年7月13日(日)
会場:東京都写真美術館 2階展示室
開館時間:10:00-18:00
(木、金曜日は20:00まで。入館は閉館30分前まで)
休館日:毎週月曜日
観覧料:一般700円/学生600円/中高生・65歳以上500円
*各種割引についてはウェブサイトを参照
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
電話:03-3280-0099(東京都写真美術館)
美術館サイト:www.syabi.com