デザインインフォメーション
全員が近代美術の巨匠!
フィリップス・コレクション展開催中
「フィリップス・コレクション」
それは、ヨーロッパ美術を愛したある人物の強い情熱が創りあげた、近代アートの宝物ともいえるコレクションそして美術館の物語だ。
東京・丸の内で、展覧会『フィリップス・コレクション』を開催中の三菱一号館美術館。ここが1894年に建てられた赤レンガ造りのオフィスビルを、当初の設計に基づいて再現した建築であることは、ご存じの方も多いかもしれない。この最初の建物が誕生した19世紀から20世紀にかけてといえば、歴史も文化も激動の時代。日本をはじめアジア、アフリカの文化がヨーロッパでブームを起こしたり、それに影響を受けた印象派などの潮流が今度は米国に渡って人気を得たりと、世界を巻き込んだアート界の新しい動きが生まれていた頃だった。
この時代は、のちにフランスを中心とした西洋美術を代表するような巨匠をたくさん輩出した。しかしその当時のヨーロッパでは、まだまだ絵画のモチーフと言えば古典的なジャンルが画壇で幅をきかせていた時代。彼らの表現はあまりに前衛的すぎて、最初の頃は理解されないどころか、時には批判されもした。
それを高く評価し収集したのはむしろ外国人たちで、なかには多くの米国人実業家がいた。「フィリップス・コレクション」の創始者、ダンカン・フィリップス(1886-1966)もその一人だ。彼は生涯を費やし、芸術に対する高い見識で、精力的に印象派やポスト印象派、表現主義などの作品を収集。そして1921年、ワシントンにある19世紀建築の私邸に、フィリップス・メモリアル・アート・ギャラリーを開館する。1929年に開館したあのニューヨーク近代美術館(MOMA)よりも早く、近代美術を扱うアメリカにおける最初の美術館だといわれている。
フィリップスはまた、同時代の美術をサポートした最初の美術館長のひとりでもあると、フィリップス・コレクション現館長のドロシー・コロンスキー氏は話す。初めに創ったギャラリーを「実験場」と呼び、評価の高まった所蔵作品だけでなく、共通の感性をもった存命中の画家の絵画を一緒に見ることができる場所にした。芸術家をよく知り、交流しただけでなく、最初の買い手になるなど、金銭的なサポートをすることも多かったという。
アメリカで最初にピエール・ボナール、ジョルジュ・ブラックの作品を購入し、彼らの個展を開催した美術館はフィリップス・コレクション。企業や実業家が文化活動を支援する、いわゆるメセナのパイオニアともいえそうだが、まさに情熱と審美眼がなくてはできないことだ。
1966年に彼は亡くなるが、その精神は現在のフィリップス・コレクションにまで受け継がれ、今では約4,000点以上にもおよぶ所蔵作品がある。
そのコレクションの中核をなす作品は、どれも質の高いものばかり。その中から、ドミニク・アングル、ウジェーヌ・ドラクロワ、ギュスターブ・クールベ、そしてマネ、モネ、セザンヌ、ゴーガン、ピカソなど、まさに「全員巨匠」ともいえる秀作ばかり75点が今回集まった。
展覧会でもうひとつ注目したいのは、作品の展示方法だ。作家の回顧展などと違い、制作年ごとに追うのは難しい。そこで今回はフィリップスが収集した時系列で展示をしている。つまり観客は、彼がどのようにコレクションを発展させていったのかを感じることができるという。
そんな彼が1910年に最初に訪れた外国が、実は日本だったという。その時フィリップスは強い感銘を受け、浮世絵が西洋の芸術家に大きな影響を与えたことを実感する。確かに、極東の島国の絵が、遠く離れた国々の絵画の革命に一役買ったというのはかなり興味深い。
「珠玉」という言葉が似合う作品が集まったこの展覧会。赤レンガ、親しみやすい展示室など、フィリップス・コレクションとの共通点も多い三菱一号館美術館で、ぜひゆっくりと当時の美術家たちを包んでいた時代の変化を感じてみたい。
(text 杉浦岳史)
「フィリップス・コレクション」展
2019年2月11日(月・祝)まで
三菱一号館美術館
所在地 〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2
開館時間 10:00~18:00※入館は閉館の30分前まで
(祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで)
料金:一般 1,700円
アフター5割(第2水曜日17:00以降/当日券一般(女性のみ)1,000円)※他の割引との併用不可 ※利用の際は「女子割」での当日券購入の旨お申し出ください。
休館日 月曜日(但し祝日の場合、会期最終週とトークフリーデーの1/28は開館)、年末年始(12/31、1/1)
URL https://mimt.jp