デザインインフォメーション

2018.09.12

見えない音楽で空間を構築する?!
六本木で体感「AUDIO ARCHITECTURE展」。

大西景太「Cocktail Party in the AUDIO ARCHITECTURE」 Photo: Atsushi Nakamichi(Nacása &Partners Inc.)

六本木の東京ミッドタウンにある21_21 DESIGN SIGHT。デザインの視点でさまざまなできごとやものごとをリサーチし、世界に向けた発信を続けるこの拠点で、現在「AUDIO ARCHITECTURE : 音のアーキテクチャ展」が開催され、子供から大人まで数多くの観客の五感を楽しませている。特に週末は家族連れもふくめかなりの人気だ。

 

そもそも「音のアーキテクチャ」って何?

 

そんな素朴な疑問を感じた瞬間、すでにあなたはこの展覧会の魅力に一歩足を踏み込んでいるといえるだろう。

 

会場風景(ギャラリー1 入り口) Photo: Atsushi Nakamichi(Nacása & Partners Inc.)

 

事の発端は、今回展覧会ディレクターを務めた中村勇吾氏が読んだという、あるエッセイの一節にさかのぼる。ジョン・レノンとオノ・ヨーコの息子であり、ミュージシャンのショーン・オノ・レノンがある雑誌に寄稿した文章。その中で彼はコーネリアスのニューアルバムについてこう語っていたという。

 

「He paints a kind of audio architecture. (彼はいわば音のアーキテクチャを描いている)」

 

「音の建築」・・・その言葉に、中村勇吾氏はひらめきを得て、それをカタチにするという挑戦を始めた。

 

中村氏は、ウェブ、映像、インタラクティブデザインの分野で活躍するクリエイター。NHK Eテレの番組『デザインあ』などですでにコラボレーションを手がけてきたコーネリアスこと小山田圭吾氏と組み、まずは彼が展覧会のために新曲『AUDIO ARCHITECTURE』を書き下ろした。それをもとに気鋭のクリエイター9組が、それぞれの視点によって楽曲を表現した映像作品を制作する、という今までにない試みだ。

 

中村勇吾

 

小山田圭吾(Cornelius)

 

参加作家は、稲垣哲朗、梅田宏明、大西景太、折笠良、辻川幸一郎 × バスキュール × 北千住デザイン、勅使河原一雅、UCNV、水尻自子、ユーフラテス(石川将也)+阿部舜。どれも、映像、アニメーション、ダンス、グラフィック、広告、イラストレーション、プログラミング、メディアデザインなど、ジャンルを横断して新しい表現を切り拓くプロフェッショナルたちばかり。

 

 

音楽は、音色やリズム、音量などの要素が緻密にデザインされた構造物(アーキテクチャ)だといえる。ただそれは目に見えないものだけに、私たちはその構造を意識することはほとんどない。しかも時間とともに変化しつづける。それをあえて、ひとつの音楽をもとに空間を構築するというのだから簡単ではない。会場構成にはWonderwallの片山正通氏を迎え、音、映像、テキスト、そのあらゆる要素が音楽を軸に連動し、調和しつづける「音楽建築空間」がここに出現した。

 

スタジオライブ映像:稲垣哲朗 Photo: Atsushi Nakamichi(Nacása & Partners Inc.)

 

カタチを変えて光るタイトルを見ながら入る最初のギャラリー1。小山田圭吾氏が自ら演奏する「AUDIO ARCHITECTURE」のスタジオライブ映像が3つの壁に映し出される稲垣哲朗氏の作品で、いわば展覧会のプロローグ。尺にして4分半ほどのこの曲が、ひたすらにループして会場全体を貫いていくという構成になっている。

 

 

次に進むと「AUDIO ARCHITECTURE」の音楽が包み込む中、巨大なギャラリー2の壁をスクリーンに、8組の作家による映像が映し出される。

 

辻川幸一郎(GLASSLOFT)× バスキュール × 北千住デザイン「JIDO-RHYTHM」 Photo: Atsushi Nakamichi(Nacása & Partners Inc.)

 

この空間のすごいところは、スクリーンがステージとなっていて、床まで映像が投射されること。観客はそこを自由に行き来でき、座ってじっくりと作品にひたることもできる。流れる映像が顔や身体に映ると、まるで作品の一部になったみたいで、見に来た子供たちもうれしそう。

 

あるいは客席のようになった階段に座ってスクリーンを眺めるのもいい。音、光、映像、床からの振動が混ざり合った渦の中で、やがて身体の内部に音楽がしみこんでいくのがわかる。暗闇で五感が研ぎ澄まされることもあって、しばらくすると作家それぞれの解釈した「音楽の構造」が感じられてくる。

 

作品のいくつかを紹介してみよう。

 

梅田宏明「線維状にある」 Photo: Atsushi Nakamichi(Nacása & Partners Inc.)

 

梅田宏明氏の「線維状にある」は、そのスピード感に惹きつけられる。振付家であり、さらにその領域を超えて映像や音・照明まで総合したビジュアルアートを手がける梅田宏明氏。身体の動きと音、光の相互作用を追求してきた彼が、音楽の構造を「筋線維」のモチーフで表現する。筋肉線維が細い光として映し出され、スクリーン全体を疾走すると、音楽は力強いグルーヴ感をもったストラクチャーとして感じられる。

 

勅使河原一雅「オンガクミミズ」 Photo: Atsushi Nakamichi(Nacása & Partners Inc.)

 

勅使河原一雅氏の「オンガクミミズ」は、それとはまったく違ったアプローチだ。楽曲を「生命的に脈打つもの」として捉え、その断面の連続を描いていくことで、音楽を聴くという行為の中に潜む複雑さを映像に表現しているという。ミミズのようにうねうねとうごめくその断面は、音楽をまさにひとつの生命体のように感じさせる。

 

UCNV「Another Analogy」 Photo: Atsushi Nakamichi(Nacása & Partners Inc.)

 

「AUDIO ARCHITECTURE」の歌詞は「Light / Shadow」「Structure / Surface」など、いくつもの対義語の対比からできている。UCNVの映像「Another Analogy」は、それを正常な映像と、構造の崩れたデジタル画像という、二つのバージョンを並べることで表現した。それらは互いに違った世界の存在を想起させて、音の聴こえ方さえも歪んでくる。

 

 

興味深いのは、8組それぞれがまったく異なる切り口と距離感で音楽との関係性を表現していることだろう。ここギャラリー2の奥の空間では、個々の作家の映像がブースごとに分かれて展示されて、さらに理解が深まる仕組みになっている。

 

水尻自子「airflow」 Photo: Atsushi Nakamichi(Nacása & Partners Inc.)

 

 

とはいえ、これほど「百聞は一見にしかず」の言葉が似合う展覧会もないだろう。おすすめは、事前に一度Youtubeのコーネリアス公式チャンネルを訪れて「音のアーキテクチャ」と評された音楽の一端を感じてみること。そして会場を訪れ、ゆっくりと時間をかけて空間体験を楽しむこと、だろうか。展示を見た後では、ふだん何気なく接している音や音楽の見方も変わってくるはずだ。

 

 

 

「AUDIO ARCHITECTURE : 音のアーキテクチャ展」

会期:2018年10月14日(日)まで(火曜休館)

開館時間:10:00 – 19:00 (入場は18:30まで)

入館料:一般1,100円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料

会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2(東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン)

アクセス:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線「六本木」駅、東京メトロ千代田線「乃木坂」駅徒歩5分

ウェブサイト:http://www.2121designsight.jp

 

(文・杉浦岳史)

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