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2018.02.19

ボストン美術館 パリジェンヌ展
時代を映す女性たち

パリジェンヌ――。パリで生活する人々の中で女性を指す名称だ。さまざまな職業や立場で輝くような生き方こそ、パリジェンヌらしさを物語っている。そうした魅力的な女性たちにスポットを当てた展覧会が、東京・世田谷美術館で開催されている。ボストン美術館蔵の多彩な約120点の作品を通して、18世紀から20世紀のパリを映し出したパリジェンヌたちに出会うことができる。

 

 

(上・左)ジョン・シンガー・サージェント《チャールズ・E. インチズ夫人(ルイーズ・ポメロイ)》
1887年 Anonymous gift in memory of Mrs. Charles Inches’ daughter, Louise Brimmer Inches Seton 1991.926 
(右)エドゥアール・マネ《街の歌い手》1862年頃
Bequest of Sarah Choate Sears in memory of her husband, Joshua Montgomery Sears 66.304

 

 

パリに生きたパリジェンヌ

その魅力的な女性たちに出会える

 

ニューヨーカーや、ロンドナー。世界の各都市の住人たちの呼び名にはそれぞれ文法的な語尾の変化というだけではなく、羨望や憧憬といった特別な意味合いが付加されている。その極めつけがパリジェンヌだろう。そして性のあるフランス語の名詞の特質から、この呼称はパリの住人の中でも女性のみを指している。

 

ボストン美術館が所有する膨大なコレクションの中から、絵画はもちろんのこと工芸や写真、服飾にいたるジャンルを超えた作品を、ひとつのテーマの元に編集した展覧会「パリジェンヌ展」が世田谷美術館にて開催中だ。

 

もちろんそのテーマはパリジェンヌ。この抽象的な概念がどのように造形化されてきたかを通史的に俯瞰する意欲的な試みとなっている。

 

 

(左)《ドレス(3つのパーツからなる)》1770年頃
The Elizabeth Day McCormick Collection 43.1643a-c 
(右)ルイ=レオポルド・ボワイ―《アイロンをかける若い女性》1800年頃
Charles H. Bayley Picture and Painting Fund 1983.10

 

 

同展ではパリジェンヌという概念が形作られ始めたのは18世紀とされている。ルイ14世が亡くなり華やかな社交の場がヴェルサイユからパリへと移ったことで、女主人たちが客をもてなすサロン文化がパリに花開いた。

 

以降、脈々と続くこうした女性たちに表象される文化は、彼女たちのその属性─パリの住人たち─と分かちがたく結び付けられることになる。「パリジェンヌ展」がサロンを描いた室内画を背景に18世紀当時の豪華なドレスで幕を開けるのはごく自然な流れである。

 

 

(左)ピエール=オーギュスト・ルノワール《アルジェリアの娘》1881年
Juliana Cheney Edwards Collection 39.677 
(右)メアリー・スティーヴンソン・カサット《縞模様のソファで読書するダフィー夫人》1876年
Bequest of John T. Spaulding 48.523

 

 

この同じ空間に私たち日本人にはなじみのあるものも展示されている。日本へ発注された磁器製のティーカップや砂糖壺である。それらはすでに存在していたものがパリで茶器として利用されたのではなく、東インド会社を通じて専用に発注されたティーセットの一部であった。

 

美術工芸品として評価されボストンにまでたどり着いたこれらの小さな磁器を見るとき、パリジェンヌが文化人たちを招いた18世紀のサロンで社交に重要な役割を担っていたと知るのは、日本人としては少し面映いような誇らしいような何とも表現しがたい感慨を抱く。

 

 

(左)レギーナ・レラング《バルテ、パリ》1955年
Gift of Leon and Michaela Constantiner 2010.429 Münchner Stadtmuseum, Sammlung Fotografie, Archiv Relang
(右)ピエール・カルダン《ドレス》1965年頃
Joyce Arnold Rusoff Fund 1998.436

 

 

ジャンルを超えた多彩な展示内容で

パリジェンヌの変遷を知ることができる

 

「パリジェンヌ展」は確かにマネやルノアール、サージェントといったなじみの作家たちの作品も展示されてはいるが、そうした名作に出会うことのみを目的に訪れたのでは、同展の醍醐味を存分に味わいつくすことはできない。

 

この空間に展開されている多様な展示品のすべてが、パリジェンヌという概念につながっている。一つひとつは小さいが、18世紀まで遡ることができるファッション雑誌や女性の社会進出と表裏一体にある風刺画も、駆け足で「観」飛ばしてしまってはもったいない。

 

規模としては決して大きいとは言えないかもしれないが、内容の濃い見ごたえのある企画となっている。名画に会うだけを目的に訪れると、いい意味で期待を裏切られる上質な展覧会である。

 

(取材・文/入江眞介)

 

 

(左)ゲアダ・ヴィーイナ《『ジュルナル・デ・ダム・エ・デ・モード』より、プレート170》1914年
Gift of Philip Hofer, Esq. 63.2578 
(右)シャルル・ナイヨ《ダンスする女性シリーズ〈ムーラン・ルージュの舞踏会〉より》1905年
Collection of Leonard A. Lauder

 

 

Photographs ©Museum of Fine Arts, Boston

 

 

ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち

会期:開催中~4月1日(日)

会場:世田谷美術館 1・2階展示室

開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)

休館日:月曜日

観覧料:一般1500円/65歳以上1200円/大学・高校生900円/中学・小学生500円

住所:東京都世田谷区砧公園1-2

問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

http://paris2017-18.jp/

 

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