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2018.05.28

天才芸術家の創作の源泉に触れる
岡本太郎の写真-採集と思考のはざまに

精力的に活動した芸術家・岡本太郎の、みずみずしい眼差しを知ることのできる展覧会「岡本太郎の写真-採集と思考のはざまに」が、川崎市岡本太郎美術館で開催されている。当時の風景が迫ってくるような会場構成がされていることが特徴で、岡本太郎の創作活動の源泉に触れられる貴重な体験となるだろう。

 

岡本太郎が撮影したさまざまな写真をテーマに分けて一堂に展示。彫刻や絵画作品なども合わせて展示されている。

 

岡本太郎が残した数多くの写真から

絵画や彫刻への関心のありかたが伝わってくる

 

岡本太郎は旅先などで写真を撮ることが多かったものの、生前に写真展が開催されることはなかったという。しかし、彼は生涯を通して数多くの写真を撮影し、フィルムを残した。それらの多くは1950年代から60年代にかけて、雑誌に連載する自分の文章を補完するための挿図とすることを目的に、自ら撮影したものだという。

 

本展覧会は、岡本がフィルムに定着したモチーフやイメージを軸に、岡本太郎の目が見つめ、とらえたものを検証することで、絵画や彫刻にも通底する彼の関心のありかを探る主旨のもの。

 

昨年同じ会場で開催された「岡本太郎×建築」展でも、同氏が撮影した写真が展示されているコーナーは印象的であった。彼の関心に導かれて動く視点、一瞬を切り取る感覚がダイレクトに伝わってきたからである。

 

(左)「コザの街/沖縄」1959年。(右)「箱まわしの小さな人形の首/四国」1957年

 

写真展を企画するにあたり、写真批評家の楠本亜紀氏らは、岡本の写真を改めて並べ、共通するテーマを探っていったという。

 

浮かび上がってきたのは、「1. 道具/どうぐ(縄文土器、道具、手仕事、生活)」「2. 街/まち(道、市場、都市、屋根)」「3. 境界/さかい(階段・門、水、木、石、祭り)」「4. 人/ひと(人形、動物、こども、人、集い)」の分類。これまで「沖縄」や「東北」といった場所や時系列で捉えられることの多かったものが、新たに再編集されている。

 

展示されている写真にはタイトルなどの情報は添えられておらず、詳しく知りたいときは出品リストで確認することになる。

 

「美しい形のヤス/四国」1957年

 

(左)「ジャグル/メキシコ」1967年。(右)「山手/長崎」1957年

 

1点1点の写真が風景として

見る者に迫ってくる

 

会場構成には、「岡本太郎×建築」展と同じくフジワラテッペイアーキテクツラボを主宰する藤原徹平氏が起用された。今回は通常の間仕切り壁を用い、しかし可動パネルを斜めの状態で固定することで、テーマごとに緩やかな変化が生まれ、それぞれが有機的につながるような雰囲気となっている。

 

そして、会場中央のガラスブースの周りには、白い板と合板でつくられた3種類の形状のベンチを連結するように設置。暗めに抑えられた会場の中でベンチは浮かび上がるように見え、ベンチに腰を下ろせば各コーナーの写真を群として眺められる。「風景として写真を見て欲しい」という藤原氏の意図が、感じられる。

 

今回の展覧会で、初めて公開される写真もある。「ペンすなっぷ めい作展」に岡本が出品した写真がパネルにされたものだ。一世を風靡したハーフサイズのカメラ、オリンパスPENで撮影された、縦位置の写真が10点まとめて並べられている。

 

会場構成は藤原徹平氏を起用。会場中央のガラスブースの周りには、白い板と合板でつくられた3種類の形状のベンチを連結して設置、暗めの会場の中でベンチが浮かび上がるように見える。ベンチからはコーナーの写真を群として眺められ、「風景として写真を見て欲しい」という藤原氏の意図が、感じられる。

 

通常の間仕切り壁を用いながら、可動パネルを斜めの状態で固定。テーマごとに緩やかな変化が生まれ、それぞれが有機的につながるような雰囲気となっている。

 

また、1952年にパリに再訪した際の写真も、今回が初の公開という。ここではジャコメッティやブラッサイなど芸術家の人物も撮られているほか、建築家ル・コルビュジエの設計した集合住宅内の幼稚園の様子などもおさめられている。

 

膨大な写真を整理するコンタクトアルバムも、見どころの一つ。一部は中央のガラスブースの周りにも引き伸ばされて掲げられ、エモーショナルな眼の動きを追うことができる。

 

そして、岡本の所有していたカメラも、ケース内で見ることができる。紛失したものも多いというが、さまざまなタイプのカメラや焦点距離の異なるレンズを確認できる。旅先では岡本が撮りたいと思ったときにすぐ撮れるように、同行者に何台かのカメラを首から下げさせていたという。

 

(左)「基衝棺の副葬品・守刀の柄の飾り(鹿の角)/岩手」1957年。(右)「登野城海岸/石垣島」1959年

 

また、ファインダーに取り付ける潜望鏡というパーツも幾つかある。人物などに正対して撮影することが苦手だった岡本は、横向きに視点が変えられる潜望鏡を取り付けることも多かったというのだ。意外な一面をみるようで、しかし何かよく分かるようで興味深い。

 

カメラ機器の展示の脇には、岡本の写真に対する言葉があしらわれている。「写真というのは偶然を偶然でとらえて必然化することだ。」この言葉の意味するところは、写真の1点1点を立ち止まって見ても、コーナーや全体を見渡して写真を風景として捉えても、迫ってくる。

 

岡本の研ぎ澄まされた感覚を通して見つめる情景から、私たちはまだまだ多くを感じ、学ぶところがあることを思い知らされる。

 

(取材・文/加藤 純)

 

 

岡本太郎の写真-採集と思考のはざまに

会期:2018年4月28日(土)~7月1日(日)

会場:川崎市岡本太郎美術館

開館時間:9:30~17:00(入場は16:30まで)

休館日:月曜日

観覧料:一般800円/高・大学生・65歳以上600円/中学生以下無料

*各種割引についてはウェブサイトを参照

住所:川崎市多摩区桝形7-1-5

電話:044-900-9898

http://www.taromuseum.jp

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