デザインインフォメーション
日常のささやかな「小さな風景」を撮影。見る人に能動的に働きかけ、何かのメッセージを発しているような感覚がある。
(C) Nacása & Partners Inc
撮影した写真の分類作業の様子。半年以上をかけて国内の45都道府県、約200を超える市区町村で出会った風景は、
延べ約1万8000枚にものぼったという。
「サービス」がキーワード
人の求めている場所の源泉を探る旅
乾氏がこの展覧会を始めるきっかけになったのは、東日本大震災の被災地で、高台に二つの学習椅子が置かれた風景を目にしたことだという。
この写真は中庭に展示されている。「人はどのような場所を求めているのかを見つめ直したい」という思いを強くし、場所の使い方のセンスがいいと感じる風景を撮影するようになった。
近年の建築設計でも、クライアントの希望に対して「どうつくるか」を答えればよいだけのものから、そもそも「何をつくるのか」「なぜつくるのか」ということまでを整理しなくてはいけない場面が出てきた、という乾氏。「人が集まることに対する根源的な提案が問われるようになっている」と表現する。
今回のリサーチを通じ、乾氏は「サービス」という言葉を導入することで、人を引きつける望ましい空間に共通する「何か」を捉えた。生態学で使われるというサービスの概念は、奥深い。
人が魅力を感じてつい立ち寄ってしまう場所は、さまざまなサービスにあふれているものだと捉えることができる、と乾氏は説明する。自然からのサービス、人為的なサービス、偶然のサービス、ユーモアのあるサービス、等々。その表情を観察することで、前述のようにユニットとそれぞれの考察が生まれた。
展示内容は書籍にもまとめられており、写真の一つ一つと解説をじっくりと確認できる。筆者が気に入ったユニットのタイトルは、「ひとりでがんばる」「斜めに適応」「偶然生まれた使い方」「影がちらちら」「アタッチメント」「空間をつくっている途中」など。独特の言葉遣いと捉え方が新鮮で、楽しく読める。
乾氏はこれから、サービスにまつわる考察や気づきをもとに、人が集まる魅力的な公共空間を産み出していくことだろう。この展覧会に触れる私たちも、自分なりのお気に入りの風景を見つけてみよう。
そして、それがなぜかを一緒に考えてみよう。新たな視点を得て、普段の生活や旅行中の何気ない風景が変わって見えるはずである。
(文・加藤 純)
乾久美子+東京藝術大学 乾久美子研究室 展――小さな風景からの学び
会期:2014年4月18日(金)~6月21日(土)
会場:TOTOギャラリー・間
開館時間:11:00~18:00(金曜日は19:00まで)
休館日:日曜日・月曜日・祝日
入場料:無料
住所:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
電話:03-3402-1010(代表)
http://www.toto.co.jp/gallerma/
(C)Nacása & Partners Inc