デザインインフォメーション
東京藝術大学・乾久美子研究室展
「小さな風景からの学び」
建築ギャラリーとしては異色
風景写真で埋め尽くされた展示会場
近年では陸前高田の「みんなの家」(2012年)の設計に参画したほか、現在では宮崎県延岡駅周辺の整備プロジェクトや宮城県七ヶ浜町と岩手県釜石市での学校建築などを進行させている、建築家の乾久美子氏。
今回の展示では、乾久美子氏と研究室の学生らが行ったリサーチの成果が紹介されている。
会場に入ると、壁面が写真で埋め尽くされている様子に圧倒される。グリット状に整然と割りつけられた写真は、縦が13列。横にはずっと連なり、この構成は中庭を挟んで上階の展示室にも続く。
建築模型や図面はまったくなく、立体物として並ぶのは東京藝術大学のデッサン用の椅子と、ビールケース。これらは休憩に使用するほか、今回のリサーチから導き出された「ユニット」を再現するインスタレーションにもなっている。建築展としては異色の光景である。
写真は、日常のささやかな気になる風景=「小さな風景」を撮影したもの。半年以上をかけて国内の45都道府県、約200を超える市区町村で出会った風景は、延べ約1万8000枚にものぼったという。
膨大な写真を、誰にでも直感的に類似性がうなずけるような分類でグルーピングし、共通項をもった写真群を「ユニット」と名づけた。最終的には2000枚余の写真が何度も組み直されながら、176ユニットに分けて紹介されている。
写真を見ていくと、構図が建築写真のようにキッチリとして統一されていることに気づく。それもそのはず、注目した対象と正対して対象を中心にもってきてくる構図は、共通フォーマットとして用意されたものだと知る。こうすることで、より客観的に分析しやすくなるのだろう。
歩を進めていくと、「小さな風景」とはどのようなことかが伝わってくる。街中から田舎までさまざまな写真は「普通の」風景や空間を撮ったもので、いわゆるデザイン空間はほとんどない。
しかし、見る人に時として能動的に働きかけ、何かのメッセージを発しているような感覚があった。写真には人物の姿はあまりおさめられていないが、人の温かな息遣いやストーリーが感じられ、確かに魅力を感じる。これはいったい、どういうことなのか。
乾久美子氏と大学研究室の学生らが行ったリサーチ成果を発表したユニークな展覧会。
(C) Nacása & Partners Inc
壁面が写真で埋め尽くされた会場。グリット状に割りつけられた写真群を「ユニット」と名づけ、最終的には2000枚余の写真が何度も組み直された。
(C) Nacása & Partners Inc
調査したメンバー。・東京藝術大学乾久美子研究室と乾久美子建築設計事務所。