世界の一流ブランド研究
ドイツ最高峰のファニチャー・ブランド
ウォルター・ノル(WALTER KNOLL)の実力
「機能性の高さと洗練された上質感」――ドイツのモノづくりをイメージする表現である。ドイツの最高級家具ブランド、ウォルター・ノル(WALTER KNOLL)のプロダクツを見れば、そのイメージが家具においても例外ではないことがわかってくる。
育成の段階から徹底的に管理されたレザーが
最上級の美しさとなめらかな肌触りを生む
バウハウス発祥の地であるドイツは、優れた建築や工業デザインを数多く世に送り出していることはよく知られている。しかし、ファニチャーとなるとやや印象が薄いのではないだろうか。
昨今の日本においては官能的なイタリア家具や、ナチュラルでやさしい雰囲気の北欧家具が絶大な人気を集めているが、その一方で着実に注目を浴びてきているのが堅牢ながらモダンなドイツの高級家具である。
そのドイツ家具ブランドの最高峰に位置していて、ヨーロッパでは絶大な人気を誇っているのがウォルター・ノルである。
創業は1865年。150年近い歴史のある老舗のブランドだ。ドイツ、シュトゥットガルト郊外に本拠を構え、高品質な家具を生産し続けている。映画『プラダを着た悪魔』で主人公のミランダが座っていたチェアや、『ゴーストライター』のアダム・ラングの別荘に置かれているデスクやチェア……と言えば、馴染みのない方にもわかりやすいかもしれない。「Knoll International(ノル・インターナショナル)」は、創業者の孫が渡米し設立している(現在は別会社)。
ウォルター・ノルの最大の魅力は、極上のレザーを使ったソファだ。「いい革を選んで使う」のではない。「いい革からつくって、さらに厳選する」のが、ウォルター・ノルの家具づくりの基本姿勢だ。
ウォルター・ノルでは、牛を育てる環境から徹底的に管理している。ファーニチャー・ブランドでは、コスト面でのメリットが大きい南米産のレザーを使っていることもあるが、高温多湿で虫が発生しやすいエリアでは、皮革にその跡が残ってしまう。
ウォルター・ノルは小さな虫刺されの跡さえもないスムースな皮革を得るため、気温が低く虫の少ないドイツの高山地帯と北欧の牧畜農家と提携。有刺鉄線のない広々とした牧草地で育った牛の革だけを材料にしているのだ。
しかも、通気性を保つため、すべてのグレードでフルグレインレザーだけを採用。染色はアニリンまたはセミアニリンで仕上げ、傷がある部分を避けながらカットする。グレードの高くない皮によくみられる型押しも、いっさい行わない。
温度と湿度がしっかりと管理されたなかで保管・加工された最高級のレザーは、見た目に美しいばかりでなく、肌触りがなめらかで耐久性も高く、長い年月を経ても快適さが失われない。こうした素材へのこだわりが、ウォルター・ノルの大きな特色でもあるのだ。
1865年の創業以来、創業者であるヴィルヘルム・ノルの一族によって経営されてきたウォルター・ノル。1993年、ロルフ・ベンツが買収し、息子のマーカス・ベンツ(写真)が経営を引き継いだ。極上のレザーを使ったハイクォリティな家具の製造という伝統を守りながら、国内外の建築家やデザイナーを起用し、プレミアム・ブランドとして新たな歴史を刻んでいる。
シュトゥットガルト郊外、ヘレンベルグの駅前にある本社。ガラス張りの近代的なビルの1階と2階は、ショールームではなく家具の工場。「道行く人々にレザーの縫製や仕上げの工程を見てもらおう」という発想に、ウォルター・ノルのものづくりに対する絶対的な自信と誇りが感じられる。