デザインインフォメーション
デザイナー・原研哉氏の発案とディレクションによるユニークな展覧会。「犬と人間の幸福のための真摯な建築プロジェクト」だ。(C)Nacása & Partners Inc
犬のための建築に向きあうことで生まれたもの。
独自の建築観と可能性を楽しむ
作品には当然ながら、建築家やデザイナーの、これまでの活動とリンクして見えてくるものもある。坂茂氏や隈研吾氏、アトリエ・ワン、MVRDVなどの作品は、「らしい」と感じさせる素材使いや構築の仕方、形状をしたものだ。
藤本壮介氏の作品「NO DOG, NO LIFE!」も、藤本氏設計の「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」に似ているなと思いきや、この作品のほうがパビリオンよりも前に構想されたという。犬のための建築であると同時に、人との関係を追求したこの作品から発展して、まさに新たな建築の姿を指し示すものとなった点で興味深い。
建築的な思考プロセスでアプローチしたという点で、トラフ建築設計事務所の「WANMOCK」も注目される。ジャックラッセルテリアという犬の種類だけでなく、コピーライター・糸井重里氏の愛犬ブイヨンを「クライアント」として設定。
糸井氏の洋服の上に座るブイヨンの姿に着想を得て、木のフレームに飼い主の古着をかぶせるというアイデアが生まれたという。今回の展覧会に合わせて、WANMOCKは材料が切り出されていて組み立てるだけのキットも販売されている。
第2会場の展示は、原氏による「人間と犬のスケールを調整する装置」というコンセプトを深めるもの。「D-TUNNEL」というトンネルのような作品が、10数種の形態バリエーションに展開されている。
ここまで進んでくると、「自分でも何か考えてみたいな…」、そう思うようになるはず。展示の最後に出現したのは、「犬のための建築を設計してください。」のコーナー。スケッチを描く専用の用紙と机が用意されていて、ここで投函すればなんと商品化の可能性もある。
「犬のための建築」は独自のメディアとして練られていることも特徴だ。中村勇吾氏デザインによる公式サイト(architecturefordogs.com)も見所満載。世界中の誰もが図面をフリーでダウンロードし、つくった建築を写真におさめてアップロード、共有できる。
犬を起点としてデザイナー経由で増幅された「犬のための建築」は、世界的なムーブメントに。常に変化し成長を続けるこのプロジェクトに、これからも目が離せない。
(文・加藤 純)
ARCHITECTURE FOR THE BICHON FRISE
妹島和世×ビションフリーゼ
(C) Hiroshi Yoda
WANMOCK
トラフ建築設計事務所×ジャックラッセルテリア
(C) Hiroshi Yoda
DOG COOLER
内藤 廣×スピッツ
(C) Hiroshi Yoda
PAPIER PAPILION
坂 茂×パピヨン
(C) Hiroshi Yoda
NO DOG, NO LIFE!
藤本壮介×ボストンテリア
(C) Hiroshi Yoda