デザインインフォメーション
第1会場全景。手前は「スイス・リー・ネクスト」の模型
(C)Nacása & Partners Inc.
「知性のミニマリズム」によって
空間は自由で豊かになって表現されていく
実はこれらの模型に、「ルール」の意味が込められている。展覧会に向けた彼の説明が添えられている。
「今回展示されるコンセプト模型は、なにもリアリティに近づけようというものではない。むしろ模型には模型固有のリアリティがあり、そこにはなにか抽象的なものが具象化される。模型を通すとプロジェクトの背景にある理念が見えてくる」
その一方で、彼はプロジェクトごとに「明確なルール」を設けることによって「個人の嗜好とはいっさい関係のないところで、建築は抽象的に規定される」ともいう。
建築の原理・原則を決めるものがルールで、そのルールがあることで、「建築の法規や基準といった副次的な事柄にはいっさい惑わされずに、その向こうにあるはずの建築の意味が見えてくる」。どうも難しく聞こえるけれど、プロジェクトごとに彼が探す根本的・原理的なもの=ルールがあり、それが模型に現れているということだろう。
そしてルールを設定すると、「知性のミニマリズム」によって空間は自由で豊かになる、とケレツは説明している。なお、副次的な事柄というのが、展覧会名のなかでの「ゲーム」という言葉であるらしい。
建築写真家としても活動していたというケレツ。あるインタビューによればその際、発電プラントのようなインフラ施設に強い関心を抱いたという。そのことは、建築物の力強い姿や合理的な構造に着目する彼の姿勢につながっているだろうし、常にルールに向き合う原動力となっているはずだ。
実際の建築物は、一見するとクールでミニマルな雰囲気でありながら、階の高さやプランが少しずつ違っていたりするなどして、微妙なゆらぎのような効果が生まれているという。
建築物に訪れるとき、ルールから生じる強さや自由度はどれほど感じられるのだろうか。ぜひ確かめたいところだが、その予習として、さまざまな可能性を秘めた模型の数々をじっくりと見たい。9月28日まで開催中、国内初の作品集は8月末に刊行予定。
(文・加藤 純)
「壁一枚の家」(2007年/スイス、チューリヒ)
(C)Walter Mair
「フォースター通りのアパートメント」(2003年/スイス、チューリヒ)
(C)Walter Mair
「ホルシム研究開発センター」(2008)の模型
(C)Nacása & Partners Inc.
「オーバーレアルタの礼拝堂」(1992年/スイス、グリゾン)
(C)Christian Kerez