デザインインフォメーション
建築界巨匠の創作の原点を知る
「丹下健三が見た丹下健三」
言わずと知れた日本の建築界の巨匠、丹下健三氏。没後10年という節目の年に、活動初期の10年間に焦点を当て、丹下氏が自ら撮影した写真を通して建築家像をあぶり出すという異色の展覧会が開催中だ。プロジェクト開始から初期の1949~1959年までの、丹下ワールドの創作の原点を知る意味で貴重な展覧会である。
未公開フィルムだった70余点のコンタクトシートに
丹下健三氏の「眼」と「思考」を見る
「国立屋内総合競技場(代々木体育館)」「東京カテドラル聖マリア大聖堂」(ともに1964年)など数々の名作で知られる、建築家の丹下健三氏。
惜しくも10年前に亡くなったが、今もなお建築物を通して人々に感動を、そして建築を志す者や実務者に勇気を与え続けている。
TOTOギャラリー・間で行われている今回の展覧会は建築家を紹介するものではあるが、建築図面もなければ模型もない、異色のものである。
下階(3F)の会場に入って目にするのは、真っ黒な壁面パネルに囲われた、真っ黒な展示台が並ぶ光景。壁面パネルには年表があしらわれ、丹下氏の作品や活動の経緯、国内外の動向がまとめられている。
注目すべきは、展示台のほう。ここには上面に、35mmフィルムの写真のコンタクトシートが綺麗に納められている。
コンタクトシートというのは、写真フィルムを印画紙に密着させて原寸プリントしたもの。デジタル世代には、サムネイル画像の一覧表示と対応するものといえば分かるだろうか。
処女作である「広島平和会館原爆記念陳列館」(1952年)や「自邸」(1953年)、「東京都庁舎」(1957年)、「香川県庁舎」(1958年)などを丹下氏自ら撮影した写真が、一覧で展示されている。暗く照明を落とした室内で、そばに備え付けられたルーペも使いながら見ていく。
数ある写真のうち、いくつかの写真に赤い丸が付けられていたり、四角で囲われたりしていることに気づくだろう。これは、「この写真がいい」「この写真は、この範囲を見せたい」という丹下氏が直接書き込んだ形跡である。
特に、トリミングと呼ばれる四角の指定は興味深い。写真の構図にも丹下氏の建築物への見方が現れるが、重要な部分を強調するために写真から不必要な部分を切り取るトリミングという作業は、それを行う者の意図が色濃く現れるからだ。
展示の一角に据えられている映像コーナーでは、トリミング前後の写真を並列してスライドで見せている。見え方の違いが対比的にわかり、丹下氏がどのように建築物と対峙したのか、そして「自分の作品をどう見せたいのか、どう見られたいのか」が鮮明に浮かび上がってくる。