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2012.12.03

ゴッホの「糸杉」と初めて出会う!
『メトロポリタン美術館展』

黒い炎が燃えるように、うねりながら天に伸びる糸杉。森も空も幻想的に歪みながら、細い三日月だけが静寂さを保つ不思議な風景。ありあまる感情を叩きつけたような激しい表情を見せているこの絵画は、フィンセント・ファン・ゴッホの傑作「糸杉」である。

 

この幻想的な作品に出会えるのが、上野の東京都美術館で開催されている『メトロポリタン美術館展 大地、海、空――4000年の美への旅』だ。世界最大級の規模を誇るニューヨークのメトロポリタン美術館から、「人間の自然へのアプローチ」をテーマにして133の作品がやってきた。ゴッホの「糸杉」は日本で初公開となる。

 

 

西洋美術がとらえてきた「風景」や「動植物」

4000年にわたる「人類の美の遺産」

 

パリのルーブル美術館、ロンドンの大英博物館と並んで、世界三大美術館のひとつに数えられているメトロポリタン美術館。1872年、セントラルパークの東側にアメリカで最初の美術館として開館して以来、絵画から彫刻、工芸品、写真から家具、楽器、装飾品まで幅広く蒐集してきた。現在では、330万点にものぼる美術品を所蔵し、そのうち約4分の1を展示・公開している。

 

現在、東京都美術館で開催されている『メトロポリタン美術館展 大地、海、空――4000年の美への旅』では、万物の源であり、人間にとって神秘的であり続ける「自然」を切り口にし、古代メソポタミア文明から現代までのエッセンスを紹介する。展示されるのは、絵画54点、彫刻・工芸品66点、写真13点の計133点。

 

なかでも話題を集めているのが、フィンセント・ファン・ゴッホの「糸杉」だ。1889年、南フランスのサン・レミ・ド・プロヴァンスにあるカトリック精神療養院「サン・ポール」に入院した直後に描かれた作品で、糸杉がキャンバスのほぼ半分を占めている。

 

糸杉はプロヴァンスで普遍的に見られる風景で、サン・レミ時代のゴッホを象徴するモチーフでもある。「糸杉のある麦畑」や「星月夜」などいくつもの作品に糸杉を描いているが、今回日本で初めて公開される「糸杉」の放つ存在感は圧倒的だ。オリジナル楽曲を坂本龍一さんが手がけることでも話題になっている。

 

幾重にも塗り重ねられた絵の具が、うっそうと生い茂る糸杉にリアルな立体感を与えている。細い三日月が浮かんでいるが、空は青く、昼なのか夜なのかも判然としない。

 

渦巻く雲と下草、天に突き抜けるような躍動感のある糸杉。死と喪の象徴である糸杉がゴッホに与えたのは、恐怖や不安だったのだろうか。それとも安らぎだったのだろうか。奇しくも、ゴッホが亡くなる前年にこの作品は描かれている。

 

古代から現代まで、さまざまなジャンルの作品をたどりながら「自然とはなにか」に迫る『メトロポリタン美術館展』。レンブラントやセザンヌ、モネなど西洋美術を代表する巨匠たちの油彩画もあり、見ごたえ十分だ。世界最高峰のコレクションを、ぜひその目でご覧いただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『タコのあぶみ壺』

ミュケナイ 後期ヘラディックIIIC期

紀元前1200-前1100年頃

Purchase, Louise Eldridge McBurney Gift, 1953 (53.11.6)

Image Ⓒ The Metropolitan Museum of Art

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『猫の小像』

エジプト 紀元前332-前30年頃

Harris Brisbane Dick Fund, 1956 (56.16.1)

Image Ⓒ The Metropolitan Museum of Art

 

 

 

 

 

 

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