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2018.08.15

感動と謎を呼ぶ貴重な二作品も来日中!
「ミケランジェロと理想の身体」展。

《ミケランジェロの肖像》 パッシニャーノ 17世紀初頭 個人蔵 120.5×95.5cm 油彩/カンヴァス

ミケランジェロ。それは、世界中の誰もが知る名前。しかし彼がその手で創った作品を実際に目にすることのできる幸運な人はごく限られる。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチと並び、イタリア・ルネサンス期を代表する芸術家。彫刻・絵画・建築それぞれの分野で傑作を創りあげ「天才」の名をほしいままにしたが、本人は自分の本業を「彫刻家」であると明言していたという。しかし、現存する彼の大理石彫刻作品は、イタリア・フィレンツェのアカデミア美術館にあるあの『ダヴィデ像』、そしてバチカンのサン・ピエトロ大聖堂にある『ピエタ』など、イタリアを中心に世界でわずか約40点ほどしかない。もちろんそのほとんどが門外不出、至宝の作品ばかりだ。

 

つまり、そのうちの2点が同時に日本にやってくるのは「事件」ともいえる出来事。現在、上野の国立西洋美術館で開催中の「ミケランジェロと理想の身体」展は、この2点のミケランジェロ作品を中心にして、古代ギリシャ、古代ローマ、そして時をおいたルネサンス期を通じて芸術家たちが追求した「身体美」とは何かを探る展覧会だ。

 

 

《若き洗礼者ヨハネ》 ミケランジェロ・ブオナローティ 1495-96年 ウベダ、エル・サルバドル聖堂、ハエン(スペイン)、エル・サルバドル聖堂財団法人蔵 高さ130cm 大理石 Úbeda, Capilla del Salvador; Jaén (Spain), Fundacion Sacra Capilla del Salvador
© Ministero per I Beni e Le Attività Culturali e del
Turismo, Opificio Delle Pietre Dure

 

 

ミケランジェロが生きた15~16世紀。イタリアを席巻した「ルネサンス」は、最盛期を迎えていた。

 

「ルネサンス Renaissance」は、フランス語で「復興」「再生」を意味するが、再生されたのは何かといえば、古代ギリシャ、ヘレニズム文化、そしてそれを受け継いでいた古代ローマの文化。中世の時代、当のイタリアをはじめとするヨーロッパ圏では、キリスト教文化が発展するなかですっかり忘れられていたのだが、それを後の世に伝えていたイスラム圏の文化から逆輸入する形で、ヨーロッパが自らの源流となる偉大な芸術を「再発見」し、模倣した文化運動。それが「ルネサンス」だった。

 

古代ギリシャ・ローマ美術では、人間の価値のすばらしさが芸術の主題になって、理想の身体美、とりわけ男性の肉体美が取り上げられた。古代オリンピックがギリシャで始まったのも、鍛え抜かれた身体に理想の美があると考えられていたからだ。

 

展覧会はその美を探るために、古代ギリシャの彫刻や壺絵、それらに影響されたルネサンス期の作品70点をもとに、子供、青年から大人まで、さまざまな角度から肉体の表現、そして美しく見せるための理想のポーズなどに焦点をあてて見ていく。

 

 

《遊ぶ幼児たち》 スケッジャ 1450-70年 個人蔵、モレッティ・ファインアート・リミテッド寄託 直径63.5cm 
テンペラ/板 PRIVATE COLLECTION, COURTESY OF MORETTI FINE ART LTD

 

 

《ヘラクレス》 紀元前4世紀後半 フィレンツェ国立考古学博物館蔵 高さ48cm 大理石
Su concessione del Ministero dei Beni e delle Attività Culturali e del
Turismo-Polo Museale della Toscana-Firenze

 

 

紀元79年の古代ローマ時代、ナポリ近郊のヴェスヴィオ火山の大噴火で埋没したポンペイやエルコラーノなどの遺跡から発掘された壁画も、今回ナポリ国立考古学博物館から来日。当時の人間本位の文化が描いた貴重なフレスコ画を、ここ東京で見ることができるのもうれしい。

 

 

そしてクライマックスは、ミケランジェロによる彫刻。彼が二十歳を過ぎたばかりの頃に制作した『若き洗礼者ヨハネ』。そして50代の半ばで辿りついた美の境地『ダヴィデ=アポロ』の二体が、はるばる日本へやってきた。

 

『ダヴィデ=アポロ』は、ミケランジェロが描こうとした主題が、未だにわかっていない作品だ。そのタイトルに現れているように、2通りの解釈がある。一つは彼の代表作『ダヴィデ像』と同じように、巨人ゴリアテを投石器で仕留める聖書の中の英雄「ダヴィデ」。もう一つは、弓の名手であるギリシャ神の「アポロ」。右肩に伸ばした左腕の先にあるものをミケランジェロが完成させないまま残したので、つかもうとしているのが投石器なのか、背中に担いだ弓矢なのかがわからない。実は未完の作品が多いことでも知られる巨匠、ミケランジェロ。彼が残した謎は、人々の作品への興味をかき立ててきた。

 

 

《ダヴィデ=アポロ) ミケランジェロ・ブオナローティ 1530年頃フィレンツェ、バルジェッロ国立美術館蔵 高さ147cm 大理石 Firenze, Museo Nazionale del Bargello / On concession of the Ministry of cultural heritage and tourism
activities

 

 

ミケランジェロは素材となる大理石の塊を見て、取り出すべき身体の形を明確にイメージし、それをノミで掘り出すように削っていったのだという。未完の『ダヴィデ=アポロ』を四方から眺めていると、そんな彼の創作プロセスも見て取れるようだ。

 

 

《ダヴィデ=アポロ》 ミケランジェロ・ブオナローティ 1530年頃
フィレンツェ、バルジェッロ国立美術館蔵 
撮影:木奥恵三

 

 

終盤の『ラオコーン』は、展覧会で唯一撮影を許されている作品。ギリシャ神話の「トロイの木馬」の中で、ギリシャの兵士をひそませた木馬がトロイアの街に入ってきた時、神官のラオコーンが策略に気づいて注意を呼びかけたが、その行動が女神アテナの怒りを買って2人の息子ともども大蛇に殺されたという逸話を表現した像だ。

 

 

《ラオコーン》 ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ 1584年頃 ローマ、個人蔵、ガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託 
191×145×68cm 大理石 Roma, Private Collection, Courtesy of Galleria del Laocoonte.
© D’APPOLLONIO PHOTOGRAPHY

 

 

1506年にローマで出土した古代の「ラオコーン」像は、ミケランジェロも発掘に立ち会い、その力強い身体表現が彼をはじめ当時の芸術家たちに多大なインパクトを与えたらしい。展示されているのは、それに影響されたヴィンチェンツォ・デ・ロッシの作品で1584年頃のもの。またその「古代版ラオコーン」を描いた当時の素描も展示されている。ルネサンス期の彫刻家たちが、新しく登場した人間中心の時代と古代の美しい彫刻を重ね合わせて、胸をときめかせながら懸命に身体美の表現に力を注いだ様子が想像できる。

 

 

《ラオコーン》 マルコ・ダ・ラヴェンナ 1520-25年頃 フィレンツェ、ウフィツィ美術館版画素描室蔵 47.6×32.2cm
エングレーヴィング Gallerie degli Uffizi, Gabinetto Disegni e delle Stampe /
Su concessione del Ministero dei Beni e delle Attività Culturali e del Turismo

 

 

そしてミケランジェロ作品2体を見たあとは、国立西洋美術館が誇る常設展のコレクションもお見逃しなく。クラーナハ、ティントレット、ブリューゲル、ルーベンス、ラ・トゥール、ドラクロワ、クールベ、マネ、ルノワール、モネ、セザンヌ、ロダンなど、美術史上の大家が勢ぞろい。スイスに生まれフランスで活躍した建築家ル・コルビュジエによって設計され、2016年に世界文化遺産に登録された美術館そのものの建築もふくめ、東京に刻まれたヨーロッパ文化の至宝をあらためて再発見したい。

 

 

© 国立西洋美術館

 

 

「ミケランジェロと理想の身体」

2018年9月24日(月・休)まで

展覧会HP:https://artexhibition.jp/michelangelo2018/

 

国立西洋美術館

所在地 〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7

開館時間 9:30~17:30

金・土曜日 9:30~21:00

※入館は閉館の30分前まで

休館日 月曜日(祝日の場合は翌日)

9月17日(月・祝)、9月24日(月・休)は開館

URL http://www.nmwa.go.jp(国立西洋美術館)

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