デザインインフォメーション
世界最大級の現代アートフェア
「アートバーゼル」現地から速報!
フランス、ドイツと国境を接するスイス北部の街「バーゼル」。ライン川の美しい流れに古くから文化が花開いたこの街は、6月、一年でもっともにぎやかな一週間を迎える。
アートギャラリーとアートコレクター、ファンが集まり、作品の展示と取引が行われるアートフェアは、今や全世界で600を超えるともいわれる。その頂点にあるのが、実はここバーゼルで開催される世界最大級の現代アートフェア「アートバーゼル」。この6月14日から17日の4日間、市内の会場Messe Baselで一般公開となった。
今年は約290のギャラリーがセレクトされ、20世紀、そして21世紀の今を代表するアーティストが生みだした4000を超える作品が発表されている。日本からもタケニナガワ、タカイシイギャラリー、東京画廊+BTAPなど、世界を舞台にアーティストを紹介しているギャラリーがここバーゼルに集った。
世界第一線のギャラリーが集結するアートバーゼルは、単なる作品売買の場所ではない。所属アーティストの新作や、代表的なコレクションをそれぞれが展示するいわばショーケースの役割もある。その質の高さはまるで、巨大な現代美術館のよう。それだけに有力コレクターはもちろん、美術館のキュレーターやコレクション担当のスタッフ、アーティスト、ジャーナリスト、批評家、そしてアートファンまでありとあらゆるアートシーンのプレイヤーたちが、プレビューを含めてこの一週間弱の期間を狙ってやってくる。ここに来れば、みんないる・・・。「アートバーゼル」が現代アートビジネス界の「聖地」とさえ呼ばれるゆえんだ。
ファンには見逃せないのが「アンリミテッド」と名づけられた巨大アートセクション。米国在住のキュレーター&批評家Gianni Jetzerを迎え、ギャラリーブースでは展示できない大型彫刻作品やインスタレーション、映像作品が展示され、パフォーマンスなども繰り広げられる。
このスケールの作品は他のアートフェアはもちろん、美術館や世界的なアートイベントでもなかなか展示が難しい。「アンリミテッド」ならではの楽しみだが、一週間足らずの展示のためにこれだけの作品をそろえるギャラリーとフェアの意気込みが感じられる。
ここ「バーゼル」は、チューリッヒやベルンなどからも近く、中心部からバスで約20分で結ばれるバーゼル=ミュールーズ国際空港は、フランスとスイスの国境をまたぐヨーロッパでも珍しいエアポートとして知られる。空路、陸路ともに交通の便が良く、金融センターであるスイスはコレクター同士のネットワークも充実。こうした環境の良さが1970年に創設された「アートバーゼル」をここまで育ててきたのかもしれない。
もし時間があるならこれに合わせて開催される「LISTE」や「VOLTA」、「フォトバーゼル」など、サテライトフェアと呼ばれる他のアートフェアやイベントをのぞいてみたい。またヨーロッパ最古の公立美術館といわれる「バーゼル美術館」、20世紀モダンアートの傑作を集めたプライベートコレクションが有名な「バイエラー財団」、有力なギャラリーなど、アートシーンが充実しているのもバーゼルの街の特徴だ。
ただし正直なところ「アートバーゼル」を見るだけでもかなりハード。街を楽しむのならもう一度、静かな季節を選んで古都の美しさにひたりたい。フランス東部の街・ストラスブールから電車で1時間20分、ジブリの映画『ハウルの動く城』の風景のモデルとなった”フランスのヴェネチア”コルマールからも40分。アルザス地方を巡る旅にバーゼルを加えてみるのもいいかもしれない。
気の早い話だが、2019年のアートバーゼルはすでに6月13日〜16日と日程が決定している。それまでに「アートバーゼル」の名を冠した2つのフェア、「アートバーゼル マイアミビーチ」が12月、「アートバーゼル香港」は3月に開催。他にもロンドンの「FREIZE」、パリ「FIAC」、成長を続ける「アートフェア東京」など数々のイベント、そして来年は「ベネチアビエンナーレ」も行われる。世界をめぐるアートシーンから目が離せない。
杉浦岳史/ライター、アートオーガナイザー
コピーライターとして広告業界に携わりながら新境地を求めて渡仏。パリでアートマネジメント、美術史を学ぶ高等専門学校IESA現代アート部門を修了。ギャラリーでの勤務経験を経て、2013年より Art Bridge Paris – Tokyo を主宰。現在は広告、アートの分野におけるライター、キュレーター、コーディネーター、日仏通訳として幅広く活動。