デザインインフォメーション
デザインの解剖展:
身近なものから世界を見る方法
普段目にし、何気なく口に入れているお菓子や牛乳など。実際に身の回りにある製品を例にとって、「デザインの視点」で解剖するようにマニアックに紹介する展覧会が、東京・六本木の「21_21 DESIGN SIGHT」で好評開催中だ。
製品がいかに多角的な視点で考え抜かれてできているかという舞台裏が丁寧に紹介されていて、デザインや製造に関わるプロだけでなく、世代を問わず一般の人の関心を惹くこと請け合い。会期終了に向けて、ますます混雑が予想されるので、ぜひ早めに足を運んでいただきたい。
普段口にしている製品をデザインというメスで解剖すると!?
老若男女が楽しめる展覧会
「カワイイー!!」という声があちこちから聞こえ、巨大なキノコのオブジェの前で記念撮影をする学生の姿、大人だけでなく小さな子どもも熱心に展示に参加している様子が見える。
現在開催されている「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」のある日の光景だ。まさに老若男女が、デザインという切り口での展覧会にここまで多く集って楽しんでいる様子は新鮮に感じられた。
それもそのはず、まずは題材がキャッチーである。解剖するように紹介されるものは、「きのこの山」「明治ブルガリアヨーグルト」「明治ミルクチョコレート」「明治エッセルスーパーカップ」「明治おいしい牛乳」という「株式会社 明治」の慣れ親しんだ5つの製品。
品質管理をされながら大量生産されリーズナブルに手に入るこうした製品は、あまりにスムーズに入手して楽しんでいるため、どのようにつくられているのか、どんなことが考えられてこの姿形になっているのか、普段は意識することがない。
解剖するというと、カエルなど生き物のことを思い浮かべるが、ここで俎上に載せられるのは日常生活に馴染んでいる製品。製品を徹底的に解説することで、デザインの意図をはじめ社会問題まで見えてくる、というのがこの展覧会の狙いである。
展覧会のディレクターをつとめたグラフィックデザイナーの佐藤卓氏は、「商品開発や大量生産品のパッケージデザインを多く手掛けるようになって、ある時、デザインの視点でものを外側から内側に向かって解剖するというプロジェクトを思いつきました」という。
佐藤氏はこれまで15年以上にわたって、デザインの解剖というアプローチを実践してきた。ディレクターズメッセージには、次のようなことが語られている。
「デザインという言葉には、形や色といった目に見える視覚的印象が強くありますが、もともと「設計」という重要な意味が含まれます。(中略)デザインを、ものを見るための方法としてとらえること。つまりものや環境を理解するために、デザインをメスにすることができるのではないだろうかと思ったのです。全ての物事に何かしらのデザインが内在するのであれば、必ずデザインを頼りに解剖ができるはずなのです」
広く捉えられている「デザイン」を、解剖の道具にして切り込み、分析して見せる展示。会場のはじめではまず、こうしたスタンスが「富士フイルム 写ルンです」や「タカラトミー リカちゃん」などとともに示される。
徹底的な解説内容と、巨大な製品オブジェ、
そしてデジタルとアナログを融合した展示にも注目
多くの人が楽しめる展示。そのもう一つの理由は、解剖というネーミングにふさわしく、これでもかというくらい丁寧に解説されていることだ。
たとえば「きのこの山」では、「1 ネーミング」からはじまり、各種のグラフィックやイラストレーション、表示内容、外箱や内袋の形や材質、貸本体の形や物性、そして味覚にまつわることまで、40の項目に従って図やテキストで解説される。
それぞれの項目について展示台の壁部分には歴史や背景から書かれているので、読み応えは十分すぎるほど。内容を手っ取り早く知りたい場合は、下の面にまとめられている要約文を追っていけばいい。
ちなみに筆者は、「きのこの山」派と「たけのこの里」派の真っ二つに分かれる「きのこたけのこ論争」について、多くの知見を得ることができて満足。
もう一つの工夫は、そうした解説の間に、製品の拡大オブジェや、さまざまな分野で活躍する若手クリエイターの独自の視点に基づく作品も展示されていること。巨大なきのこの山、板チョコ、アイスカップ、牛乳パックなどは、どこかリアルでアート作品のよう。製品を別の角度から、子細に観察できる効果がある。
チョコレート包装の消費期限の印字工程に着想を得た「ドット文字印字の仕組み」(作:原田和明)などの作品は、ずっと見ていても飽きない。「正面外装グラフィックの変遷」(作:aircord)、「ウェブサイトの解析」(作:中野豪雄)のような作品も、デジタルとアナログの境界を超えていて、見る人の感覚に訴えかける。
製品化される食品には、グラフィックをはじめパッケージや品質管理など、数え切れないほど多くの要素に関わるデザイナーや専門家たちがいて、製造過程でも多くの手がかかっていることが改めて浮き上がって見えてくる。
仕上げは、佐藤卓氏が教鞭をとった武蔵野美術大学で10年以上続いた授業「デザインの解剖」の成果物の展示と、展覧会最後にある製造過程の「音」の展示だ。これから身の回りにあるモノがどのようにできているか、常に意識するためのキッカケとなるはず。
「デザインの解剖」という視点を持てば、私たちの生活はより深い味わい深く、豊かなものになるだろう。
取材・文=加藤純(きのこの山派)
21_21 DESIGN SIGHT企画展 佐藤 卓ディレクション
「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」
会期:2016年10月14日(金)~ 2017年1月22日(日)
会場:21_21 DESGIN SIGHT
開館時間:10:00~19:00(入場は18:30まで)
休館日:火曜日
入場料:一般1100円/大学生800円/高校生500円/中学生以下無料
*各種割引についてはウェブサイトを参照
住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内
電話:03-3475-2121
http://www.2121designsight.jp/