デザインインフォメーション
大回顧展『DAVID BOWIE is』
世界が熱狂したデヴィッド・ボウイの集大成
「20世紀で最も影響力のあるアーティスト」として知られ、音楽シーンだけでなくカルチャーに刺激を与え、社会現象も起こしたデヴィッド・ボウイ。惜しくも2016年初頭にこの世を去った彼の大回顧展『DAVID BOWIE is』が、東京・天王洲の寺田倉庫G1ビルで開催中だ。会期は4月初旬までだが、連日多くのファンで賑わっている。独自の展示方法のため入場日時が指定される展覧会だけに、早めの訪問をおすすめする。
膨大なアーカイブから厳選された
貴重なアイテムを一挙公開
数々のアルバムを世に送り出し、1億3,000万枚以上のアルバムを売り上げたデヴィッド・ボウイ。約50年にわたる創作活動の現場や源泉を、300点以上の貴重なアイテムで紹介するのが、『DAVID BOWIE is』だ。
この展覧会は、ボウイの母国であるイギリス・ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館がキュレーションを行い、2013年のロンドンを皮切りにこれまで9カ国で開催されてきたもの。ボウイの没後さらに高まる期待に応えて、とうとう日本にやってきた。
会場となる5階の入り口では、ヘッドホンが一人ずつ手渡される。装着してそれぞれの展示に近づくと、内容にリンクした音楽やインタビュー音声などが流れてくる。近接するコーナーからの音に気を取られることなく、それぞれの内容に没頭することができる。
展示はボウイの出生や生い立ち、当時の時代背景から紹介される。この時点で、厚い展示内容を予期させるには十分だ。進んでいくと、厳密な時系列で紹介されているわけではないのに気づくだろう。
これまで目にしたことのない数々の映像、肉筆のスコアやスケッチ、歌詞を記したメモ、特注のコスチューム、等々。引き込まれるように見ているうちに、それぞれが自分のなかで関連付けられて、ボウイの活き活きとした全体像が浮き上がってくる。そして、彼のクリエイティビティの深遠さに舌を巻く。
前半の注目ポイントは、三次元のセットに動画を投影し、キャリア初期の活動を紹介するコーナーだ。彼自身の言葉で、当初はシンガーになろうとは思わなかったこと、ジャズのサックス奏者エリック・ドルフィーの音楽を好きになろうと繰り返し聴いたこと、難解な本を読もうとしていたことなどが、飾らずに語られる。
その後もボウイはアートや映画、演劇をはじめとして実に多様な領域にインスピレーションを求め続け、それぞれに影響を受け、貪欲に吸収しながら創作していることが読み取れる。アルバムのアートワークなど、自らのスケッチを元にして制作する様子も興味深い。
関連して「ジギー・スターダスト」なるキャラクターの誕生、その後BBCの番組出演を機に、一気にスターダムに上り詰めるまでの過程が紹介される。
多年に渡る多彩な活動を通して浮かぶ
デヴィッド・ボウイの魅力
展示の中盤は、ボウイの代名詞の一つといえる、コスチュームが重点的に紹介される。カラフルで派手なもの、トーンを抑えたシックなもの、奇抜な形をしたもの。マネキンに着せられた現物と当時の映像が示され、その時々で彼が変幻自在の衣装に身を包み、メディアに現れる様子がわかる。
このあたりから、日本文化に多くの影響を受けていることが紹介される。山本寛斎のつくる衣装に惚れ込み、ウサギ模様のボディスーツをはじめ、「出火吐暴威(でびっとぼうい)」の文字があしらわれたマントなど、いくつものオリジナル衣装を依頼した。この後も、ボウイが影響を受けた歌舞伎や和楽器などが紹介される。
黒塗りに交通機関の路線図が白く引かれた特徴的な空間で見せるのは、ベルリンに滞在した時期の活動をまとめたコーナーだ。ボウイが「自分を見失うことができ、自分を発見することもできる街」と表現した東西ドイツ統一前のベルリンで、過去の習慣やイメージから脱却しつつ、新たなエネルギーを蓄えていった雰囲気が伝わってくる。暗い空間に浮かび上がる、自らが描いた三島由紀夫の肖像画や自画像も、印象的だ。
続いてのコーナーは、日本会場独自のもの。1983年に公開された大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」について、3台のモニターで紹介される。ボウイが俳優として登場する名場面を挟み、左右に共演者である坂本龍一と北野武のインタビュー映像が映し出される。
展覧会の総仕上げとなるのは、ボウイのライブ映像で大きな空間をぐるりと囲む「ショウ・モーメント」だ。映像で囲まれ、音楽で包まれた空間は、ライブ会場のよう。
余韻に浸りながら会場を出た後は、1階のオフィシャルショップにも立ち寄りたい。日本会場限定のFire-KingのスタッキングマグやLP盤、バッグやアクセサリーなど、レアなアイテムを揃える。
ほとんどの人が知っているボウイは、熱烈なファンでなければ、時期によって印象が異なるだろう。そして、多彩な活動の一端にしか触れていない可能性が高い。本展覧会はボウイの全体像を知り、周辺のカルチャーへの理解を深められるため、幅広い方々にお勧めしたい。
会期は4月9日まで。基本的には、日時指定の事前チケットを購入するが、当日券も用意されている。いずれにしても事前にホームページの確認を。2月は、日時を限定しない「2月平日限定入場券」も販売されている。
ヘッドホンの台数の都合上、入場時間の枠に対する制限はあるが、会場を出る時間の制限はない。ゆっくり・じっくりと、独自の道を切り開いたボウイの世界を堪能したい。そして「自分がなりたい自分になって、やりたいことをやればいい」という勇気づけられるメッセージを持ち帰っていただきたい。ボウイは過去の遠い人物ではなく、今も一人ひとりの中に生きているのである。
(文・加藤 純)
DAVID BOWIE is
会期:2017年1月8日(日)~4月9日(日)
会場:寺田倉庫G1ビル(天王洲)
住所:東京都港区品川区東品川2-6-10
休館日:毎週月曜日(ただし3月20日、3月27日、4月3日は除く)
開催時間:10:00~20:00(火・水・木・土・日・祝) ※最終入場19:00
10:00~21:00(金) ※最終入場20:00
3月29日は都合により17:00閉館 ※最終入場16:00
料金(税込):一般2200円(前売) 2400円(当日)
中学生・高校生1000円 (前売) 800円(当日)
2月平日限定・入場券2600円(前売のみ)