デザインインフォメーション
土木の役割をデザインで再発見
「土木展」が開催中
ポップで軽やか、スタイリッシュでインタラクティブなインスタレーションや展示物の数々。「土木」から一般的に連想される、重厚長大なイメージからはかけ離れた展覧会が、東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催中だ。身の回りにある土木の役割をデザインの視点から再発見し、土木への見方を刷新する体験がこの夏、待っている。
日常生活を支える縁の下の力持ち
「土木」を深掘りする
「土木」はまさに「縁の下の力持ち」というにふさわしい。道路や橋、トンネル、鉄道や地下鉄、携帯電話やインターネットなどの通信、上下水道などは何気なく利用しているが、それが土木に関係していることを連想する機会は普段あまりない。
土木を意識するのは、物事がスムーズに行かなくなったとき。道路舗装や上下水道工事で起こる渋滞に遭遇するとイライラするし、自然災害が起こって橋が壊れたり、地すべりで道路が寸断されたりすると驚き困惑する。それだけ土木は、快適な現代生活になくてはならないものとして定着している。
壮大でいながら控えめな土木をデザインの視点で見つめなおし、土木の多様な働きと役割を浮き彫りにするのが、この展覧会の趣旨だ。展覧会のディレクターは、土木と建築、景観やまちづくりなど領域を横断して活躍する西村浩氏。
西村氏は「”見えない土木”を、楽しく美しくヴィジュアライズしたい」といい、「あえて土木の専門外のトップクリエイターやアーティストに声をかけ、コラボレーションした」と語る。こうして、土木の知られざる魅力が引き出されることになった。
会場の最初では「都市の風景」というセクションのもと、東京主要駅のパースペクティブが大きく貼り出されている。建築家の田中智之氏が描いた渋谷駅・新宿駅・東京駅を俯瞰する透視図で、迷宮のような駅構内や周辺が「解体」される。鉄道会社を横断する広域の地図は意外にも存在しないといい、街に土木がどのように関わっているかを示してくれる。
続いて展開するのは、アーティストのヤマガミユキヒロ氏による「六甲山からの眺望」「隅田川リバースケープ」。ランドスケープのなかでボワッと浮かび上がる情景に、やはり土木の存在感を呼び起こされる作品だ。
小展示室では、部屋全体を使って映像作品「土木オーケストラ」が上映。壁面に映し出されるのは、日本の高度成長期にあって活気にあふれる土木の工事現場の記録映像。ダイナミックな映像と、一緒に展示される使い込まれた現場道具からは、土木の工事現場には、数えきれないほど大勢の人々のエネルギーが注がれていることが体感できる。
映像とリンクする工事音は、現在の渋谷で進行中の工事現場の音をサンプリングしたものだという。過去と現在がつながり、土木では膨大な時間が集積していることも感じられる。
土木の役割を題目にした
クリエイターによる自由闊達な土木ワールド
大きな展示室では大勢のクリエイターやアーティスト、エンジニアたちによって、土木の「まもる/ほる/つむ/ためる/つく/つなぐ/ささえる/はかる」という行為が、さまざまなかたちで表現される。
例えば「まもる:キミのためにボクがいる。」は、ビジュアルデザインスタジオのWOWによる映像インスタレーション作品。消波ブロックや河川敷のコンクリートブロックが、災害から私たちを守っていることをコミカルに、大きな壁面いっぱいに伝える。
「ためる」ではエンジニア集団のヤックル株式会社が、ダムの水が流れている映像作品を展開。圧倒的なスケールで水の溜まる様子を体感できる。「はかる:Perfume Music Player Installation」 ではライゾマティクスリサーチが、スマートフォンアプリの位置情報を活用し、東京の交通網やユーザーの行動をやはり映像で見せている。
物体を用いて、土木の構造や構成をクリアにする作品も多い。建築家の田村圭介氏+昭和女子大学環境デザイン学科による「つなぐ:渋谷駅(2013)構内模型」は、展覧会冒頭にもあった渋谷駅の立体的な構成を模型で可視化したもの。
アーティストの康夏奈氏の「ほる:地質山」は、架空の島をマントルや地層からつくり込み、土木の構築物が絡み合う様子を表現する。
建築設計事務所の403architecture [dajiba]は、「つむ:ライト・アーチ・ボリューム」で、空気で膨らませたビニールのピースを積み上げてアーチ構造の橋をつくる作品を展開。
ベルギーや日本で活躍する構造エンジニア・デザイナーの渡邉竜一氏とローラン・ネイ氏は、実際に建設される全長65mの優美な橋を模型で表現。板状の材料を立体造形にすることで、どのように強くなるかを説明する。この模型は人の手では制作できない板の厚さのため、ロボットによって制作され、土木の未来を垣間見る。
そのほか、設計領域(土木・建築設計事務所)による作品「人孔(ひとあな)」では、マンホールに潜り込んで土木の質感を体験できる。
桐山孝司(東京藝術大学大学院映像研究科教授)と桒原寿行(東京藝術大学COI特任助手)による、来場者が砂場遊びを通して土木の設計者となれる映像インスタレーション「土木で遊ぶ:ダイダラの砂箱」も面白い。標高をリアルタイムに色や線で表現する作品には、ぜひ実際に触れていただきたい。
会場には、展示物がまだまだたくさん。「土木を愛する」として、横山裕一氏による漫画「ニュー土木」や、カレーをダム湖に見立てた「ダムカレー」など、土木をモチーフにした作品も紹介される。
後半の細長い展示空間では、長さ日本一の青函トンネルと、世界一のゴッタルドベーストンネルの断面図が対比するように描かれている。その先に展開されるのは、関東大震災後の復興事業で架けられた永代橋の設計図と、東日本大震災後に行われている土木事業の映像。ここでもやはり、私たちの過去と現在、そして未来をつなぐものとして土木が位置づけられている。
ディレクターの西村氏は「土木は何十年という、長い時間をかけてつくるもの。その間に社会が変わり、人の感性も移り変わっていく。だからこそ、お子さんも含めて幅広い方々に見ていただき、それぞれが土木を感じ取ってほしい」と熱く語る。
夏休み期間中には子ども向けのツアーもされるほか、東京ミッドタウン内の2つのレストランで「ダムカレー」が提供される。また、1Fショップスペースでは土木展オリジナルグッズなどが販売。誰が訪れても満足できる展覧会なので、ぜひ夏の予定に組み入れていただきたい。
(取材・文/加藤 純、写真/川野結李歌)
21_21 DESIGN SIGHT企画展
西村 浩ディレクション「土木展」
会期:2016年6月24日(金)~ 2016年9月25日(日)
会場:21_21 DESGIN SIGHT
(東京ミッドタウン・ガーデン内)
開館時間:10:00~19:00(入場は18:30まで)
休館日:火曜日(8月23日は特別開館10:00~17:00
(入場は16:30まで)
入場料:一般1100円/大学生800円/高校生500円/
中学生以下無料
*各種割引についてはウェブサイトを参照
住所:東京都港区赤坂9-7-6
電話:03-3475-2121
http://www.2121designsight.jp/