デザインインフォメーション
瀬戸内の自然に根ざした設計活動
三分一博志展 「風、水、太陽」
広島をベースに、瀬戸内に根ざした設計活動を行う建築家・三分一博志氏。土地のもつ歴史や風土、人と自然の営みを丹念に捉え、風、水、太陽といった「動く素材」から建築物をつくり出す彼の活動は、国内外で高い評価を受けている。三分一氏の作品や設計思想を紹介する個展「三分一博志展 風、水、太陽」が、東京・乃木坂のTOTOギャラリー・間で開催中だ。建築物のあり方を問う、迫真の展示の開催期間はあとわずか。駆け込みつつ、じっくりと鑑賞していただきたい。
瀬戸内の自然に身を置くような体験から
自然に対する感覚を呼び起こす
瀬戸内海に浮かぶ犬島でのプロジェクト「犬島精錬所美術館」(岡山県/2008年)で一躍脚光を浴びた三分一博志氏。
その後も「六甲枝垂れ」(兵庫県/2010年)、「宮島弥山展望台」(広島県/2013年)、「直島ホール/直島の家-またべえ」(香川県/2015年)など、瀬戸内のプロジェクトに数々取り組んでいる。
今年は、広島での「おりづるタワー」も竣工予定で、さらに注目が集まる建築家である。
この展覧会では、彼が手がけてきた作品の数々が一挙に紹介される。しかし同時に、瀬戸内という自然を丹念に読み込み、自然と共にある建築物の姿を見出し、形にするためのアプローチや思想が、さまざまな側面から紹介される。
3階の第1展示室に入ると、瀬戸内の地図と、瀬戸内周辺を山側から見下ろす写真の数々が大きく貼りだされている。見るからに複雑な地形と、気象条件。暗い展示室にゴウゴウと鳴り響くのは風の音。瀬戸内特有の自然環境を体感させる展示である。
建築物は当たり前のこととして、土地があって初めて建つ。建築家は土地にまつわる数々の条件を整理しながら、着想を得て設計を進めていく。三分一氏の視点は土地の周辺にとどまらず、一気に瀬戸内全体まで引き上げられる。
そして、風や水、太陽の動きはどのようになっているかと思いを巡らせる。リサーチのためにかける期間は、最低でも1年、長ければ数年に及ぶという。
そうするときに三分一氏は、風や水、太陽そのものを、建築物を構成するための「動く素材」として観察する。すでにある人工物についても、風、水、太陽とどのように関わっているのかを入念に読み解いていく。
建築に使う素材というと、一般的にはコンクリートや鉄、ガラス、木など。具体的で物性のある材料を連想しがちであるが、三分一氏はとらえどころがなく常に移ろう「風、水、太陽」を素材として見ているところが、興味深いところだ。
風、水、太陽といった「動く素材」から
建築物を導き出していくアプローチを公開
第1展示室から続く中庭では、「動く素材」として紹介された風、水、太陽を、よりよく実感するための「装置」が展開されている。水が張られた中庭には所々で、吹き流しが付けられた棒が立てられ、その時々の風を受けてなびく。
また、いくつもの透明なボックスが水面に置かれている。それぞれはガラスとアクリルで素材を変えながらつくられ、底の面の色も白と黒で変えられている。太陽光の波長や反射の条件を変えた実験装置で、中は水蒸気で曇ったり上面に水滴が付いたりと、ボックスによって異なる表情を見せる。
こうして風、水、太陽を視覚化することの狙いを、三分一氏は展示説明で次のように示す。
「地球上のあらゆる素材は、サイズやディテールを正確に与えることで、知的な建材になると信じている」。「素材」をあらゆる側面から徹底的に理解し、定量的に把握しておくことは、その土地にふさわしい建築物をつくり出すために必要不可欠なことなのだ。
4階の第2展示室では、リサーチ、シミュレーション、エクスペリメント、モックアップという流れで、実際に建築物が立ち現れるまでの検証プロセスを見せている。
リサーチでは、疑問から仮説を立て、つぶさに観察する。六甲山での樹氷の付き方についての発見などを紹介する映像を見ていると、三分一氏が専門分野の研究者のように感じられる。
シミュレーションでは、CFDというコンピュータ解析を用いて、各プロジェクトで建物周辺の風の様子を可視化している様子が紹介される。
エクスペリメントでは、建物内外での空気の流れや特性を確認するための大きな模型を展示。その実験の様子も映像で示される。いずれも感覚的な発想にとどまるのではなく、科学的アプローチをとっていることが印象的だ。
モックアップでは、建築物のディテールを決定するためにつくられた実物大の模型を展示。サイズや角度などが細かく検証されながら、実際の建築物としてつくられていく様子が示される。
三分一氏は、これらのプロセスを行ったり来たり、何度も繰り返すという。そうして初めて、「動く素材」の活かし方を見出し、建築物の姿形を整えていく。
膨大なエネルギーをかけて生まれる建築物であるが、三分一氏は「人にも地球にも認めてもらえる建築」でありたい、と謙虚である。「地球は私にとって師であり、永遠のパートナーなのです」。
まだ三分一氏の作品に触れたことがない方は、この展示会をきっかけとして、ぜひ瀬戸内に訪れていただきたい。
ちょうど「瀬戸内国際芸術祭2016」も開催されている(夏季は7月18日〜9月4日)。そして建築物の中に身を置いて、じっくりと感じていただきたい。地球と共に存在し、自然の力を引き出す三分一氏の建築物の力に、魅了されるに違いない。
(取材・文/加藤 純)
三分一博志(さんぶいち・ひろし)
1968年生まれ。東京理科大学理工学部建築学科卒業。小川晋一アトリエを経て、三分一博志建築設計事務所設立。2003年吉岡賞、2010年JIA日本建築大賞、2011年日本建築学会賞作品賞を受賞。代表作に「エアーハウス」(山口県/2001年)、「犬島精錬所美術館」(岡山県/2008年)、「六甲枝垂れ」(兵庫県/2010年)、「宮島弥山展望台」(広島県/2013年)、「直島ホール」(香川県/2015年)など。現在、デンマーク王立芸術アカデミー建築学部教授(非常勤)。
三分一博志展 「風、水、太陽」
会期:2016年4月15日(金)~6月11日(土)
会場:TOTOギャラリー・間
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜日・祝日
入場料:無料
住所:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
電話:03-3402-1010(代表)
http://www.toto.co.jp/gallerma/