デザインインフォメーション
女性の美とファッションの変遷をたどる
「Modern Beauty」展
箱根のポーラ美術館では、「女性の美」に焦点を当て、「ファッション」という切り口でアート作品を展示する「Modern Beauty-フランスの絵画と化粧道具、ファッションにみる美の近代」が開催されています。19世紀後半から20世紀前半のファッションの変遷をたどることで、その背景にある社会構造の変化なども合わせてみることができる興味深い展覧会となっています。
流行に合わせて移りゆく女性のファッション
芸術は情報発信の中心だった
「ファッションは時代を映す鏡」といわれるように、いつのときも時代を象徴してきました。19世紀に起こった産業革命の波は、社会構造や人々の生活を激変させたと同時に、フランスのファッションにも大きく影響します。
紡績機や機械の改良でものが大量生産できるようになり、ファッションメディアの発達で情報の拡散スピードも格段に上がりました。その頃、フランスの美術批評家であり詩人であるボードレールは、移ろいやすい時代ならではの風俗を、作品の中に描き止めることを画家たちに推奨したといいます。
なかでも、流行を映し出す女性のファッションは重要なテーマとなり、最新のドレスを身にまとった女性や、それまでは描かれたことのなかった化粧や身繕いをする女性まで、多くの女性像が画家たちによって積極的に描かれるようになりました。
まだ写真のなかった時代、記録や情報発信の中心は、すべて絵画やイラスト、版画でした。今なおファッショニスタたちに高い人気を得る雑誌「VOGUE」も、当時は「ファッション・プレート」と呼ばれる版画で最新のトレンドが伝えられていたそうです。
「Modern Beauty」展では、産業革命以降の19世紀後半から20世紀前半までの約100年間に描かれた絵画をはじめ、ドレス、化粧道具、装身具など212点を展示し、ファッションの変遷をたどることで時代の変化なども紹介しています。
19世紀半ばのパリには、近代化が形作られたという重要な背景があります。「駅」や「旅行」、「エッフェル塔」などはまさに近代化の象徴であり、それらをモチーフにした絵画とファッションを照らし合わせて見ることで、より深く楽しめる内容になっています。
また、今回展示されている化粧道具は世界的にも貴重なコレクション。特に28点の珊瑚の化粧セットは、当時の状態でこれほど揃っているのは大変珍しいそう。
キラキラとした香水の瓶や装飾が散りばめられた手鏡などを眺めていると、女性はいつの時代も普遍的に「かわいい」ものに目がなかったのだと、改めて実感させられます。
画家がもつ興味深い一面
絵画に反映されるファッションや作風へのこだわり
「Modern Beauty」展では、ピカソやマネ、ルノワール、モネなど、誰もが知る画家の作品が多く展示されていますが、彼らの絵を「ファッション」という切り口で見てみると、また新たな発見があります。
ルノワールは仕立屋の息子として幼い頃からファッションに触れて育ったせいか、自分が所有するドレスを絵のモデルに着せていたそうです。
ルノワールの描いた「髪かざり」という作品と「レースの帽子の少女」という作品を見比べてみると、同じ白のパフスリーブのドレスを、違うモデルに着せて描いていることがわかります。帽子をつくってあげることもあったというから、器用ですね。
いっぽう画家のマネは、自らモデルをスタイリングし、絵の中でモデルが身にまとっているドレスや帽子を、婦人服店で一緒に選んで購入していたそうです。
マネは、女性の肌を美しく描くことにもこだわり、油絵に使うキャンバスにあえてパステルで描くことで、ふんわりと柔らかな女性の肌の質感を表現したといいます。
このように、当時の画家がモデルのファッションや女性のもつ美の表現に強いこだわりをもって描いていたことは、興味深い一面ではないでしょうか。
今回の展示を通して、19世紀から20世紀にかけて大きく変化したファッションが画家によってどのように描かれたのか。ファッションにみる時代背景、女性の化粧や美へのこだわりについて改めて窺い知ることができたことは、大変有意義でした。
また、美術館の展覧会というと、とかく絵画を連想しがちで、絵画の鑑賞だけでは想像に任せる部分も大きいところです。
しかし、当時の女性が実際に使っていた化粧道具や身繕い用の陶器の器などが絵画と一緒に立体的に展示されることで、この時代の女性たちの生活がリアルな実感を伴って目に浮かんでくるようでした。
ファッション好きな人はもちろん、女性なら誰しもが感性を刺激され、興味をもって楽しめる展覧会だと思います。
これから新緑の時期を迎え、箱根はいちばん良い季節。ポーラ美術館の周辺には「森の遊歩道」もあり、森林浴や散策を兼ねての来場がおすすめです。
(文・開 洋美、写真・川野結李歌)
Modern Beauty-フランスの絵画と化粧道具、ファッションにみる美の近代
会期:3月19日(土)〜9月4日(日) ※6月16日(木)は休室
会場:ポーラ美術館
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
開館時間:9:00〜17:00 ※入館は16:30まで
入館料:大人1800円/65歳以上1600円/大学・高校生1300円/中学・小学生700円 ※各種割引については公式HPを参照
お問い合わせ:0460-84-2111(ポーラ美術館)