デザインインフォメーション

2016.11.14

建築の境界を飛び越えた思考の可能性を探る
「トラフ展 インサイド・アウト」

(C)Nacása & Partners Inc.

どこからが建築で、どこまでがインテリアなのか。さらには、プロダクトと家具のデザイン、都市計画と建築計画の境はどこにあるのか。いつの間にか細分化して固定化したカテゴリーを軽やかに飛び越えながら、数多くのプロジェクトを手掛けてきたトラフ建築設計事務所の個展「トラフ展 インサイド・アウト」が、東京・乃木坂のTOTOギャラリー・間で開催中である。常識を疑いながら、頭の中をひっくり返すような思考とアプローチを実感できる。

 

トラフ建築設計事務所が生み出してきたプロジェクトが並ぶ展示会場。さまざまな作品をつなげることで、風景のようなものをつくり出している。(C) Nacása & Partners Inc.

トラフ建築設計事務所が生み出してきたプロジェクトが並ぶ展示会場。さまざまな作品をつなげることで、風景のようなものをつくり出している。(C) Nacása & Partners Inc.

 

ジャンルやスケールを横断しながらデザインする

クリエイションの現場の断片を読み解く

 

鈴野浩一氏と禿(かむろ)真哉氏による建築家ユニット、トラフ建築設計事務所は、そのはじまりとなるプロジェクトから、デザインの領域を横断していた。

 

クラスカというホテルの小さな客室に設けられた1枚の壁は、備品や機器、宿泊者のモノを等価な扱いで収納するための要素であったが、それは自然に生き生きとしたテンプレートとなり、ホテルを活性化する一助となった。

 

その後も、住宅のほか店舗やショールームのインテリア、展覧会の展示構成、舞台美術、そして家具や指輪などの小さなプロダクトまでデザイン。建築という枠組みを越え、現在に至るまで200を超えるプロジェクトを手がけてきた。

 

今回の展示では、これまでのプロジェクトを振り返りつつも、その過程で生み出されてきた彼らの「思考の断片」をフラットに並べ、つなげることで「風景のようなものをつくり出す」ことが意図されている。

 

テンプレート イン クラスカ(2004年)(C)阿野太一

テンプレート イン クラスカ(2004年)(C)阿野太一

 港北の住宅 (2008年)(C)阿野太一

港北の住宅 (2008年)(C)阿野太一

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空気の器 (2010年)(C)冨田里美

空気の器 (2010年)(C)冨田里美

光の織機 (Canon Milano Salone 2011)(2011年)(C)大木大輔

光の織機 (Canon Milano Salone 2011)(2011年)(C)大木大輔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3階の第一会場を入ると目の前に現れるのは、たくさんの雑多なモノが置かれた大きなテーブル。ゆるやかな旋律のBGMのなか、ウィンウィンとNゲージの車両が、ジオラマのような展示物の間を縫うように静かに走っている。およそ建築分野らしくない、思わず肩の力が抜ける光景である。

 

置かれているのは、建築模型やプロダクトの現物、プロジェクトを検討する際のモックアップ、インスピレーションを抱かせる物体など、モノの数々。それぞれは1から100までナンバリングされていて、受付で渡されるマップを片手に参照しながらぐるりと見ていく。

 

隣り合うモノは、脈絡がないように思える。たとえば、ディスプレイ什器の1/10の模型が置かれた隣に、形状が面白いクリーム絞り器が幾つか置かれている、というように。彼らは普段、建築に使われないような素材やモノもよく見て触り、観察する。そうした発想の手がかりも、解説を追うことで得られるだろう。

 

雑多なモノの展示のように感じるかもしれないが、実は入念な準備がされてきた。大きなテーブルは、展覧会場に設営される前には彼らの事務所でつくられ、そこで展示物のレイアウトが検討されていた。

 

Nゲージの車両を走らせる展示のアイデアは、幾度の大幅な方向転換を経て、スケジュールぎりぎりまで粘って生まれたものである。その成果は、4階の第二会場をもって結実することになる。

 

中庭にも番号が振られたモノが点在し、テーブルが伸長しながら場をつくり出している。(C) Nacása & Partners Inc.

中庭にも番号が振られたモノが点在し、テーブルが伸長しながら場をつくり出している。(C) Nacása & Partners Inc.

 

映像上映のみという思い切った展示。ダイナミックで、スムーズなシークエンスで展開し、臨場感のある映像がスクリーンいっぱいに広がる。(C) Nacása & Partners Inc.

映像上映のみという思い切った展示。ダイナミックで、スムーズなシークエンスで展開し、臨場感のある映像がスクリーンいっぱいに広がる。(C) Nacása & Partners Inc.

 

つくり込まれた圧倒的な映像の力を体感。

視点を変えることで広がる発想法を体得する

 

……と、その前に、屋外の中庭を経由するのであるが、ここでは第一会場のテーブルが連続するように同じ高さと幅のテーブルが延びる。ナンバリングされた展示物はここにも点在し、一部はテーブルがえぐられたりすることで、それぞれの場が緩やかに生まれている。

 

トラフ2人の思考の柔軟さというか、遊び心ある雰囲気が出ているのが、もともと中庭に鎮座する岩に描かれた「眼」だ。丸い眼が入れられることで、その岩はサカナに見え、中庭の床面が水面に、テーブルは島に見えてくる。1点を刺激することで、周りに広く影響を及ぼすことが現れているようだ。

 

本展のタイトル「インサイド・アウト(Inside Out)」は、「裏返し」を意味する。これは、トラフの頭の中をさらけ出すことと同時に、既存の枠組みやヒエラルキーにとらわれずに物事を捉えて発想するアプローチをも意味している。

 

同時に刊行された同名の書籍『インサイド・アウト』(TOTO出版)にも、「モノから風景をつくる」「見えないものを可視化する」など8つの視点で作品がまとめられていて、展示物の一つ一つにもその視点が込められているのである。

ガリバーテーブル(2011年)(C)吉次史成

ガリバーテーブル(2011年)(C)吉次史成

gold wedding ring(2012年)(C)田村孝介

gold wedding ring(2012年)(C)田村孝介

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AAスツール (2012年)(C)吉次史成

AAスツール (2012年)(C)吉次史成

目黒本町の住宅 (2012年)(C)阿野太一

目黒本町の住宅 (2012年)(C)阿野太一

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4階の第二会場は、映像上映のみという思い切った展示。段状に並べられた「段々ベンチ」の前には、大きなスクリーンがある。そこで流されているのは、第一会場の展示物の間を縫うように体感できる映像。Nゲージ車両に小型カメラを搭載し、そこから撮ったものである。

 

画面いっぱいに広がるダイナミックで、スムーズなシークエンスで展開する映像。視点が変わることでモノが巨大化し、山(素材のサンプル)を背景にトンネル(パイプ)の中に入り込んだり、建物(1/50スケールなどの模型)の中を歩き回るような体験ができる。本物でのつくり込みならではの、臨場感に溢れた映像だ。

 

1周する旅の途中ではアップダウンもあり、地下にも潜って運行する。適宜、主な作品には二人のナレーションで解説が付け加えられる。イームズ夫妻の映像作品「おもちゃの汽車のトッカータ」を連想させたが、一貫して車載カメラからの視点で風景を捉える点、そこに作品解説を絡めた点で、この映像自体がオリジナリティあふれる一つの作品となっている。

 

こうして映像を見た後、再び第一会場を通るときには、多数のモノを見る眼が変わっているはずである。物事を主観で見るか、俯瞰で見るか。それぞれの異なるシーンは表裏一体に隣り合わせていることが実感される。

 

実はナンバリングの100番目は、「あなたの視点」。「トラフ号」に乗って得られた視点をもって、街のあちこちを見ていただきたい。きっと、心躍るような発見が得られるだろう。

 

(取材・文/加藤 純)

 

(左)モノが所狭しと置かれた大きなテーブル。(右)BGMのなかNゲージの車両が、ジオラマのような展示物の間を縫うように走り抜ける。(C) Nacása & Partners Inc.

(左)モノが所狭しと置かれた大きなテーブル。(右)BGMのなかNゲージの車両が、ジオラマのような展示物の間を縫うように走り抜ける。(C) Nacása & Partners Inc.

 

(左)ライブラリーコーナーでも「コロロデスク」「コロロスツール」を展示。トラフの家具作品を体験できる。(右)今回の展示では、普段はショールーム専用のスペースにも、トラフの展示物が拡張。「空気の器」が無数に吊るされて雰囲気を変えている。(C) Nacása & Partners Inc.

(左)ライブラリーコーナーでも「コロロデスク」「コロロスツール」を展示。トラフの家具作品を体験できる。(右)今回の展示では、普段はショールーム専用のスペースにも、トラフの展示物が拡張。「空気の器」が無数に吊るされて雰囲気を変えている。(C) Nacása & Partners Inc.

 

トラフ建築設計事務所

鈴野浩一(すずの こういち)と禿真哉(かむろ しんや)により2004年に設立。建築の設計をはじめ、インテリア、展覧会の会場構成、プロダクトデザイン、空間インスタレーションやムービー制作への参加など多岐に渡り、建築的な思考をベースに取り組んでいる。主な作品に「テンプレート イン クラスカ」「NIKE 1LOVE」「港北の住宅」「空気の器」「ガリバーテーブル」「Big T」など。「光の織機(Canon Milano Salone 2011)」は、会期中の最も優れた展示としてエリータデザインアワード最優秀賞に選ばれた。2015年「空気の器」が、モントリオール美術館において、永久コレクションに認定。2011年「空気の器の本」、作品集「TORAFU ARCHITECTS 2004-2011 トラフ建築設計事務所のアイデアとプロセス」 (ともに美術出版社)、2012年絵本「トラフの小さな都市計画」(平凡社)、2016年「トラフ建築設計事務所 インサイド・アウト」(TOTO出版)を刊行。

 

トラフ展 インサイド・アウト

会期:2016年10月25日(土)~12月11日(日)

会場:TOTOギャラリー・間

開館時間:11:00~18:00

休館日:月曜日・祝日

入場料:無料

住所:東京都港区南青山1-24-3  TOTO乃木坂ビル3F

電話:03-3402-1010(代表)

http://www.toto.co.jp/gallerma/

 

 

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