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いま世界で起こっている真実を伝える
『世界報道写真展2015』開催中
『世界報道写真展』は時代を切り取る写真展だ。世界各国で撮影されたドキュメンタリー写真と報道写真のなかから、「世界報道写真コンテスト」に入賞した約150点の作品が、東京・池袋の東京芸術劇場ギャラリー1に展示されている。1枚の写真の持つインパクトや、驚くような真実にあらためて感動できるはずだ。会期は8月9日まで。
紛争、暴力、差別、環境汚染
2014年、地球を取り巻いていた問題を浮き彫りに
世界各地のさまざまな「瞬間」を記録した写真は、どこか暗く、どこにも救いがないように見える。明るい未来を想起させるのではなく、閉塞感が漂い、不安に満ちている。
ウクライナとパレスチナのガザ地区では武力紛争が起きていた。西アフリカを中心にエボラウイルスが猛威をふるい、マレーシア航空の飛行機が墜落した。近代化と豊かな未来という大義名分の下、豊かな自然が破壊され、何世代にも渡って続けられてきた穏やかな暮らしが奪われている。
見れば見るほど暗澹たる気持ちになっていったとき、ある作品が切り取った光景にホッとさせられた。イランで執行された公開絞首刑の記録である。イランのアラシュ・アムシ氏が撮影したもので、「スポットニュースの部」で組写真3位に入賞した。
イランの死刑執行件数は中国を除くと世界最多。公開の絞首刑がしばしば行われており、殺人被害者の遺族には、死刑囚を立たせた椅子を倒すことが許されているという。
その日、絞首台に連行されたのは、ケンカの末に友人を刺して死なせた青年。刺されて亡くなった被害者の母親が立ち会っていた。
執行のとき。被害者の母親は椅子を倒さずに死刑囚の青年を平手打ちにした。平手打ちは、赦しのしるしである。被害者の遺族も手伝って、首にかけられた縄がほどかれた。
血をわけた息子を殺された母でさえ赦しを与えることができるのだ。政治や宗教、民族の問題で起こる殺し合いも、人間ひとりひとりと向き合うことで解決できるのではないか。組写真の先に、そんな小さな希望の光が見えた気がした。
イランでは、被害者の遺族は死刑の執行を止めることはできるが、代わりに下される懲罰刑に関与することはないという。赦された元死刑囚は、赦した遺族は、これからどんな感情を抱いて生きていくのだろうか。
約9万8000点の応募作から選ばれた「世界報道写真大賞2014」は
性的少数者に対する問題に向き合った作品
2016年6月26日。アメリカ合衆国の最高裁判所が「同性婚禁止は違憲」との判決を出し、アメリカ全州で同性婚法案が可決される見通しとなったことは記憶に新しい。
世界的に見ると、セクシュアルマイノリティが生きにくい現状もある。デンマークのマッズ・ニッセン氏が撮影し、「現代社会の問題」の部の単写真1位、「世界報道写真大賞2014」に選ばれた作品も、性的少数者に目を向けたものだ。
ロシア、サンクトペテルブルクで、同性愛のカップルをアパートメントで撮影した。ごく私的な時間と空間を間近に写し取った作品は、穏やかで、審美的で、観るものに強い印象を与える。
ロシアではLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)はますます生きにくくなっているという。法的、社会的差別や嫌がらせを受けるだけでなく、宗教団体や民族主義者から暴力的なヘイトクライム(憎悪犯罪)の対象とされることもある。
世界報道写真展2015の審査委員長、ミシェル・マクナリー氏は「性的少数者たちはロシアに限らず世界中で、社会からも法からも差別を受けている。本作品は力強いが、その力の源は繊細さだ。人間の普遍性を捉え、情感とインパクトに富み、対話のきっかけとなり得る作品だ」と評した。
この作品が撮影されたときにはまだ、アメリカ全州で同性婚が認められるとは誰も思っていなかった。セクシュアルマイノリティへの差別はまだ根強いが、「マイノリティ」とさえ呼ばれなくなる時代への転換点の象徴として、この作品を振り返る日がくるかもしれない。
世界報道写真展2015に、世界131の国と地域から5692人が応募した作品は、9万7912点にのぼった。人類の歴史のなかで2014年はどのような意味を持つのか。さまざまな視点で切り取った「2014年」を、ぜひ、その目で確かめてみてほしい。
(文・久保加緒里)
世界報道写真展2015
会期:2015年6月27日(土)~8月9日(日)
会場:東京芸術劇場 ギャラリー1(5階)
開館時間:10:00-17:00(金・土は20:00まで)
入館は閉館30分前まで
休館日:7月27日(月)
観覧料:一般800円/学生600円/中高生・65歳以上400円/小学生以下無料
*各種割引についてはウェブサイトを参照
住所:東京都豊島区西池袋1-8-1
電話:03-5391-2111(東京芸術劇場)