デザインインフォメーション

2015.03.02

機能性を重んじる姿勢と研ぎ澄まされた感性
スイスデザイン展

「スイスデザイン」というと、何を思い浮かべるだろうか。時計、鉄道、グラフィック、家具、建築、等々。洗練された高い品質の製品やイメージが、いくつも思い出されてくるだろう。

 

去年、日本とスイスの国交樹立150周年を迎えて企画された「スイスデザイン展」が、現在、東京オペラシティ アートギャラリーで開催中だ。

 

世界中で愛されるデザインを生み出すスイスの魅力を多角的に紹介することで、スイスデザインの深層と真髄が浮かび上がってくる、日本で初めての展覧会となっている。

 

 

《スイスエンブレムレッド》 シグ、(オリジナル制作1957) ©株式会社スター商事

《スイスエンブレムレッド》 シグ、(オリジナル制作1957) ©株式会社スター商事

《WHITE LOOP》 スウォッチ、2014

《WHITE LOOP》 スウォッチ、2014

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多言語国家で花開いた

スイスデザインというブランド力

 

スイス国旗をモチーフとしたインスタレーションで迎えられる本展覧会。展示の冒頭では、150年前に日本との国交が樹立した頃の状況が紹介される。

 

両国ともに列強大国に囲まれ、小さな国としての存在意義を模索中であった時期。日本にはスイスの商社が設立され、生糸や時計を輸出入する交易が進んだ。

 

続いて、スイスという国の発展に、デザインが重要な役割を果たしていることが示される。その中には、「スイスクロス」で知られる国旗のグラフィックも含まれる。

 

そして、豊かな自然を満喫する観光やそれに付随する施設、時間に正確な列車の運行や、分かり易いサインなどデザインは重要なものとして捉えられていた。まさしく国をあげて、いかにスイスの特性をアピールするかというブランド戦略が進められた様子が示される。

 

 

《スイス連邦鉄道とモンディーンの鉄道時計》

《スイス連邦鉄道とモンディーンの鉄道時計》

 

 

 

ヘルベルト・マター 《「エンゲルベルク・スキー場」ポスター》 1935、竹尾ポスターコレクション

ヘルベルト・マター 《「エンゲルベルク・スキー場」ポスター》 1935、竹尾ポスターコレクション

《オフィサーナイフ》 ビクトリノックス、1897

《オフィサーナイフ》 ビクトリノックス、1897

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マックス・ビル 《ウルム・スツール》 1989(オリジナル制作1954)、武蔵野美術大学 美術館・図書館蔵

マックス・ビル 《ウルム・スツール》 1989(オリジナル制作1954)、武蔵野美術大学 美術館・図書館蔵

ハンス・ノイブルク 《「チューリヒの作家たち展」ポスター》1965、宇都宮美術館蔵

ハンス・ノイブルク 《「チューリヒの作家たち展」ポスター》1965、宇都宮美術館蔵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしたデザイン活動を支えたのが、実用性と機能性を好み、伝統と最新技術を融合させながら手仕事的なぬくもりと美しさを愛するスイス人気質。

 

安全で正確なサービスを提供する鉄道、そして時計や靴、家具やファブリックなど多様な領域におよぶ8ブランドにおける取り組みが、続いて紹介される。

 

「伝統・素材」「技術・機能」「革新」という切り口で、実際のプロダクトや映像を交えて展示。スイスのデザイン文化の豊かさを知ることができる。

 

展示の中間でポイントとなるのが、バウハウスに学んだマックス・ビルというデザイナーの活動だ。

 

グラフィック、プロダクト、建築、絵画、彫刻、そして理論や教育など、領域を超えて多彩な活動を展開したマックス・ビルによる作品の数々が展示される。それらの作品に対峙すれば、機能性を重んじる姿勢や研ぎ澄まされた感性が見て取れるだろう。

 

 

《「バリー160周年記念カタログ」表紙》 バリー、2011

《「バリー160周年記念カタログ」表紙》 バリー、2011

 

 

《ECCO》(部分)テキスタイル原画、 クリスチャン・フィッシュバッハ、2012

《ECCO》(部分)テキスタイル原画、 クリスチャン・フィッシュバッハ、2012

クルト・ネフ《ネフスピール》 ネフ(オリジナル制作1958)©Naef Spiele AG

クルト・ネフ《ネフスピール》 ネフ(オリジナル制作1958)©Naef Spiele AG

 

 

 

 

 

ル・コルビュジエから現代のデザイナーに受け継がれる

スイスデザインの精神と表現

 

続いて展開されるのは、世界的にスタンダードとなっているスイスのグラフィックデザインについてだ。

 

特に明快さと厳格な構成が特徴の「スイスタイポグラフィー」や「グリッドシステム」は、現代でも大きな影響を与え続けている。20世紀半ばに黄金時代を築いた作家たちが一挙に紹介される。

 

そして「スイスデザインの現在」として、時代を超えて愛用されるプロダクト、またデザインの可能性を切り開く現代のデザイナー19組の仕事が紹介される。

 

私たちの生活の中にはさまざまなスイスデザインが溶け込んでいるのがわかるだろう。筆者は自宅にあるバーミックスがスイス生まれであることを初めて知った。

 

また、現在活躍するデザイナーの作品の数々も興味深い。特に目を引いたのは、アトリエ・オイという3人組のデザイナーだ。

 

たとえば、「oasis chair」という椅子のプロトタイプと、不思議な動きをする照明器具「oiphorique」を使ったインスタレーションが印象深い。これまでのスピリットを受け継ぎながら、どのようにスイスデザインを発展させていくのかが楽しみになる。

 

 

ル・コルビュジエ 《ル・コルビュジエ・センター》1967竣工 ©FLC

ル・コルビュジエ 《ル・コルビュジエ・センター》1967竣工 ©FLC

 

 

この展示を総括するのは、スイス生まれ、近代建築の巨匠であるル・コルビュジエの活動だ。展示前半の8ブランド紹介で示された「伝統・素材」「技術・機能」「革新」という視点は、コルビュジエの仕事にまさに当てはまることがわかる。

 

素材の質感を重要な要素として活かすこと、快適に過ごすために必要な機能の追求、そして多分野にわたって革新的なアイデアを追求したこと。加えて、人体を基本にした新しい寸法体系や色彩で普遍的な基準を定めようとしたこと、企業とのコラボレーションに積極的であったことはあまり知られていないかもしれない。

 

この展示を通して見ると、デザインという軸のもとにスイスが独自の発展をしてきたことが理解できる。これからも、スイスデザインは私たちの生活に刺激と満足を与え続けることだろう。

 

そして、願わくばスイスと日本のデザイナーのコラボレーションが活発になってほしい。すでに、若手の建築家やデザイナーが両国で交流していることを身近に聞いている。デザイン界に新たな地平が切り開かれることに、大いに期待したい。

 

(文・加藤 純)

 

 

スイスデザイン展の会場風景。3月29日(日)まで開催中。

スイスデザイン展の会場風景。3月29日(日)まで開催中。

 

 

スイスデザイン展 SWISS DESIGN

会期:2015年1月17日(土)~ 3月29日(日)

会場:東京オペラシティ アートギャラリー

開館時間:11:00-19:00(金・土は20:00まで/最終入場は閉館30分前まで)

休館日=月曜日

入場料=一般1200円/大・高生1000円/中学生以下無料

住所:東京都新宿区西新宿3-20-2

電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)

http://www.operacity.jp/ag/exh172

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