デザインインフォメーション
アジアの5組の建築家が未来に希望を発信
TOTOギャラリー・間 30周年記念展
建築分野専門のギャラリーであるTOTOギャラリー・間の30周年を記念した展覧会「アジアの日常から:変容する世界での可能性を求めて」が開かれている。なぜ今、アジアに目を向けるのか。アジアの5組の建築家が活動する文脈が伝わってくる展示からは、創造のヒントと建築が持つ可能性を探るべく、私たちの日常を見つめなおすきっかけを得られるだろう。
アジアの多様性と共通性を
建築を通して再認識する
今回の展覧会に招待された建築家はタイ、シンガポール、ベトナム、中国、日本から5組。いずれも30〜40歳代の、建築界では若手ではあるが実力派の建築家たちである。
同じアジア圏とはいえ、それぞれが活躍する各国の文化や風土はもちろん異なる。どのように固有の環境を捉えながら建築活動をしているのか、そうしたスタンスや視点が展覧会では共通して紹介される。
展覧会場を入ってまず広がるのは、中国のチャオ・ヤン氏による大きな写真パネルやスクリーン。そこでは、大理石で有名な地方都市・大理の風景が紹介される。目覚ましい経済発展とは距離を置いた、中国本来の趣が残る街で活動するチャオ氏。
建築模型と重ねあわせるように日常的な風景が紹介されることで、一見するとシンプルな建築のプロジェクトは厚みを持って見えてくる。そして、湿り気を含む空気と自然の微妙な色合いに、アジアを感じる。
続くシンガポールのリン・ハオ氏による展示は、床にこんもりと盛られた黒土が目を引き、湿った黒土特有の匂いが漂う。会場の中の「島」は、都市国家シンガポールそのものを表現しているという。
土の上にはプロジェクトの模型が並べられ、間には敷石が置かれ草が生え出している。自然の力が活発で、自然と一体化せざるを得ないアジアの建築の姿を表しているようだ。リン氏は実際に、住宅から施設まで、自然と融合したような建築をつくり続けている。
中庭に出ると、べトナムのヴォ・チョン・ギア氏による「地球のためにできること」と題したインスタレーションが立ち現れる。ヴォ氏が得意とし、これまでも多くの実例で手がけてきた「竹構造」だ。
ベトナムの竹を糸で束ね、柱や梁などの架構として用いた構造物で、尖頭アーチの形が繰り返される姿は、さながら荘厳なゴシック様式の教会のようだ。スモークで燻された竹の匂いを嗅ぎ、また頭上から届く笹の葉のこすれ合う音を聞いていると、自然とつながる建築の姿が感じられる。
アジアから新しい建築と日常が生まれ
世界に向けて発信していく
第2会場の4階に入ると、日本の大西麻貴氏と百田有希氏による「経験の一部としての建築」という展示が手前にある。
なかなか内向的で繊細なテーマであり、現在の日本の建築界を断片的に示している。大きなスケールの模型を用いていることが特徴で、建築や街と関わることでの「経験」を感じさせることが狙いのようだ。
模型の中や周辺の壁には、プロジェクトのプロセスを示す小さな模型やスケッチなどが入れ子状に置かれている。しかし個人的な経験に共感して広げていくにしては、情報の密度のためか模型のスケールのためか、展示に入り込んでいきにくい感じを受けた。
4階の奥に置かれているのは、タイのチャトポン・チュエンルディーモル氏による「デザイン屋台」。映像やパネル写真、通りや建築の模型、タイ特有の日用品がパッケージされた、移動可能な展示台だ。
見ている側は、バンコクの日常風景と街の濃密なパワーを感じながら、模型とモノの間を無意識に行ったり来たりする。展示としてよくできていて、見ていて飽きない。バンコクの街をつぶさに調べて積み重ねた知見から生み出されているという建物も、飽きのこない建築であるに違いない。
今回の展示を通して、アジアの得も言われぬ魅力を再認識することになった。流れる時間、人の交流、モノの量と存在感、街の空気感はいずれも濃く、活力に満ちている。
これから、アジアから新しい建築と日常が生まれ、世界に発信されていくはずだ。その姿が今から楽しみである。
なお、それぞれの建築家が手がけてきた建築物の詳しい説明は、同時に発刊された本『アジアの日常から――変容する世界での可能性を求めて』(TOTO出版)に詳しい。そして、日本の5都市にある大学で開催される講演会も引き続き行われている。興味のある方は訪れるとよいだろう。
(取材・文/加藤 純)
TOTOギャラリー・間 30周年記念
アジアの日常から:変容する世界での可能性を求めて
会期:2015年10月7日(金)~12月12日(土)
会場:TOTOギャラリー・間
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜日・祝日(日曜開館)
入場料:無料
住所:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
電話:03-3402-1010(代表)