デザインインフォメーション

2015.08.03

台湾で理想の街づくりをする建築設計集団
「フィールドオフィス・アーキテクツ展」

(C)Nacása & Partners Inc.

台湾で活動する建築設計集団「フィールドオフィス・アーキテクツ」。乃木坂のTOTOギャラリー・間で行われている単独の展覧会は、約20年の設計活動を通じて得られたという4つの「気付き」を軸にまとめられている。建築と人、社会、そして自然との関係を深く映し出し、柔らかく包むように見せる展示は、見る者の心に静かに・強く鳴り響く。

 

フィールドオフィス・アーキテクツのダイナミックな建築模型。(C) Nacása & Partners Inc.

フィールドオフィス・アーキテクツのダイナミックな建築模型。(C) Nacása & Partners Inc.

 

(左)フィールドオフィス・アーキテクツのスタッフ。(右)宜蘭社会福祉センター。 (C) Chen, Min-Jia

(左)フィールドオフィス・アーキテクツのスタッフ。(右)宜蘭社会福祉センター。 (C) Chen, Min-Jia

 

強力な理念、膨大な手間と時間が紡ぎ出す

街や自然に開かれたネットワーク

 

フィールドオフィス・アーキテクツを設立した中心人物は、黄 聲遠(ホァン・シェン・ユェン)という建築家だ。

 

台中の大学を卒業後に渡米し、イェール大学で修士課程を修了後、建築家のエリック・オーウェン・モスに師事。1994年に台湾に帰国、地方都市の宜蘭(イーラン)を拠点に独自の活動を始めた。

 

これまでのほとんどのプロジェクトは、半径約15km。車で約30分以内にあるという。極めてローカルであるが、街を形づくる多様な建築物とその活動は国内外で20以上もの賞を獲得し、実力が評価されている。

 

展示は「気付き」に沿って進む。1番目は「時間と仲良く」。植物の幹や葉にある葉脈などの器官を指す「維管束」という言葉を用いながら、20年という長い時間をかけて街のスポットごとに文脈を読み込んで建築物をつくり、それらが有機的につながっていく様子を見ることができる。

 

建築物は、生活回廊や福祉センター、遊歩道、美術館など、さまざまな領域にわたるもの。手の跡が残る模型は、時間と労力の集積を物語っている。模型を支える細いアルミフレームは、すべて手作業によって1本ごとに曲げられ、金物によって束ねられたものだという。

 

なお、ここで展示されていた映像の一つは何かと話題になっているドローンで撮影されたものと思われるが、その有効性に目を見張った。街を俯瞰するアングルから通りを移動する様子までスムーズにつながり、街の空気感を余すところなく伝えている。

 

多彩な建築模型で構成された展示会場。 (C) Nacása & Partners Inc.

多彩な建築模型で構成された展示会場。 (C) Nacása & Partners Inc.

 

(左)津梅橋遊歩道 (C) Fieldoffice Architects (右)櫻花陵園入口橋 (C) Chen, Min-Jia

(左)津梅橋遊歩道 (C) Fieldoffice Architects (右)櫻花陵園入口橋 (C) Chen, Min-Jia

 

(左)羅東文化工場 (C) Chen, Min-Jia (右)フィールド・ドミトリー (C) Fieldoffice Architects

(左)羅東文化工場 (C) Chen, Min-Jia (右)フィールド・ドミトリー (C) Fieldoffice Architects

 

街に根ざし、人に寄り添う建築の姿。

深く純粋な悟りは普遍的に訴えかける

 

第一会場の3階中庭には、2番目の気付き「山、水、土、海と暮らす」が展開される。普段は乾いた床には水が張られ、横たわっている石のオブジェは海原に佇む島のように見えてくる。ここでは宜蘭の豊かな自然と、そこで活動する事務所スタッフの日常が紹介される。

 

水盤の奥に立ち現れているのは、展示台でも使われていたアルミパイプが集まり、天高くそびえる姿だ。それらの細やかなフレームは、自然の見立てや人の共同体をおおらかに覆うように、そこにある。おそらくは黄氏が理想とする建築物のかたちは、このようなものであるはずだ。

 

その予想は、4階の第二会場に至ると裏付けられる。3番目の気付きは「基準線としてのキャノピー(天蓋)」。雨の多い地域にあって、大屋根の下での自由な活動を保証するキャノピーは黄氏たちがよく用いる形式となっている。

 

これは政権交代が激しい台湾で、粘り強く公共建築をつくるために見出した有効な手段でもあるようだ。大きな模型で紹介される「羅東文化工場」は、その集大成ともいえる施設である。キャノピーができると、一定の高さに基準となる線が引かれ、見慣れた風景の中に再発見が生まれる。また、誰もが使えるキャノピーは、民主的で階級がなく、多様な活動を受け容れる社会を示している。

 

会場の最奥部で示される最後の気付きは「ただ自分の身体に意識を向け、いつしか時を忘れる」。ここで紹介される「宜蘭県立櫻花陵園」という霊園では、建築物が自然に埋没し消失しているかのよう。ダイナミックな形態がかろうじて示されるのは、間仕切りのように使われている棚に置かれた、アプローチブリッジの断面形状のオブジェだ。後は映像主体で展示される。

 

死に際して、人は時間や場所から解き放たれる。それと共に建築までも自然に還っていく。なんとも壮大で深遠な建築の姿で、展示は締めくくられる。どこまでも人に寄り添う建築のあり方を黄氏は歌い上げた。そこには、宜蘭の地で培われた純粋な確信にあふれた、強い姿勢と覚悟が見え隠れしているようであった。

 

(取材・文/加藤 純)

 

中庭には「山、水、土、海と暮らす」を展開。床には水が張られ、石のオブジェは海原に佇む島のように見える。(C)Nacása & Partners Inc.

中庭には「山、水、土、海と暮らす」を展開。床には水が張られ、石のオブジェは海原に佇む島のように見える。(C)Nacása & Partners Inc.

 

フィールドオフィス・アーキテクツ事務所  (C) Fieldoffice Architects

フィールドオフィス・アーキテクツ事務所
(C) Fieldoffice Architects

フィールドオフィス・アーキテクツ

Fieldoffice Architects

フィールドオフィス・アーキテクツは、黃聲遠(ホァン・シェン・ユェン)氏によって設立され、台湾の宜蘭(イーラン)県を中心に活動を続けている。黃聲遠氏は、1963年台北市生まれ。台湾東海大学を卒業後に渡米し、イェール大学大学院修士課程を修了後、エリック・オーウェン・モスの事務所に勤務。1994年の台湾帰国と同時に宜蘭へ移住し、フィールドオフィスを開設した。国内外で20以上の賞を獲得している。

 

 

(C)Nacása & Partners Inc.

(C)Nacása & Partners Inc.

フィールドオフィス・アーキテクツ展

Living in Place

会期:2015年7月10日(金)~9月12日(土)

会場:TOTOギャラリー・間

開館時間:11:00~18:00

休館日:月曜日・祝日(日曜開館) 夏季休暇8月8日(土)~8月17日(月)

入場料:無料

住所:東京都港区南青山1-24-3  TOTO乃木坂ビル3F

電話:03-3402-1010(代表)

http://www.toto.co.jp/gallerma/

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