デザインインフォメーション

2015.05.11

未来の種を蒔いて、育てよう
「藤本壮介展 未来の未来」

(C)Nacása & Partners Inc

アジアをはじめとして世界から注目される建築界のホープ、藤本壮介氏の展覧会「未来の未来」がTOTOギャラリー・間で開催されている。自身の事務所創設以来15年の間に、住宅から公共建築まで100を越えるプロジェクトに挑んできた藤本氏。習作のさまざまな模型と言葉から、建築の未来の姿を来場者と共に探るような内容となっている。

 

大小さまざまな建築模型が所狭しと並ぶ会場風景は圧巻。 (C) Nacása & Partners Inc

大小さまざまな建築模型が所狭しと並ぶ会場風景は圧巻。 (C) Nacása & Partners Inc

 

Serpentine Gallery Pavilion 2013(イギリス、ロンドン/2013年)(C)Iwan Baan

Serpentine Gallery Pavilion 2013(イギリス、ロンドン/2013年)(C)Iwan Baan

 

建築を再発明するプロセスをたどる

“建築博士の実験室”

 

会場を入るとすぐに広がるのは、数多くの模型が所狭しと並ぶ光景だ。

 

1点ずつがその模型専用の台で高めの位置にセッティングされている。見る順番や順路が決められてはおらず、来場者は模型の間を縫うように展示を見て回る。

 

模型の大きさや形は多種多様で、縮尺もさまざま。そもそも縮尺など関係ない、素材がカタチになる手前のようなモノも多い。

 

これまでに手掛けたプロジェクトや進行中のプロジェクトの模型であるが、案件やカテゴリーは今回の展示で明確に分けられているわけではない。

 

ただし、すべてに共通するのは、模型とともに藤本氏の言葉が添えられていることだ。

 

たとえば、「住宅とは、室内と室外、自然と建築の総体である。」「建築は何も取り囲まず、ただ場の抑揚を作りだす。」など。藤本氏が数多くの設計スタディをする中でつかんできた感覚が表された言葉が、時に荒削りに思える模型を補完する。

 

壁には鏡が貼られてあり、林立する模型の広がりは増幅する。散策するように模型と言葉を読み解いていくと、藤本氏の着想の源や設計プロセスが分かってくるようである。

 

そして、藤本氏が目的とするところも。展示には度々、「発明」「再発明」という言葉が現れる。建築とは何かを探求し、新たな発明をしようとしているのである。そう思うと、この展示会場はなんだか“建築ハカセ”の実験室に見えてくる。

 

House N(日本、大分/2008年)(C) Iwan Baan

House N(日本、大分/2008年)(C) Iwan Baan

 

見る順番や順路が決められてはおらず、来場者は模型の間を縫うように展示を見て回る。 (C) Nacása & Partners Inc

見る順番や順路が決められてはおらず、来場者は模型の間を縫うように展示を見て回る。
(C) Nacása & Partners Inc

1点ずつがその模型専用の台で高めの位置にセッティングされている。 (C) Nacása & Partners Inc

1点ずつがその模型専用の台で高めの位置にセッティングされている。
(C) Nacása & Partners Inc

 

中庭にも多くの模型が展示され、会場全体がアートな都市空間を思わせる。(C) Nacása & Partners Inc

中庭にも多くの模型が展示され、会場全体がアートな都市空間を思わせる。(C) Nacása & Partners Inc

 

断片は種であり、未来をつくる

見る世界を変える建築レッスン

 

展示を見ると分かるように、藤本氏は建築を再発明するため、これまでの建物がつくられてきたスケールや材料など、もろもろの背景を疑っているようなところがある。

 

家具と建築、路や広場が途切れることなくつながる姿を考えてみたり、建築と自然が混ざり合う姿を描いてみたり、森や洞窟の原初的な姿を引用したり。

 

そうして実現した建築物の中には、「なんだろう」と戸惑うものもある。藤本氏の実験にとっては、それも成功だろう。“実験室”では身体が何かしら反応し、何か新しいものを感じることが重要であるからだ。

 

スケールも、物質も、技術も、時間も。制約に向き合って一つひとつ外していくときに、建築はこれまでの姿から解き放たれて自由になる。その実現は、まだ先のことかもしれない。ある模型で「これは建築するのに、たぶん10年かかる。いまだ予感の段階。」と添えられているように。

 

「Liget Budapest House of Hungarian Music国際設計競技」案(ハンガリー、ブタペスト/2015年)  (C) Sou Fujimoto Architects

「Liget Budapest House of Hungarian Music国際設計競技」案(ハンガリー、ブタペスト/2015年) 
(C) Sou Fujimoto Architects

 

 L'Arbre Blanc(フランス、モンペリエ/進行中)(C)SFA+NLA+OXO+RSI

L’Arbre Blanc(フランス、モンペリエ/進行中)(C)SFA+NLA+OXO+RSI

 

中庭から4階の第2会場に至っては、藤本氏が未来に向かって投げるボールの数々が示される。私たちが接する日用品などに、小さな人が置かれている模型だ。

 

藤本氏の解説によると「日常のなかの様々なものや、偶然出来てしまったような形の中に、人型を設置することで、オブジェクトが建築空間に変貌する。その意外性や面白さの先に、新しい建築の予感が生まれる」。

 

第2会場の壁面に貼られた大版の写真やCGと見比べていると、藤本氏の考える新しい建築の実現はぐっと現実味を帯びてくる。

 

藤本氏の表現に見え隠れするのは、小さな種が大きな木に育っていくように、断片的な部分がいずれ全体をつくっていくという確信だ。

 

「建築をつくるということは『未来の種』を蒔くこと」と藤本氏は表現する。「未来の無数の断片とでも言うべき、可能性と予感の『種』を蒔いていく」。

 

この展覧会で柔らかく耕され、種を蒔かれたアタマで、どのような建築の姿を思い描くことができるだろうか。そのバトンは、私たちの側に渡されている。

 

(取材・文/加藤 純)

 

模型の大きさや形は多種多様で、縮尺もさまざま。模型とともに藤本氏の言葉が添えられている。(C) Nacása & Partners Inc

模型の大きさや形は多種多様で、縮尺もさまざま。模型とともに藤本氏の言葉が添えられている。
(C) Nacása & Partners Inc

 

壁には鏡が貼られ、林立する模型の広がりは増幅する。散策するように模型と言葉を読み解いていくと、藤本氏の着想の源や設計プロセスが分かってくる。  (C) Nacása & Partners Inc

壁には鏡が貼られ、林立する模型の広がりは増幅する。散策するように模型と言葉を読み解いていくと、藤本氏の着想の源や設計プロセスが分かってくる。 (C) Nacása & Partners Inc

 

(C) David Vintiner

(C) David Vintiner

藤本壮介(ふじもと そうすけ/Sou Fujimoto)

1971年北海道生まれ。1994年東京大学工学部建築学科卒業、2000年藤本壮介建築設計事務所設立。主な作品に「Serpentine Gallery Pavilion 2013」(イギリス、ロンドン、2013年)、 「House NA」(東京都、2011年)、「武蔵野美術大学美術館・図書館」(東京都、2010年)、「House N」(大分県、2008年)。Liget Budapest House of Hungarian Music(ハンガリー)国際設計競技一等受賞(2014年)、モンペリエ国際設計競技最優秀賞(2014年)、第13回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館の展示で金獅子賞(2012年)、JIA日本建築大賞(2008年)など受賞多数。

 

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(C) Nacása & Partners Inc

藤本壮介展 未来の未来

会期:2015年4月17日(金)~6月13日(土)

会場:TOTOギャラリー・間

開館時間:11:00~18:00

休館日:月曜日・祝日(日曜開館)

入場料:無料

住所:東京都港区南青山1-24-3  TOTO乃木坂ビル3F

電話:03-3402-1010(代表)

http://www.toto.co.jp/gallerma/

 

 

 

 

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