行ってみたいデザイン空間

2016.09.20

話題の「若冲と蕪村」を
箱根・岡田美術館で観る

箱根・小涌谷の岡田美術館で、今年生誕300年を迎えた伊藤若冲と与謝蕪村の特別展『-生誕300年を祝う- 若冲と蕪村 江戸時代の画家たち』が9月5日から開催されている。今春、東京都美術館で開催された『生誕300年記念 若冲展』でも話題となった「孔雀鳳凰図」をはじめとする作品が鑑賞できる。

 

1716年(享保元年)。尾形光琳が亡くなったその年に、若冲は京都で、蕪村は摂津国で生を受けた。彼らの作品はなぜ、300年の歳月を経てなお人々を魅了し続けるのか。美術の歴史や論理を知らずとも、実際に作品を鑑賞すればその答えははっきりと解る。

 

伊藤若冲「孔雀鳳凰図」(二幅) 宝暦5年(1755)頃 岡田美術館蔵

伊藤若冲「孔雀鳳凰図」(二幅) 宝暦5年(1755)頃 岡田美術館蔵

 

 

伊藤若冲「花卉雄鶏図」江戸時代中期(18世紀中頃)

伊藤若冲「花卉雄鶏図」江戸時代中期(18世紀中頃)

伊藤若冲「雪中雄鶏図」江戸時代中期(18世紀後半)

伊藤若冲「雪中雄鶏図」江戸時代中期(18世紀後半)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

83年ぶりに再発見された若冲「孔雀鳳凰図」を中心に

若冲、蕪村の名作を展示

 

今回の展覧会の最大の見どころは、やはり「孔雀鳳凰図」だろう。83年ぶりに所在が明らかとなったことが各紙で報じられ、最大320分待ち、入場者数44万6000人というフィーバーぶりを見せた東京都美術館の若冲展でも大いに注目された。

 

縦140.8×横82.6cmという大きな対幅の作品は、繊細で、鮮やかで、凛としている。白い孔雀と極彩色の鳳凰は、「夜になるとこの絵の中から抜け出して、箱根の山を飛び回るんですよ」と言われたら信じてしまいそうになるほど活き活きとしている。

 

羽のごく細かな部分まで丁寧に描き込まれた筆致は、ぜひとも会期中無料で貸し出しを行っている単眼鏡(台数限定)で見てほしい。「超絶技法」と評される若冲の真骨頂を存分に味わうことができるだろう。

 

東京都美術館での混雑した都心の展覧会と異なり、箱根の山間に建つ岡田美術館は、落ち着いた雰囲気の中でゆっくり観賞できる。

 

「孔雀鳳凰図」と並び、「花卉雄鶏図(かきゆうけいず)」、「梅花小禽図(ばいかしょうきんず)」、「雪中雄鶏図(せっちゅうゆうけいず)」の精緻な作風と、「笠に鶏図」、「月に叭々鳥図(ははちょうず)」、「三十六歌仙図屏風」の伸び伸びとした筆の水墨画。

 

毛色のまったく異なる作品を行き来しながら、若冲の豊かな才能を堪能できるまたとない機会である。

 

伊藤若冲「月に叭々鳥図」 江戸時代中期(18世紀後半) 岡田美術館蔵

伊藤若冲「月に叭々鳥図」 江戸時代中期(18世紀後半) 岡田美術館蔵

 

伊藤若冲「三十六歌仙図屏風」(6曲1双)江戸時代 寛政8年(1796)

伊藤若冲「三十六歌仙図屏風」(6曲1双)江戸時代 寛政8年(1796)

 

一方、画家であり俳人でもある与謝蕪村の作品は6点を展示。

 

三国志を題材とした「関帝像」、「桃林結義図(とうりんけつぎず)」。杜甫の「飲中八仙歌(いんちゅうはっせんか)」に詠まれた8人の酒豪を描いた「飲中八仙図画帖」、「飲中八仙図」。そして、題材は特定できないものの中国の画家に倣った「溪屋訪友図(けいおくほうゆうず)」と「大極負薪図(たいきょくふしんず)」。

 

いずれも人物が登場し、物語を感じさせる作品だ。当時の日本文化が、大いに中国から影響を受けながら発展したことが見て取れる。

 

若冲と蕪村の特別展では、円山応挙や池大雅(いけたいが)、曾我蕭白(そがしょうはく)、長沢蘆雪(ながさわろせつ)など同時代に活躍した画家たちの作品も展示されている。

 

それぞれに個性が際立つ約40件の作品を見ることで、江戸中期から後期にかけての日本絵画の奥行きが見えてくるだろう。

 

与謝蕪村「桃林結義図」江戸時代 明和8年(1771) 岡田美術館蔵

与謝蕪村「桃林結義図」江戸時代 明和8年(1771) 岡田美術館蔵

与謝蕪村「溪屋訪友図」江戸時代中期(18世紀後半)

与謝蕪村「溪屋訪友図」江戸時代中期(18世紀後半)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円山応挙「子犬に錦」 江戸時代中期 岡田美術館蔵

円山応挙「子犬に錦」 江戸時代中期 岡田美術館蔵

長沢蘆雪「鯰図」  江戸時代 岡田美術館蔵

長沢蘆雪「鯰図」 江戸時代 岡田美術館蔵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曾我蕭白「飲中八仙図屏風」(六曲一双)江戸時代中期 岡田美術館蔵

曾我蕭白「飲中八仙図屏風」(六曲一双)江戸時代中期 岡田美術館蔵

 

全5フロアにゆったりと美術品を展示

秋の箱根で日・中・韓の美を心ゆくまで愉しむ

 

小涌谷の自然に抱かれるように建つ岡田美術館は、2013年10月にオープンした国内最大級の私設美術館だ。名誉館長、岡田和生氏が蒐集した日本と東洋の美術品のなかから約450点を常時展示している。

 

コレクションの中心となるのは、近世から近代にかけての日本画と、日本、中国、韓国の陶磁器。そのほか土偶や埴輪、蒔絵、青銅器、仏像や仏画などの名品が揃う。

 

5フロア、約5000平方メートルもの広さを持つ展示室は、建築家の三浦 慎氏が設計した。展示室の絨毯や展示ケースの内部は黒に近い濃紺で統一されていて、作品が暗闇のなかに浮かび上がるような演出が心憎い。

 

岡田美術館外観。正面には高さ12m、長さ30mもの風神・雷神の大壁画、「風・刻(かぜ・とき)」(福井江太郎)が待ち受ける。

岡田美術館外観。正面には高さ12m、長さ30mもの風神・雷神の大壁画、「風・刻(かぜ・とき)」(福井江太郎)が待ち受ける。

 

伊藤若冲の作品が展示されている4階展示室。

伊藤若冲の作品が展示されている4階展示室。

 

屏風を中心にした日本絵画の3階展示室。

屏風を中心にした日本絵画の3階展示室。

 

美術館の裏手には、およそ1万5000平方メートルの広大な敷地が広がっている。天然林のなかに川や滝が水景をつくり、散策路が整備されている庭園は、昭和初期の建物を改装した飲食施設「開化亭」を入口に公開されており、箱根の豊かな自然を満喫できる庭園(入園料300円)。

 

また、美術館の正面に足湯カフェがあるのも新鮮だ。京都の建仁寺の俵屋宗達作「風神雷神図」をモチーフに、1辺が75cmのパネル640枚に描き出された福井江太郎の大作「風・刻(とき)」(縦12×横30m)を愛でながらソフトクリームに舌鼓を打つのも、贅沢な気分に浸れるだろう。

 

私設のミュージアムではあるが、質・量ともに大充実した岡田美術館。秋の行楽シーズンに足を運んでみてはいかが?

 

(取材・文/久保加緒里)

 

 

昭和初期の日本家屋を改装したカフェ「開化亭」。

昭和初期の日本家屋を改装したカフェ「開化亭」。

 

(左)四季折々の自然の変化を楽しめる庭園。(右)大壁画の前にある100%源泉かけ流しの足湯カフェ。

(左)四季折々の自然の変化を楽しめる庭園。(右)大壁画の前にある100%源泉かけ流しの足湯カフェ。

 

生誕300年を祝う 若冲と蕪村-江戸時代の画家たち

会期:9月5日(月)〜12月18日(日)

会場:岡田美術館

住所:神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1

電話:0460-87-3931

時間:9:00〜17:00(入館は16:30まで)

休館日:会期中は休館日なし

入館料:一般・大学生2800円、小中高生1800円

http://www.okada-museum.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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