せきねきょうこの気まま旅
[第13回]~アマンヤンユン~ 上海/中国
上海郊外に話題のオープン!
ストーリーのあるリゾートの背景
「その昔、森を動かし偉業を成し遂げた魔法使いがおってな~」という昔話であれば、なるほど驚きもしないですが、これがまさに21世紀の今を語るストーリーの序章としてあれば、俄かに信じがたい現実でしょう。しかし、上海の郊外には、10年以上もかけて700㎞も離れた地から森の木々を移植し、文化財的価値のある村に点在していた歴史的ヴィラをともに移築・再現することで、夢のようなリゾートをオープンさせた人がいるのです。
そのリゾート名は「アマンヤンユン」、中国国内では4軒目となるリゾート‘アマン’の大掛かりなリゾートホテルです。開業は2018年1月8日、10ヘクタール、3万坪以上もの再開発された敷地に、撫州出身の実業家、マ・ダードンによって移植された1万本以上のクスノキが、未来の森になろうと、現在も急成長を遂げているリゾートです。
この貴重なリゾートのオーナーとなったのは、前出のマ・ダードン。氏は故郷である江西省撫州市郊外にあった悠久の森の木々を、周囲の古民家もろとも、氏が手に入れた上海郊外の終の棲家に移し再生させました。その理由は、周辺の村がダム工事で水底に沈みゆくことを憂い、中国繁栄の歴史そのものである美しい伝統家屋や、今では伐採禁止となっている貴重なクスノキ(Golden Silk Nan Mu・金丝绸南木)の織り成す豊かな森を他の地に移し、後世に伝えたいと真摯に願ったことがきっかけでした。
ストーリーの背後には、人並外れた努力があったのです。 ‘森を移す’と誓った壮大な計画は、上海から700㎞近くも離れた故郷の小さな集落付近からどのように移すかがまず問われました。2002年から始まったこの活動は、現代のあらゆる知能と、気の遠くなるような労力を使い、すでに数百もの家屋が沈んだその地域から、木々と一緒に、無作為に選んだ明・清王朝時代の伝統家屋50棟が選ばれ解体され運ばれたのです。なかでも、村人たちが「皇帝の樹」と呼び、崇め精神的な糧にしてきたクスノキの巨樹は、今、アマンヤンユンの中庭に美しく蘇り、共に移設された神聖なる井戸の水をかける儀式も行われ、リゾートのシンボルツリーとなっています。こうしてこの地に根付いた森の木々は、10502本のクスノキと他の木々1070本ほど。最初元気のなかった木々も、今は青々と瑞々しい葉を蘇らせ、いずれも力強く成長を続けています。
一方、この地に運ばれた伝統家屋は幾多の労力と技術者の苦労で美しく復元され、唯一無二の見事なパヴィリオンやヴィラとなってゲストを迎えています。さらにレセプション棟やウェルネスゾーン(2840㎡)、一般のゲストが泊まるスィートなどが新築され、広大な敷地の中で、明・清朝時代の家屋とともに、建築家、ケリー・ヒルが表現した壮大なるラグジュアリーなリゾート「アマンヤンユン」として独自の世界を展開しています。
特筆すべきは、同じく撫州市から移築され芸術的に復元された知識やカルチャーの殿堂「楠書房」(元・南書房)が蘇っていることです。この芸術的なパビリオン内部は、まさに文化財的に保護されるべき家具や調度品揃い。現在では伐採禁止となった前出の木材「Golden Silk Nan Mu」(金丝绸南木)で作られた貴重な建築物ではありますが、すべて元のままに移築された建材を用いたリサイクルによって蘇りました。書房内では、書道、香道、伝統音楽など、あらゆる中国文化の知的体験が提供され、滞在者は、アクティビティとして参加が可能であり、中国の歴史的叡智の世界に触れることができます。リゾートでありながら、アマンらしさ溢れる独自の世界に誰もが魅了されてしまうでしょう。
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、現在、新刊出版を準備中。
Amanyangyun
6161 Yuanjiang Road, Minhang District , Shanghai, China 2011116161
Tel: +86 21 8011 9999
部屋数:41(アンティークヴィラ13棟、スィート24室、アマンレジデンス13棟)
施設:レストラン(中国料理、イタリア料理、日本食、カフェ)、ラウンジ、ライブラリィ、楠書房、ウェルネスゾーン(スパ、内外プール、ジム)、シガーラウンジ、他
料金:スタンダードルーム1泊6.000元~、ヴィラ1泊27.000元~
アクセス:上海浦東空港から車で約1時間
問い合わせ: amanyangyun.res@aman.com