丸の内スペシャル行ってみたいデザイン空間
第百十九国立銀行(後の三菱合資会社銀行部、三菱銀行)本店の営業室をできるだけ忠実に再現し、カフェとしてオープンした「Cafe1894」。
廊下から眺めた緑が豊かな一号館広場。丸の内のオアシス的存在で、ビジネスマンなど多くの人が集まる。
新旧の対比を味わいながら
約100年前の世界観を21世紀に堪能する
この建物は当時、階段で上下につながった棟割長屋の物件が事務所として貸し出されていた。美術館として再生するにあたっては、階ごとにぐるりと巡るようにしているため、3階からの順路に沿って進むと、小割りの部屋が展示スペースとして続くことになる。
カーペット敷きの床、漆喰壁、暖炉のマントルピース、いかにも重そうな扉など、どっしりとした雰囲気を味わいながら展示を見ていく。その途中では、四季折々の表情を見せる緑豊かな広場が眼前に開ける通路も。これは先のガラスボックスの一部で、新旧の対比が心地良い。
そして、3階では屋根と天井の間の小屋裏を見せるコーナーも。ガラスの天井を通して見える屋根裏の構造とレンガ壁は、旧三菱一号館のものが復原されたものだ。
「クイーンポストトラス」という形式の小屋組で、木にはベイマツを使用。上部に延びるレンガの壁は暖炉の煙道で、突端には陶製の煙突が載っている。その他、蹴上げ部分に透かしを入れ、階段室から室内に光が届くように工夫された鉄骨階段も見どころだ。
年2〜3回開催される企画展は、建物ができた19世紀後半から20世紀前半の近代美術を主題とするもの。19世紀末は近代美術史のなかでも、とりわけ多様な美意識を生み出した豊穣な時代とされ、幅広い年齢層のファンを引きつけてやまない。同美術館では、この時代に制作されたアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック、オディロン・ルドン、フェリックス・ヴァロットン等のコレクションを収蔵している。
いまは「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義 1860-1900」を開催。19世紀後半の英国に起こった、前衛芸術家による「新たな美」を追い求める芸術運動「唯美主義」を総合的に紹介した日本初の展覧会だ。連日、多くの観覧者を集めて評判になっている。
約140点もの作品からは、この時代の唯美主義作家の美の世界を感じとることができて見応えがある。一つ一つの作品を集中して鑑賞し、傾向の変遷を追うのに、小割りの空間を進む体験は適していると感じた。
同じ建物内には、かつて銀行営業室として使われていた二層吹き抜け空間を利用したミュージアムカフェ「Cafe1894」や、美術館オリジナルグッズを扱うミュージアムショップ「Store1894」のほか、丸の内の街の歴史や三菱一号館を紹介する歴史資料室も併設する。合わせてゆっくりと堪能し、多様な丸の内の顔を楽しみたい。
(文・加藤 純)
「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義 1860-1900」より
アルバート・ムーア《真夏》1887 年、油彩/カンヴァス、196.1×189.6cm、ラッセル= コート美術館
Photograph reproduced with the kind permission of the Russell-Cotes ArtGallery & Museum, Bournemouth
フレデリック・レイトン《母と子(さくらんぼ)》
1864-65年、油彩/カンヴァス、48.2×82cm、ブラックバーン美術館
Image courtesy of Blackburn Museum and Art Gallery
三菱一号館美術館
住所:東京都千代田区丸の内2-6-2
電話:03-5777-8600
開館時間:10:00~18:00
(祝日を除く金曜日~20:00、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日( 4月28日と5月5日は18:00まで開館)
入場料:大人1600円/高・大学生1000円/小・中学生500円
ザ・ビューティフル 英国の唯美主義 1860-1900
1月30日(木)~5月6日(火・祝)