世界のデザイン空間
軽井沢千住博美術館を俯瞰。土地の斜面のまま配置し、不定形な形状をした建物に4つの中庭が設けられた斬新なデザイン。
軽井沢の自然地形をそのまま再現
周囲の森とつながるように傾斜する展示空間
この美術館のもうひとつの大きな特徴は、展示空間の床面全体が緩やかに傾斜していること。美術館の端から端では3.5mほどの高低差があり、上と下をつなぐように床がつくられているという。
しかも単にスロープになっているのではなく、異なる角度の傾斜が細かくつけられている。これは、かつての土地の起伏に合わせて床がつくられているため。軽井沢のもとの自然地形がそのまま再現され、周囲の森とつながっているのである。
屋根も曲線を描き、天井高には変化をもたせられているが、これは飾られる絵や周辺との環境に合わせられたためだ。2m強から5m弱まで、さまざまな高さの場所がつくられている。
こうした起伏がある空間に白い展示壁が林立し、展示壁の間を縫うようにオリジナルのベンチが設えられている。あたかも森の中を巡り特徴のある木のそばに佇むように、来訪者は自由に歩きながら作品に出会い、時には腰をおろしながら鑑賞する。
作品のレイアウトは、千住氏の構想を具体化していったものだという。滝をモチーフとした一連の作品群を見ながら斜面を下り切り、円形で囲われた暗い部屋で幽玄の世界を味わう。エントランスに戻っていくときには、別のテーマの作品を鑑賞しながら斜面を上がっていく。詳細な展示内容は実際に訪れるときのお楽しみとして、ここでは触れないでおこう。
中庭を含めて敷地内には、150種類・60000株を超えるピンク、イエロー、パープル、シルバー、レッドなどの樹々や草花が植えられているという。訪れる季節によっても、見え方はさまざまに変わるはずだ。
そして館内では日の落ちるとき、また芽吹き、紅葉、雪化粧のときはどう見えて、どう感じるのだろうか。時間や季節を変え、何度も訪れてゆっくりと過ごしてみたい美術館である。
(文/加藤 純)
3000坪の敷地内には150種類・60000株を超える樹々や草花が植えられている。
建物の外周は曲面を描くガラス張り。シルバースクリーン越しに周囲の風景や緑、光が室内に柔らかく入ってくる。
起伏がある空間に白い展示壁が林立。その間を縫うようにオリジナルのベンチが設えられている。
撮影:阿野太一 ©軽井沢千住博美術館
緑の植えられた中庭を通して視線は空に抜けていく。
撮影:阿野太一 ©軽井沢千住博美術館