世界のデザイン空間
ポンピドゥー・センター・メス(フランス)

木組みによる曲面空間が美しい美術館
幾何学模様に組まれた天井と柱、
白い曲線を描いた白い屋根が印象的
ポンピドゥー・センターといっても、もちろんパリのそれがリニューアルしたわけではない。ここはフランスの六角形の国土の北東辺、ドイツに接するロレーヌ 地域圏の首府、メス。収蔵品を展示しきれないパリのポンピドゥーの分館として建てられた。世界的に有名なブランド美術館の地方分館と聞けば、すぐにビルバ オのグッゲンハイム美術館が思い浮かぶ。ここも観光客による経済効果を期待されてのことだろう。
そのポンピドゥー・センター・メスの建築だが、一見すると美術館らしくない。大きくうねった白い屋根が宙に浮かんだような建物は、どちらかと言えば権威的 だった従来の美術館建築とは似ても似つかない。そして「浮かんで」いるように感じる、その軽さの印象はあながち間違ってはいなかった。屋根を形作るのは木 材の骨組みであり、その上の皮膜はテフロンコーティングされたファイバーグラスなのだ。
大屋根に覆われた内部空間には、メインの展示ギャラリーが3室。いや、3本と言うべきか。幅15m、長さ90mのチューブ
は角度をずらして3層に積み上げ られている。それらを結ぶ六角形のエレベーター・シャフトの柱が、屋根を突き破って上空に伸びる。その高さ、77m。本家のポンピドゥー・センターがオー プンした1977年を意識してのことだとか。
屋根の構造は中国の伝統的な
竹を編んだ帽子をイメージした
鑑賞されるのを待つ多くの作品のための分館建設だったが、近年、巨大化する一方の作品を展示できないというジレンマもあった。それに対してもこちらはス マートに応えている。3つのギャラリーはエレベーターを支点にして回転しているため、低層階の屋上をそれ用の展示スペースにできるのだ。
しかし、やわらかな大屋根が生み出す空間の主役は、むしろ自由に出入りできるパブリックなフォーラムかもしれない。そこからは、展示作品も垣間見える。ガ ラスシャッターで区切られた空間は、内と外との境界が曖昧でいくらかアジア的だ。聞けば建築のモティーフとなったのは、中国の竹を編んだ帽子だという。
建築家は紙管の建築で知られる日本人の坂茂氏。「機能が決定するかたち」はここでも遺憾なく発揮されている。キーワードはヘキサゴン(六角形)。屋根を支 える木組みは六角形に編まれ、建物の敷地ももちろん六角形。そして何より、屋根そのものがフラットに広げれば六角形になる。結果としてそれらはフランスへ のオマージュとなった。その意図は十分に伝わっているようだ。坂氏は街中でフランス市民から記念撮影を求められるというのだから。
(文/入江眞介)