世界のデザイン空間
日本人建築家が設計
ルーブル美術館別館が12月に完成

世界遺産にも登録されたランスの元炭坑街エリア
周囲の広大な風景に溶け込むガラスとアルミの美術館
フランス観光の定番であるルーブル美術館に、別館の「ルーブル・ランス」が12月に誕生した。パリから高速鉄道TGVで北へ約1時間10分、元炭坑街であるランス一帯のエリアは「ノール・パ・ド・カレーの鉱業盆地」として、2012年6月にユネスコの世界遺産として登録されたばかり。
炭坑の跡地に建つ美術館のために国際的な設計競技が行われ、勝ち取ったのは妹島和世氏と西沢立衛氏によるユニット「SANAA」であった。SANAAは国内外の革新的な建築物を手がけており、ルーブル・ランスは「金沢21世紀美術館」やニューヨークの「新現代美術館」などに続く美術館建築として注目されていた。
かつては石炭を輸送するための旧鉄道線路を通って見えてくるのは、低く横たわる四角い建物。広大な敷地になじむように大きな建物にすることを避け、建物自体も5つに分割。それぞれの棟は敷地のわずかな傾斜に沿って連続し、外壁はわずかにカーブしながら配置されている。
外壁に使われているのはガラスと、高い反射率を持つように磨かれて酸化皮膜されたアルマイトのパネル。この連続面には周囲の風景が柔らかく映し出され、広大なランドスケープと空に溶け入るかのよう。美術館自体は強く派手な形をしていないものの、環境と調和することで、訪れる人の心に残る印象深い姿となっている。
一連の建物の中央にあるエントランスを入ると、ガラスに囲まれたホールが現れる。このガラスボックス22は、カフェやミュージアムショップを併設するほか、敷地のあらゆる方向を見通すことができ、通り抜けることができるという公園のような場所。金沢21世紀美術館のような周囲に対してオープンなつくりが、この敷地に合わせてさらに発展したようなかたちだ。
ランスの広大な風景に溶け込むガラスとアルミの美術館(ルーブル・ランス)。
Photographie © Hisao Suzuki
ガラスに囲まれたエントランスホールでは周囲の公園を見渡すことができる。
Photographie © Hisao Suzuki