世界のデザイン空間
片岡温泉の外観。ホールやリラクゼーション(マッサージ)、休憩所やカフェ、ライブラリーなども入る。
アーティストとデザイナーが温泉に新たな感性を注入
インスピレーションキャッチ型のリゾート
アクアイグニスのもう一つの核は、100%源泉かけ流しの日帰り温泉施設「片岡温泉」だ。
加水・加温・循環・添加物一切無しの湯と普通の温泉とでは、浸かるとその違いが歴然。アルカリ性の泉質で肌に柔らかく、長時間ぬくもりが続く。屋外には竹林の間を散策するように入浴できる露天風呂も設えられた。そして宿泊施設も充実し、全17室の畳部屋が並ぶ宿泊棟のほか、オーガニックをテーマとした離れも4棟建てられている。
これらの温泉施設を彩るのは、アーティストやデザイナーがこの地でインスピレーションを受けて生み出した、数々の作品。アーティストのミヤケマイのディレクションにより、諸泉茂、牛島孝、藤堂といったアーティストや廣田尚子らのデザイナーによる作品や家具が、空間に合わせて設えられている。
たとえば、大屋根に包まれたエントランスホールの壁を彩るのは、白い唐紙と黒い鋳物のオブジェによるミヤケマイの作品。アクアイグニスが意味する「火と水」から連想される「光と影」をテーマとしたもので、1日のうちに表情が刻々と変化していく。
1棟ごとに木の種類の名前が冠された「オーガニック離れ宿」は、それぞれが個性的な間取りをした離れ。「栗」は山田佳一朗、「檜」は藤森泰司、「松」はトラフ、「杉」は廣田尚子といった実力派デザイナーがインテリアをコーディネートする。すべての離れには専用露天風呂が設えられてあり、自然を感じながら湯にゆったりと浸ることができる。
湯上りのひととき、特に楽しみたいのは読書。ライブラリーコーナーでは、トラフ建築設計事務所がデザインしたカラフルでユニークな机「コロロデスク」に、ブック・コーディネイターの内沼晋太郎がセレクトしたが並ぶ。6つのデスクにはそれぞれ水や火、土など独自のテーマによる本が置かれていて、知らず知らずに情報通になれること請け合い。
全体のコンセプトメーキングや総合ディレクションを手がけた建築家の赤坂知也は、「単なるエンターテイメントや癒しの枠組みを超えて、訪れる人の創造力を刺激する施設となってほしい」と語る。
なお、湯の山温泉郷の先に広がる鈴鹿国定公園は、見事な紅葉でも有名なスポット。この秋からは、大自然に抱かれたアクアイグニスで、二大カリスマシェフの競演とアーティストが織り成す空間を体験しに足を伸ばしてみてはいかがだろうか。
文/加藤 純
オーガニック離れ宿の「杉」。
廣田尚子による家具コーディネート。すべての離れには専用露天風呂付き。
離れ宿の「松」。
トラフ建築設計事務所による家具コーディネート。
離れ宿「栗」。
山田佳一朗による家具コーディネート。
離れ宿「檜」。
藤森泰司による家具コーディネート。
エントランスホール。
壁にミヤケマイの作品、照明は廣田尚子、
カウンター壁面の作品は諸泉茂。
アートディレクションを行った
アーティストのミヤケマイ。
のれんやサインの製作も担当した。