世界のデザイン空間
記念碑的名作の自邸を“再現”──シルバーハット
立ち上がる幾何学パズル──スティールハット
シルバーハット棟ではおもにアーカイブを展示する。氏自らが選んだ約100件のプロジェクトが、製本されて図書閲覧スペースに並んでいるほか、大橋晃朗のデザインによる家具なども収蔵している。
3.6メートル間隔に配されたコンクリートの柱が支えるのは、中央で屈折した菱形のパーツを組み合わせることで曲線を描くヴォールト屋根。この大小7つの屋根のうち、もっとも大きなものの下にあるのが“中庭”で、そこは屋外ワークショップスペースとして利用される他、海を眺める場所としても解放されている。
一方のスティールハットはこの美術館のために建てられた。まるで波間に顔をのぞかせた潜水艦の甲板よろしくスティールに覆われた建築は、コンテンポラリーアートの巨大彫刻のように海を見下ろす斜面に鎮座している。
トッズやミキモトから連なる作品群からは、あまり似た“血筋”を見つけることができないが、 内部に柱がなく壁面が支える空間はやはり伊東豊雄的と言えるだろう。そして、その壁に垂直なものは1つもない。
このスティールハット棟では氏の作品を展示している。建築模型が瀬戸内海をイメージした島々の上に乗って、壁の海に浮かんでいるのだ。
「4種の多面体が、結晶のごとく隙間なく連結されている」と説明されるスティールハット。ただ、立面図などを何度見返してもどことどことで区切れば4つの多面体になるのか判然としない。
それはまさしく“隙間なく”結びついているからなのだろうが、これを突き詰めたい人には問題を解くヒントが用意されている。それはオフィシャルサイトのトップページの、さらに片隅の正6角形にある。正6角形はちなみに各部屋のフロアの形態でもある。
「ペーパーモデル ダウンロード」をクリックすれば、一見やる気を削がれそうなほど複雑な展開図があらわれる。しかし、この図の見事に一繋がりになっている点こそ、スティールハットのシンプルにして複雑な構造を絶妙に言い当てている気がするのだが、皆さんはどう思われるだろうか。
(文・入江眞介)
© Toyo Ito & Associates, Architects