ライフスタイリスト

2012.06.01
さまざまな人たちが混じり合って熟成して

新しい文化創造が生まれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――具体的には、どんなことがありますか。

 

「たとえば青山1丁目で店を出そうと思って歩行量調査を行うと、圧倒的に30~40代の男性サラリーマンが多い。従来型のマーケティング手法で考えれば、その人たち向けにターゲットを絞った居酒屋とかラーメン屋さんとかいう業種が考えられます。でもその人たちは移動している人たちですよね。もっと留まっている人、あるいは青山1丁目の半径500m以内に住みついている人たちの生活環境を考えると、まったく違う客層が見えてくる。ここにカフェがあれば地元に住んでいる人にとってはリビングであり、仕事をしている人にとっては打ち合わせスペースであり、いろんな使い方ができるようになる。そんなシーンに多種多様な人々が集まり、みんな同じ仲間になるわけで、そうやって地域に合ったコミュニティができてくる。いわばサードプレイスとしての場所ができるわけです」

 

 

 

“縁側”的な集いの場

としてのカフェの役割

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――サードプレイスとは?

 

「アメリカの社会学者レイ・オールデンバーグが1980年代に発表した著書“サードプレイス”のことで、成熟した都市では新しい居場所(プレイス)が必要であるという概念です。都会で暮らすには3つの場所が必要であり、ファーストプレイスが自宅、セカンドプレイスが職場(学校)、そしてその中間にあるのが、くつろぎの拠点であるサードプレイスであるという定義です。パリではカフェ、ロンドンではパブ、アメリカではスターバックスさんがそれを目指しました。だから我々は日本におけるサードプレイスをつくろうと創業したわけです」

 

 

――そういう場所って都会には少ないかもしれませんね。

 

「欧米に比べて日本は家も狭いし、オフィスも堅苦しくて就業時間も長い。都市が成熟していけばいくほど、ちょっとユルさをもったスペースっていうのが社会的に失われている気がします。我々の展開するカフェでは、昼休みに同僚と食事をしながらくつろいだり、仕事の合間にちょっと本を読みにくるとか、夜は取引先とビールを飲みながら打ち合わせをするとか、多様な使われ方をされています。まさにご近所の“縁側”的な集いの場であり、江戸時代の“茶屋”的な情報交換の場であり、みんなが集まって語り合う“ちゃぶ台”的な場となっています。ですから1日に何度もお見えになるお客様もいらっしゃいます」

 

 

 

食べること・旅することが

生きるためのキーワード

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――TABE(食べ)/TABI(旅)というユニークな持論を展開されていますね。

 

「食べることと旅することは、僕に限らず誰でもが好きなテーマだろうと思っています。だからカフェに集まる人々が、永久にどう生きたいかというキーワードとしてTABE(食べ)/TABI(旅)を掲げています。この2つの言葉はローマ字にしても似ていますが、日本語でも同義語ではないかと調べてもらったら、やはり関係があるんですね。旅(たび)の“び”は、食べの“べ”が変化した大和言葉で、食べる方向に向かう意味があるそうです。まさに食することは命であり、旅することは人生であると思っています。旅することは、食べることに向かうチャレンジです。未知の世界に飛び込んで、自分の可能性を広げます。この2つをカフェという場で提供できたら、それは楽しいことですよね。いわばライフスタイルの基本になることだと考えています」